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ブレーキを減らすことで疾走速度は高まるか?

疾走中はブレーキと加速の繰り返し

走っていて足が地面に着いている最中は、必ず「ブレーキと加速」を伴います。

 

足が地面に接地した瞬間から、自分の体にはブレーキがかかり、いったん減速します。その後、接地位置よりも重心が前に移動することではじめて、身体を加速させることができるわけです。

 

 

 

 

さて、ここでいう接地のブレーキというのは、高いスピードを出す必要がある短距離や、スピードを長く維持し続けないといけない長距離においても、あまり良くないイメージを持つことが普通なのではないでしょうか?

 

ブレーキを少なくすることで、身体はさらに加速することができ、より速く走ることができるだろうと、「できるだけ、身体の真下付近に接地しよう」という意識やトレーニングは多く見受けられます。

 

当然、過度なブレーキをかけるのは速く走るために好ましいこととは言えません。なので、「ブレーキを極力減らしたい」という方向性は間違ってはいないでしょう

 

ただしやり方を間違ってしまうと、「逆におかしな走りになってしまう&させてしまう危険性」が高いテーマだとも考えられます。

 

そこでここでは

・ブレーキを減らせば、果たして速く走れるのか?

・ブレーキを減らそうとする意識やトレーニングでの注意点

 

について紹介し、スムーズな走りのイメージやトレーニングについて考えていくこととします。

 

 


疾走速度と接地・離地位置、ブレーキとの関係

足が速い人は、大きな加速力も、大きなブレーキ力も発揮している

まず、次のような研究があります。

 

「最高疾走速度と接地期の身体重心の水平速度の減速・加速 : 接地による減速を減らすことで疾走速度は高められるか(福田ほか,2004)」

 

ここでは・・・

・最高疾走速度と接地位置、減速に有意な相関関係はなく、ほぼ一定の値を示した。

 

・最高疾走速度の高い選手ほど、短時間で大きな減速力と加速力を生み出していた。

 

→これらのことから、疾走速度はブレーキを少なくすることで高まるのではなく、高いスピードで後方に移動する地面に対して、短時間に大きな加速力を発揮できる能力によって決定される。

 

と、結論付けられています。

 

 

高いスピードで走っている選手は、接地時間が短くなる傾向があります。なので、足の速い選手が短い時間で大きなブレーキと加速力を生み出していることは、当然と言えば当然かもしれません。

 

さらに、ここでは接地位置やブレーキの量は疾走速度に関係が無いとされています。これだけ読めば、接地位置やブレーキは選手特有のものであり、むやみに操作するべきではないと、捉えてしまう方も多いはずです。

 

しかしこの研究には、いくつか問題点もあると考えられます。

 

 

 

 

①疾走速度との関係しか見ていないため、「速い」と「上手い」の区別がない。

短距離走では、効率の良い動きだけではなく、様々な体力要素が疾走速度に関係しています。

 

なので、どれだけ「上手い走り」をしている選手でも、身長が高く、筋力、パワーに富んだ「下手な走り」の選手に負けてしまうことが容易にあり得るのです。

 

 

このことから分かるように、上の研究だけで、「接地位置やブレーキは操作してはならない」と言い切ることはできなくなります。

 

 

②最大スピードが上がり切ったら当然「減速と加速」は等しくなる

最大スピードに達するということは、「もうそれ以上スピードが上がらない」ということです。なので、ここで「減速だけが小さくなる」ということは、そこからさらにスピードが上がっていってしまうことになります。

 

最大スピードを決めるのは「どこまで加速できたか?」であるため、減速の小ささが大事になるのは当然「加速局面」になるはずです。

 

つまり、「減速を小さくする動き、技術がどれだけ大事なのか?」を調査するなら、最大スピード局面よりも、「加速局面」に着目すべきとも言えるわけです。

 

 

上手い選手は重心の近くに接地している?

最大無酸素パワーが等しいが、疾走速度が異なる選手の走動作の差

丸山と富樫(1985※紀要です)の研究では、無酸素パワーという体力要因が揃った条件で、疾走速度が異なる選手の動作について分析がなされています。

 

無酸素パワーとは、短時間でどれだけ大きなパワーを出すことができるかの一つの指標です。この無酸素パワーが同程度で、最大スピードが異なる選手の動作を比較すれば、走動作の「上手さ」を見出すことができると考えたわけです。

 

 

ここでは、以下のような結果が得られています。

・接地の瞬間、身体重心ー膝ー地面のなす角度が大きいほど、また、足首ー身体重心ー膝のなす角度が小さいほど、疾走速度が高かった。

 

・接地期中盤(重心が最も下がった時)の前後の大腿部の角度が大きいほど、疾走速度は高かった。

 

・接地期中盤から離地にかけて、腿上げ角度の変化が小さいほど、疾走速度が高かった。

 

・接地期中盤での膝関節、足関節の角加速度は、疾走速度が高い群で有意に高値を示し、特に足関節においては2.6倍も高かった。

 

 

これらのことをまとめると、走りが上手いであろう人の特徴は、

 

脚全体がやや伸びた状態で、重心の真下に近い位置に接地している。

 

接地の瞬間から支持期中盤までの、遊脚(前に運ぶ脚)のスイングが速い。

 

足関節のパワーを上手く発揮できている。

と、考えることができます。

 

 

 

 

 

 

「身体に近い位置で接地できている」と、最初に例を挙げた福田ほか,(2004)の主張とはやや異なることが分かるでしょう。

 

この研究では地面反力についての考慮はなされていませんが、身体に近い位置で接地できているときことは「短い時間でブレーキをかける」能力に優れている可能性があるわけです。なので、福田ほか,(2004)の、「短い時間でブレーキをかけ、高い加速力を得る」という主張と合致する部分もあります。

 

 

また、豊嶋と桜井(2018)の研究では、身長に対するストライドが同程度で、高いピッチを発揮している(つまり足が速い)選手は、身体重心により近い位置で接地を行っていることが報告されています。

 

さらに、以下の動画からも、どうやら一般ランナーと比較して、トップスプリンターは身体重心の真下近くに接地してそうだ・・・ということがイメージできると思います。

 

関連動画(エリートスプリンターと一般ランナーのフォーム)

 

 

トップスピードにつなげる加速局面では、ブレーキの小ささが重要

エリートスプリンターの加速局面における地面反力

最大スピードに達するまでの加速局面の後半では、やはりブレーキを少なくできることが、高い疾走速度の獲得に重要だと言われています

 

例えばColyer et al.(2018)は、スタート直後では、一歩一歩の加速力の方が、加速パフォーマンスにより関係していたものの、トップスピードに近づく加速後期に近づくと、「接地でのブレーキの小ささ」の方がパフォーマンスにより関連していたと報告しています。

 

 

これらのことから、ブロッククリアランス直後の数歩では、大きな加速力を獲得できる能力が、2次加速に差し掛かる付近では、減速が大きくならないような能力が重要であることが示唆されています。

 

超一流選手の加速~トップスピード

 

 

ブレーキの量やブレーキ時間を減らして、パフォーマンスを高める方法

トップスピードにつなげる2次加速では、潰れにくい「硬い脚のバネ」が重要

足の硬いバネを鍛えることは、短時間で体重を支え、より高いスピードを獲得するために非常に重要だと言われています。

 

この能力に長けていなければ、ブレーキを長くしたり、膝や足首を伸ばして身体を浮かせるようにしないと、いけなくなります。進みたいのは前方向なので、このような動作は速く走るために好ましい動きとは言えないでしょう。

 

ジャンプトレーニングでバネを鍛えたり、ウエイトトレーニングで基礎的な筋力を高めておくことが必要です。

 

アンクルジャンプ

 

スピードバウンディング

 

ハードルジャンプ

 

 

真下接地の注意点

より良いフォームを身に付ける練習では、「身体の近くに接地」よりも、接地点にいち早く「遊脚や腕を乗り込ませる」ことが重要だと考えられます。身体の近くに接地しようと足を手前に引き込む動作が強調されると、ハムストリングに余計な負担がかかったり、地面を押せる距離が自分の能力以上に短くなって、肝心の推進力が上手く得られなくなる可能性があるからです。

 

 

このような乗り込み動作が速いということは、ブレーキから加速に転ずるタイミングの早さを意味します。最大スピードを引き上げるためには、2次加速局面でこの動作の精度を上げていくことだとも言えるでしょう。

 

 

腕や腿の素早い振り込みも重視

素早い乗り込み動作を行うためにも、腕振りや腿を引き出すパワーが重要になります。なので、これらに関わる筋力を鍛えておくことは、乗り込みが上手くなるために必要なことだと考えられるでしょう。

 

ヒップフレクション

 

プッシュアップ

 

 

懸垂

 

加速局面、特に2次加速局面でどれだけスピードを高められるか?そのためにはどのような能力が必要なのかを考えて、トレーニングを考えてみましょう。

 

 

参考文献

・豊嶋陵司, & 桜井伸二. (2018). 短距離走の最大速度局面における遊脚キネティクスとピッチおよびストライドとの関係. 体育学研究, 17008.
・福田厚治, & 伊藤章. (2004). 最高疾走速度と接地期の身体重心の水平速度の減速・加速: 接地による減速を減らすことで最高疾走速度は高められるか. 体育学研究, 49(1), 29-39.
・丸山敦夫, & 富樫浩輝. (1985). 短距離疾走のパフォーマンスに及ぼす走技術の影響について. 鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学編, 37.
・Colyer, S. L., Nagahara, R., & Salo, A. I. (2018). Kinetic demands of sprinting shift across the acceleration phase: novel analysis of entire force waveforms. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 28(7), 1784-1792.

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