スプリント中の下肢関節に働く力


動作をコントロールするのは筋肉です。

 

また、筋肉をコントロールするのは脳などの中枢神経となります。

 

ここではスプリント中の下肢に、どのタイミングで、どの関節に、どのような力が働いているかについてみていきます。

 

 

脚の関節には、「股関節」「膝関節」「足関節」があります。

 

これらを伸ばしたり、曲げたりすること(伸展・屈曲)によって、スプリント動作が生まれます。

 

そして、これらがいつ、どのタイミングでどのような力が必要かを知ることは、「動作の見た目」鵜呑みにした非効率なアドバイス、動作意識を行わないためにも非常に重要になります。

 

 

 

 

☆スプリント中の下肢関節にはたらく力

 

 

 

 

 

※関節トルクというのは各関節を中心にはたらく回転力のことです。すなわち、ここでは大腿、下腿、足部を伸ばしたり、曲げたりする力です。

 

(股関節、膝関節、足関節と大腿、下腿、足部を色で対応させてありますが、あくまでトルクは関節に働く回転力なので誤解のないように…。)

 

 

 

この図からわかる、特に重要なことを以下にまとめます。

 

・股関節は、後方スイング中ずっと、伸展させ続けるような力を発揮していない。
 
・股関節は、前方スイング中ずっと、屈曲させ続けるような力を発揮していない。

 

・踵の引き付け時、膝関節を曲げるような力はほとんど発揮されていない。

 

 

 

これらが具体的にどういうことなのか、詳しくみていきましょう。

 

 

 

股関節は、後方スイング中ずっと、伸展させ続けるような力を発揮していない。

 

接地の後半部分、いわゆる地面から足が離れる少し前くらいには、すでに「腿を前に引き出す力」を働かせているということです。

 

腿を前に引き出す力を発揮させるタイミングが遅れると、走っているときに、脚全体が極端に後ろに残った上体になってしまいます・・・・・。

 

より早く、後方スイングに移るためには、自然に前へ振り出される下肢にブレーキをかける、「膝を曲げる、股関節を伸ばす強い力」が必要となります。

 

この時に深くかかわる筋肉が「ハムストリングス」という筋肉です。

 

ハムストリングスは「股関節を伸ばす+膝を曲げる」2つの役割を担っているため、この瞬間の肉離れを多く起こしてしまいやすいのです。

 

 

 

股関節は、前方スイング中ずっと、屈曲させ続けるような力を発揮していない。

 

上の後方スイングの逆バージョンです。
腿を前に引き出しているとき、股関節は、支持脚の横を通過したくらいのタイミングで、すでに「腿を後ろにスイングする力」を働かせているということです。

 

腿が身体の前にきて、上げの動作が見えてきたときには、すでに股関節を曲げるような筋力発揮はほとんどしておらず、「腿上げ」が見えた頃には股関節を伸ばす、腿を降ろす筋力発揮に移っています。

 

よく、腿を上げる筋肉として「大腰筋」という筋肉が挙げられますが、正しくは「腿を引き出す筋肉」とした方が誤解が少なくなることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、これらのことを無視して、「しっかり最後まで後方スイング、腿の引き出し」を行えば、それはバウンディングのように間延びした、間違いなくピッチの上がらない走りとなってしまいます。

 

 

 

 

 

踵の引き付け時、膝関節を曲げるような力はほとんど発揮されていない。

 

この「踵の引きつけ」意図的に膝を曲げるようにして起こすことではなく腿が高い速度で前へ引き出された結果、自然と引き付けられるということです。

 

踵を引き付けようと膝を曲げる意識はさほど必要ではなく、股関節を素早く前へ引き出すことが、踵の引き付け動作につながっているのです。

 

 

☆走動作への意識付け

 

これらのことを踏まえると、走動作への、より合理的な意識付けや、非効率な意識付けというものが見えてきます。

 

リズムよく、安定して前へ進んでいくために、よく用いられている意識付けの例として、次のようなものがあります。

 

 

「蹴ったらすぐに引き戻す」

 

「地面を蹴らない(あくまで意識)」

 

「腿を引き出したらすぐに落とす」

 

「身体の前での素早い腿の挟み込み」

 

 

アレンジ次第で、いくらでも意識付けの表現は考え出すことができます。

 

重要なことは、選手自身の特徴を把握して、選手の目的に合致した意識を創造するとです。
 
客観的な事実をもとに、選手自身の感覚を頼りに、より効果的な走動作の意識付けを日々探求していきましょう。
 

 

 

 

 

トップページへ

 

練習計画立案等、各種ご依頼はこちらから

陸上競技のバイオメカニクスとは

スポーツバイオメカニクスは、力学的な面からスポーツにおける身体運動を研究する、スポーツ科学の中の領域の一つです。簡単に言うと、スポーツの動作中に身体の動きがどうなっているか、どんな力が発揮されているかを分析していくことです。しかし、この研究で示される知見を表面上の理解のみで指導やトレーニングに持ち込...

≫続きを読む

速く走るために必要な2つの力

☆「走って前に進む」とは?トラック種目では、自分という物体をいかに早くゴールに送り届けることができるかを競う競技だと言えます。そのためには自分を加速させて、いかに高い速度を持たせられるかが重要となります。次のような物理法則があります。→短距離走の基礎知識「走りとニュートンの法則」F=ma (力=質量...

≫続きを読む

スプリント中の下肢の動き

☆スプリント中の脚の動き方スプリント中の「足」の軌道は以下のようになります。下肢は大腿、下腿、足の3つの部分があり、それらを股関節、膝関節、足関節の3つの関節でつないでいます。これらの関節が、伸展(関節を伸ばすこと)と屈曲(関節を曲げること)をすることで様々な動きができるようになっています。☆スプリ...

≫続きを読む

@フットディセント-Bミッドサポート

@フットディセント接地前の足を振り戻す(振り下ろす)場面ですが、接地直前のスイング速度が疾走速度と密接に関係します。速いものが地面に叩きつけられるのと、そうでないものでは、鉛直方向の力の大きさや、より速いミッドサポート期への移行(よく乗り込みの早さと表現される)が可能になります。Aフットストライク接...

≫続きを読む

Bミッドサポート-Cテイクオフで効率的に推進力を生む動き

ここでは、重心が足に乗り切った所から地面を離れるまでの効率的な動きについて紹介します。ここからが肝心の「前に進むための水平方向の力」を加えていく局面です。水平方向に力を効率的に加えることができる動きとできない動きを以下に示します。このように、水平方向に効率的に力を加えて、脚全体のスイング速度向上につ...

≫続きを読む

Dフォロースルー-Eフォワードスイング期での効率的な動作

脚が地面から離れて、前方へ引き出していく局面の効率的な動きについて紹介します。離地後は、高い後方スイングスピードの影響により下肢が後方へ振り出されます。ここから、脚をより早いタイミングで前方スイングに切り替えられなければ、俗に言われる「脚が流れる」というような現象が起きます。この、「脚が流れる」こと...

≫続きを読む

スプリント中の下肢関節に働く力

動作をコントロールするのは筋肉です。また、筋肉をコントロールするのは脳などの中枢神経となります。ここではスプリント中の下肢に、どのタイミングで、どの関節に、どのような力が働いているかについてみていきます。脚の関節には、「股関節」「膝関節」「足関節」があります。これらを伸ばしたり、曲げたりすること(伸...

≫続きを読む

スプリント中の骨盤の動き

ここでは、スプリント中の腰の動きを見ていきます。「骨盤を使え!」と、よく陸上競技場で指導者や選手が口にしているのを目にしますが、実際どう動いているのでしょうか。実はこの腰の動きを上から見てみると、歩いているときと走っている(全力に近い)ときでは動き方が少し違うのです。☆歩行時の腰の動きこのように、歩...

≫続きを読む

100m走中の脚の回復期に発揮される力・パワーの変化

100m走のレース中、選手はずっと同じ動作を繰り返しているわけではありません。スタートからの前傾姿勢からトップスピード局面まで身体を徐々に起こしていくというだけでも、大きな疾走動作の変化があると言えます。それに伴って各関節が生み出す力、パワーが変わってきます。各局面で必要とされる力、パワーがわかれば...

≫続きを読む

100m走でなぜ速度が低下するのか

スタートして最大スピードに達した後、人間はいつまでも最大スピードで走り続けることはできません。必ず減速します。世界の一流スプリンターであっても、3-7%の速度低下がみられます。「スタートの飛び出しが良くても後半置いていかれてしまう…。」「後半速度を維持するにはどうしたら良いですか?」という感想や質問...

≫続きを読む

スターティングブロックを科学する@(スタートと力発揮)

短距離走、主に100mで、クラウチングスタートからの素早い加速は記録に大きな影響を及ぼすといっていいでしょう。もちろんトップスピードが高いことは重要(「100mでのレースパターン」)ですが、スタートで大きく出遅れてしまえば、100mでのタイムは遅くなってしまいます。よって、中間疾走での良い動きのみで...

≫続きを読む

スターティングブロックを科学するA(スタートと動作)

「スタートと力発揮」において、水平方向への力発揮が重要であることを述べました。ここでは、次のことについて考えていきます。より水平方向への力発揮ができている選手の動きとはどのようなものか?より水平方向への力発揮を高める動作とはどのようなものか?☆力を加える方向が鍵?Morinら (2011)篠田ら (...

≫続きを読む

スターティングブロックを科学するB(スタートと意識、構えの姿勢)

スターティングブロックを科学する@(スタートと力発揮)スターティングブロックを科学するA(スタートと動作)で、スタートにおける水平方向への力発揮の重要性と倒れ込みと伸び上がりのバランス、体幹の前傾、1歩目までを考慮に入れることの重要性について紹介しました。ここでは、構えの姿勢やブロックの配置、意識に...

≫続きを読む

腕振りの役割―腕を振らないなんてあり得ない―

「腕はどのように振ったら良いのか?」短距離走の選手であれば、誰しも一度は考えることでしょう。腕振りに関しては、選手としても指導者としても、様々な考え方が存在します。以前、Twitterを使って次のようなアンケートを行いました。この結果から言えることは、・様々な意識で腕振りを行う人がおり、明らかに特定...

≫続きを読む

ブレーキを減らすことで疾走速度は高まるか?

☆疾走中はブレーキと加速の繰り返しスプリント走の足の接地局面では、必ずブレーキと加速を伴います。足が地面に接地された瞬間、自分の体にはブレーキがかかり、一旦減速します。その後、足の接地位置よりも身体重心が前方に移動していくことではじめて、身体を加速させることができるのです。さて、この接地時のブレーキ...

≫続きを読む

バトンパス精度を高めるための指標

2004年のアテネオリンピックにおいて、日本チームは4×100mリレーで過去最高の4位となりましたが、その後はメダルに届かない状況が続いていました。そこで2008年の北京オリンピックに向けて、テークオーバーゾーン前後10m範囲である40mのタイムを一つの指標にして、バトンパス精度を高める試みがなされ...

≫続きを読む

新アンダーハンドパス

2016年リオオリンピック時に日本チームが取り入れていたバトンパスは、2008年にメダルを獲得した時のそれとは少し異なります。2008年にメダルを獲得して以降、なかなかメダルに届かない時期が続きました。その最中の2014年のアジア大会。日本チームは中国にアジア記録を更新され、37秒台へと先を越されて...

≫続きを読む

最適なパス完了位置とは?

☆バトンパス完了位置バトン区間のタイムを短縮させるポイントの一つに、「パス完了地点」があります。テークオーバーゾーンのどこでバトンパスが完了したかによって、バトン区間のタイムが変わる可能性は高いため、これはリレーの戦略を考える上で非常に重要なポイントになります。☆100m走のレース分析からバトン区間...

≫続きを読む

コーナーリングを科学する

陸上競技の短距離種目では、200mや400mなど、曲走路を含む種目があり、曲走路で速度を落とさないように走る能力は非常に重要です。特に200m走や4×100mリレーの1走、3走では、曲走路で最大速度に到達するため、このコーナーリングの技術次第で、タイムが大きく変わる可能性があります。選手の中には直線...

≫続きを読む

膝のお皿が厚いほど足が速い??―膝関節モーメントアーム長と疾走速度の関係―

記事のタイトルを見て「???」となった方もいるかもしれません。膝のお皿の厚さと足の速さに一体どんな関係があるのでしょうか?ここでは、膝関節の簡単な構造と足の速さとの関係について迫っていきます。膝関節とは?膝関節はいわゆる「ひざ」のことであり、大腿骨、脛骨、膝蓋骨の3つの骨によって形成されています。大...

≫続きを読む

足の人差し指が長いほど足が速い?―スプリント力と中足趾節関節の関係―

中足趾節関節とはスプリントパフォーマンス向上において、股関節や膝、足首を伸ばしたり、曲げたりする筋力の重要性は多く知られています。しかし、人間の「脚」には、この股関節、膝関節、足関節以外にも関節が存在し、その一つが「足の指の関節」です。特に中足趾節関節(足の指の付け根部分の関節)は、接地中に地面を捉...

≫続きを読む

陸上短距離走者における「足の流れ」の原因と改善方法

「あの選手は足が流れてしまっている」「レース後半になると足が流れてしまって失速してしまう」と言うように、陸上競技、特に短距離走の指導現場において「足が流れる」という言葉は非常に多く使われていることでしょう。実際に、スプリントフォームの指導ポイントとして、指導書でも注目されていたり、研究テーマとして取...

≫続きを読む