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100m走でなぜ速度が低下するのか

100m走でなぜ速度が低下するのか

 

100m走では、スタートして最大スピードに達した後、いつまでも最大スピードで走り続けることはできません。必ず減速します。世界の一流スプリンターであっても、3-7%の速度低下がみられます(松尾ほか,2008)。

 

「スタートの飛び出しが良くても後半置いていかれてしまう…。」
「後半速度を維持するにはどうしたら良いですか?」

 

という言葉は、短距離走をやっていればしばしば聞かれることではないでしょうか?しかし、たいていの場合、これらの選手たちはトップスピードがそこまで高くないことが多いでしょう。100m走の記録を向上させるための基本はトップスピードです。

 

確かに、世界の一流スプリンターほど後半の速度低下が少なく、100m走タイムが良いほど速度低下率が小さいという報告(松尾ほか,2008)も存在します。しかし・・・

 

・トップスピードが高い選手はトップスピードに到達する距離が長い傾向がある

 

・トップスピードに達するまでの時間はレベルによってあまり差がない

(宮下,2012)

 

という知見から、

 

→トップスピードが高い選手は速度維持低下区間がそもそも短くなる

 

→100m走だけでみるとトップスピードが高いほど後半の速度維持能力が高いようなデータになる

 

ことが推測できます。

 

 

 

 

 

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やはり、まず見るべきは「いかにトップスピードを高めるか」です。しかし、いくらトップスピードが大事だと言っても、後半の速度維持を軽視していいということにはなりません。後半の減速を防ぐことも、100m走のパフォーマンス向上のためには必要不可欠なことです。

 

ここからは、遠藤ほか(2008)の研究を基に、主に動作の変化と力発揮に着目して、後半の速度低下の要因について見ていきます。

 

 

 

ストライド・ピッチの変化

減速局面では、最高速度局面と比較して、一般的にストライドはやや広くなり、ピッチが低下します。これは、支持時間と滞空時間の両方がやや増加することによって起きるものだと言われています。

 

よって後半の速度低下は主にピッチの低下が関係してくるものと考えられます。

 

接地・離地距離、地面反力の変化

接地位置はより前方に、離地位置はより身体の近くになる傾向があります。

 

※遠藤ほか(2008)より作成

 

また、支持期の鉛直方向、水平方向の力積を、最高速度時と速度低下時で比較してみると、ブレーキがやや増加、推進力がやや低下がみられます。鉛直方向の力積はあまり変わりません。

 

 

よって速度低下区間は、より前方に接地し、早めのタイミングで離地しているまたはそうせざるを得ない状況が起きていると言えます。

 

 

各関節角度・トルクの変化

股間節

主な違いは股関節を屈曲させる力の低下による、腿を引き出すタイミングの遅れにあると言えます。

 

※遠藤ほか(2008)より作成

 

「100m中の力発揮の変化」で、最大スピード局面では股関節を屈曲させる正のトルクパワー(腿を前に引き出そうと力を入れながら、腿を引き出すパワー)が重要であると述べました。

 

これと関連して、減速局面では、やはり腿を引き出す力の低下が速度低下に関係しているようです。

 

 

膝関節

速度低下局面では、最高速度局面と比較して、以下の特徴がみられています。

 

・接地直前の角度がやや大きい
・回復期前半の角度がやや大きい

 

※遠藤ほか(2008)より作成

 

接地直前の膝の角度がやや大きいことは、最高スピード局面と比べて、やや膝が伸びた状態で接地を迎えていることを示しています。そして、回復期前半の膝の角度が大きい(踵の引き付けが小さい)ことは、股関節を引き戻すタイミングと速さの低下によって、自然と踵が引きつけられる力が弱くなったことに起因していると思われます。
(踵は腿の引き出しとともに自然と引きつけられる→「フォロースルーからフォワードスイングでの効率的な動き」)

 

 

足関節

※遠藤ほか(2008)より作成

 

※遠藤ほか(2008)より作成

 

注目すべきは支持期の足関節トルク、正負のトルクパワーが減少し、関節角度は大きくなっているという点です。ここで、「あれ?足関節角度の変化は小さくて、固定する動きになるのが良かったのでは?」という疑問が生まれてくるかもしれません。

 

関連記事→「ミッドサポートからテイクオフでの効率的な動き」

 

・最大スピード局面と減速局面の足関節角度変化の違いを見ると、減速局面の角度変位が小さい

 

・速い選手と遅い選手の最大スピード局面の足関節角度変化の違いをみると、速い選手の方が角度変位が小さい

 

よって、「減速局面の走り方は、足関節角度変位が小さくて良い走り?」
ということになるのでしょうか?

 

実際、この動きをしていて最高スピード局面より遅いので、そういうことにはなりません。あくまで、足関節で大きな力を発揮できた結果として角度変位の少なさが生まれてこなければなりません。ではなぜ、減速局面において、足関節の角度変位が少なくなったのでしょうか?

 

おそらく、足関節や膝関節を伸ばす筋力が疲労してくることによって、より大きな関節角度(足首や膝がより伸びた状態)でしかうまく力が発揮できなくなる。
接地前の膝関節、足関節が伸びて、下腿がより後傾する。
身体が浮いたような走りになる。

 

ことが原因なのではないかと考えられます。接地側の距離が長くなり、離地側の距離が身体から近くになったのもこの原因からかもしれません。

 

いずれにしても、足関節をうまく使ってしっかりと地面に力を伝えることが重要なのであり、角度変位さえ小さくできればいいというわけではありません

 

そのため、「足関節の角度が変わらないように疾走しようとする。」ことは必ずしも好ましい意識とは言えない場合もあります。足関節のパワーをしっかりと発揮させることが重要です。

 

 

 

まとめ

100m走後半の速度低下は

 

・足関節を底屈させる(つま先を下げて地面を押す)力、パワーの減少

 

・股関節を屈曲させる(脚を前に引き出す)力、パワーの減少

 

 

・接地直前に足、膝がより伸びた状態になる

 

・下腿の倒れ込み角度減少

 

・ピッチの低下

 

 

・接地中のブレーキがやや大きくなり、加速がやや減少

 

 

 

 

これらが主な原因として考えられます。

 

したがって、体力トレーニングの視点で考えると、股関節屈曲の発揮パワーや持久性を向上させたり、SSC運動を伴う足関節底屈運動(足首のみを使って連続ジャンプ、縄跳び等)で足関節底屈パワーの持続性を高めることで、100m後半の速度低下を防ぐことができるかもしれません。

 

これらの目的地を理解した上でトレーニング内容を考えてみて下さい。

 

 

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参考文献

・遠藤俊典, 宮下憲, & 尾縣貢. (2008). 100 m 走後半の速度低下に対する下肢関節のキネティクス的要因の影響. 体育学研究, 53(2), 477-490.

 


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