サイト全記事一覧へ

~サイト内の関連記事を検索~


サルでもわかる、パワーと筋力の違い(パワーとは何か?競技に生かすには?)

パワーと筋力の違い(パワーとは何か?競技に生かすには?)


「短距離走にはパワーが必要!」

 

「パワーがないと高くジャンプはできない!」

 

「もっとパワーをつけたい」

 

 

スポーツやトレーニングを行っている人であれば、このような話はよく耳にするはずです。

 

 

しかし、「パワーがある」とはどういうことなのかきちんと説明できる人は非常に少なく、なかなか正しい理解はなされていないのが現状でしょう。パワーとは、瞬発力があることなのか、筋力があることなのか、スピードがあることなのか…あやふやなイメージのまま使ってしまうことは多いのではないでしょうか?

 

 

ここでは「パワー」とはいったい何なのか?スポーツやトレーニングに生かせるパワーとは何なのか?について紹介していきます。

 

 

 

パワーとは何か

 

スポーツやトレーニングで良く用いられる「パワー」とは力学用語で「仕事率」のことを指します。

 

「仕事」とは「物体に力を加えて動かす」ことです。力を加えても、物体が動かなければ仕事をしたことにはなりません。

 

 

 

 

図のように、3の力を矢印の方向に加えながら、5の距離動かした場合、3×5で15の仕事をしたことになります。しかし、たとえ10の力を加えても、物体が動かなかった場合10×0で、仕事量は0。すなわち仕事をしなかったことになるのです。

 

 

ここで「仕事率(パワー)」について考えてみましょう。

 

仕事率とは、時間当たりの仕事量のことです。つまり、15の仕事を3秒で終えた場合、15÷3で、仕事率(パワー)は5となります。

 

 

 

式に表すと

 

力×距離÷時間=仕事率(パワー)

 

と、なることが分かります。

 

また、距離÷時間=速度…となるので

 

力×速度=パワー

 

という式が出来上がります。つまり、力が強くてもスピードが遅ければパワーは低くなってしまう。反対にスピードは速くても、力が弱ければパワーは上がらないということになります。

 

力を筋力に置き換えると、パワーとは「どれだけの筋力を、どれだけのスピードで発揮できるかを表す能力」ということになり、これが理解できれば筋力とパワーの違いが明確に分かるようになるはずです。

 

 

 

 

パワーのピークは最大筋力の30-35%

 

パワー=力×速度

 

という話をここまでしてきました。つまり、「大きな力を速いスピードで発揮できたらパワーはどこまでも向上していく」ことになります。しかし、実際そう上手くはいきません。

 

「筋力とスピードの関係を徹底解説」でも紹介した通り、筋肉には「収縮速度が高くなるほど、力を発揮しにくくなる性質」があります。

 

例えば、重いものを動かすには大きな力が必要です。そして重いものを動かそうとしたとき、そう速くは動かすことができないはずです。一方、軽いものは素早く動かすことができますが、大きな力は必要ありません。

 

 

 

図は、この筋力と速度の関係を表したものになります。スピードが高くなればなるほど発揮できる筋力は下がっていき、やがては0になります。対して、スピードが0の時、発揮できる筋力は最も高くなり、これが俗に言う最大筋力というものです。

 

 

このように「パワー=力×速度」とはいっても、筋力と速度にこのような関係がある限り、パワーは無限には上がっていきません。筋力も発揮できスピードも高い、もっともバランスの取れたところでパワーは最も大きくなります。

 

上の、力-速度曲線でパワーを計算してみると、以下の図のようになります。

 

 

 

このように、図の真ん中からやや左の、「最大筋力の約30-35%付近」で発揮できるパワーは最大になります。これはほとんどすべての筋肉に共通していることです。

 

つまり、最大筋力の30-35%くらいの負荷が最も仕事の効率(パワー)が良いということです。例えて言うと、省エネを狙って自転車で自家発電をする場合、ペダルの負荷を最大筋力の30-35%にするともっとも効率よく(エネルギーの消耗を無駄にせず)発電することができる…と言うものです。

 

 

 

パワーを高めて、競技に活かすためには?

 

最大筋力の30-35%でパワーが最大になるのなら、その30-35%の負荷でトレーニングをするのがパワーを高めるのに効果的だという考え方はできます。

 

 

もちろんそれは間違っていません。実際に最大筋力の30-35%の負荷か、それよりもやや軽めの負荷を用いて、スピードを意識したトレーニングをやると、発揮できるパワーの最大値を向上させることができます。

 

 

しかし、これは最も効率よくパワーを発揮できる、最大筋力の30-35%でのパワーの最大値のことであって、実際の競技でのパフォーマンスを高めるためには、その種目に応じた負荷でのパワーを高めることが重要になります。

 

例えば砲丸投げであれば、砲丸の重さという負荷で発揮できるパワーを高めなければいけません。砲丸の負荷と言うのは必ずしも最大筋力の30-35%であるとは限りません。

 

テニスであれば、さらに軽い負荷でのパワーを高めて、比較的軽いラケットをスピーディーに、かつ力強く振れるようにならなければいけません。

 

このように、実際の競技に活かすためには、最終的にはその競技の負荷に応じたパワーを高めなければなりません。

 

 

 

競技に活かすパワーの高め方

 

ベーシックな筋力を向上させる

競技でのパワーを向上させるための手段として、まず一つがベーシックな筋力を向上させるということです。筋量を増やしたり、最大筋力を向上させることで、発揮できるパワーのポテンシャルを高めることができます。

 

 

 

競技時より重い負荷や、軽い負荷でスピードを意識したトレーニングを行う

競技に求められる負荷とは異なる負荷でパワートレーニングを行うことで、競技に求められる負荷でのパワーのポテンシャルを高めることができます。

 

 

 

その競技そのものの練習をしっかりやる

そして、やはり最終的には、競技そのものの練習をしっかりと行い、その競技でのパワー発揮を高めていく必要があります。

 

ここで、最終的に競技そのものの負荷でトレーニングをするのが大事なら、最初から競技の練習だけをやっていればいいのではないか?との疑問が出てくるかもしれません。

 

ですが、その競技の練習だけではパワーの向上の頭打ちが早く来てしまうことも事実です。他の筋力トレーニングやパワートレーニングをしっかりやって、土台を作っておくことで、競技練習によるパワー向上の伸び代は段違いとなることでしょう。

 

 

まとめ

 

・物体に力を加えて動かすことを「仕事」という。力を加えても、物体が動かなかったら仕事はゼロになる。

 

・単位時間当たりの「仕事」を「仕事率(パワー)」という。

 

・仕事率(パワー)は「力×速度」で表すことができる。

 

・筋肉には、速度が高いと大きな力を発揮できず、逆に速度が低いと大きな力を発揮できる特性がある。

 

・人間が最も効率よくパワーを発揮できる負荷は、最大筋力の30-35%付近になる。

 

・競技力向上のためのパワーアップには、ベーシックな筋力を向上させることや、競技でかかる負荷とは異なる負荷でスピードを意識したトレーニングを行うことで土台を作り、最終的には競技そのものの練習をしっかり行う必要がある。

 

 

参照文献

・石井直方(2015).石井直方の筋肉の科学.ベースボール・マガジン社.
・山地啓司, 大築立志, 田中宏暁 (編), スポーツ・運動生理学概説. 昭和出版: 東京(2011).

 

 

サイト全記事一覧へ

~サイト内の関連記事を検索~


Youtubeはじめました(よろしければチャンネル登録お願いします)。