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運動なしで、勝手に熱を発生させる身体の仕組み(褐色脂肪細胞、UCP、サルコリピン)

運動なしで、勝手に熱を発生させる身体の仕組み(褐色脂肪細胞、UCP、サルコリピン)


「トレーニングで最も熱を発生させる負荷とは?(筋トレと熱生産)」にて、運動をすると、力学的なエネルギーだけではなく、一緒に熱も発生させていることを紹介しました。

 

 

何かものを動かそうとしても、発生させたエネルギーの半分以上は熱として逃げて行ってしまうなんて、なんだかもったいない気もします。ですが、この熱を生み出す仕組みは人間が体温を保ち、生命活動を維持するために重要な働きを担っているのも事実です。

 

 

例えば、寒いと身体がブルブルと震えてしまうことがあります。これはシバリング(震え)と呼ばれ、身体を震えさせることによって熱を生み出し、体温が下がらないようにしようと起こる現象だと考えられています。このように、震えることで熱を生み出すことを「震え熱生産」と言います。

 

 

一方、動物には、震えずとも熱を生み出す仕組みが備わっており、この現象を「非震え熱生産」と言います。

 

 

「非震え熱生産」には、ある脂肪細胞や、あるタンパク質が重要な働きを担っていることがわかっており、これがダイエットにも使えるのではないか?と注目を浴びています。

 

 

ということでここからは、その「非震え熱生産」に関わる脂肪細胞やタンパク質について紹介していきます。

 

 

 

褐色脂肪細胞

 

非震え熱生産としての役割を担うものに、「褐色脂肪細胞」という脂肪細胞があります。これは、脂肪をエネルギー源として燃やすことで、熱を発生させる脂肪です。脂肪を燃焼する脂肪・・・なんだか共食いみたいな感じですね。

 

 

普通の脂肪細胞には、エネルギーを作り出すミトコンドリアという赤っぽい色をした器官が存在しています。そして、褐色脂肪細胞にはこのミトコンドリアが多く存在しているため、褐色に見えるのです。

 

 

褐色脂肪細胞は、クマやリスのように冬眠する動物に多く見られるようです。秋の間に脂肪を蓄え、その脂肪を少しずつ燃焼させながら、体温を維持して冬を越すというわけですね。

 

 

この褐色脂肪細胞は人間も持っています。主には胸からわきの下に多く「胸から脇あたりを中心に運動をして、褐色脂肪細胞を活性化させれば、ダイエットに効果的!」と一時期はやっていました。

 

 

もちろん褐色脂肪細胞が熱を勝手に生み出してくれているのは間違いないのですが、実はこの褐色脂肪細胞。人間には40g前後しかないと言われています。褐色脂肪細胞が果たしてどの程度脂肪を燃焼させているかはよくわかっておらず、体重のより多くを占める筋肉の方がずっと大きな役割を果たしているのではないか?とも考えられています。

 

 

 

ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)

 

脂肪の中のUCP1

 

褐色脂肪細胞は、なぜ勝手に熱を生み出すことができるのでしょうか?実は、それに深く関わっているタンパク質があるのです。

 

 

それが、UCP(ミトコンドリア脱共役タンパク質)です。

 

 

人間は通常、脂肪を分解したときのエネルギーを利用して、筋肉を動かすためのエネルギー源(ATP)を作り出しています。

 

 

しかし、このUCPは、脂肪を分解したときのエネルギーを、筋肉のためのエネルギー源を作るのに使わずに、そのまま熱として逃がすような働きをするのです。よって、身体を動かさずとも、脂肪を分解して熱を発生させることができるというわけです。

 

 

この褐色脂肪細胞のなかのUCPは、UCP1と呼ばれます。このUCP1は個体差があり、正常なUCPが作れる人と、作れない人がいることがわかっています。しかも、正常にUCP1を作れない人が、日本人には約20%いるようです。

 

 

正常にUCP1が作れないと、冷え性や低体温の原因にもなり、1日あたりの消費カロリーが100㎉ほど少なくなります。これは10日で1000㎉、1年で、36500㎉。すなわち体重5kgに相当します。

 

 

したがって、このUCP1が作れない人が、いわゆる「太りやすい体質」と呼ばれることになるわけです。

 

 

 

筋肉の中のUCP3

 

このUCPですが、実は筋肉の中にもあることが分かりました。筋肉の中のUCPをUCP3と言います。

 

 

筋肉は褐色脂肪細胞よりもはるかに多いため、全体でみると非常に多くの熱を生み出している計算になります。そのため最近では、褐色脂肪細胞よりも筋肉のUCP3の方が注目を浴びているようです。

 

 

また、UCP3は、遅筋線維よりも、速筋線維に多く含まれていることが分かっています。

 

 

速筋の中でもミトコンドリアが多いのが、タイプⅡaの筋線維なので、このタイプⅡaの速筋が、「非震え熱生産」の主役とも呼べるわけです。

 

 

遅筋線維にもミトコンドリアが多く含まれているのですが、UCP3が少ないため、「非震え熱生産」は大きくありません。また、長時間にわたるような持久トレーニングや有酸素運動、マラソンなどをたくさんこなしている人は、UCP3の活性がかなり低くなることも分かっています。

 

 

これは、長時間の運動に対応できるように、できるだけエネルギーを消費しないように体が適応した結果であるとも言えます。マラソン選手や、競歩選手が、競技をやめてしまうと途端に太ってしまうことが多いのはこれが影響しているものと考えられます。

 

 

 

新しい非震え熱生産の主役「サルコリピン」

 

近年、非震え熱生産の役割を担う、さらに重要なタンパク質として「サルコリピン」と言うものが発見されました。このサルコリピンは筋肉に含まれており、UCPと同じように、筋肉を動かさずとも熱だけ発生させることができるタンパク質です。

 

 

実際に、サルコリピンを作ることができないようにしたネズミと、通常のネズミを気温4℃の部屋に入れ、体温の変化を観察すると、サルコリピンを作れないネズミだけ、グングン体温が下がり、動かなくなってしまったことが確認されています。

 

 

同じように、褐色脂肪細胞があるネズミと、無いネズミでやってみても、特に両者に問題はなかったようです。これらのことから、身体が熱を生み出す主役となっているのは、サルコリピンであるということが分かります。

 

 

 

痩せやすい体質を作るためには?

 

これまで紹介してきた「非震え熱生産」に関わるタンパク質を増やすことができれば、身体が勝手に熱を生産する量が増え、痩せやすい体質を作ることができるでしょう。

 

 

まず、UCP3を増やすには、それが多く含まれるタイプⅡaの速筋線維を増やすことが重要でしょう。筋力トレーニングをすることによって、これらの筋肉は増やすことができます。また、持久性に乏しいタイプⅡxの速筋線維も、筋力トレーニングをすることによって持久性の高いタイプⅡaに移行することが分かっています。マラソンのような長時間の持久運動はUCP3の働きを弱めてしまうため、痩せやすい体質づくりには効果的ではないでしょう。

 

 

さらに、サルコリピンを増やすためには、やはりそれが含まれている筋肉の量を増やしていくことが重要になるようです。

 

 

このように、最終的にはしっかりと筋力トレーニングを行い、速筋線維をしっかりと増やしていくことが、冷え性や肥満改善のために大変重要だということが分かります。

 

 

 

まとめ

 

・運動せずに身体が勝手に熱を生み出す現象を「非震え熱生産」という。

 

・非震え熱生産に関わるのは「褐色脂肪細胞」と「筋肉」のミトコンドリアに含まれるタンパク質であり、筋肉に含まれる「UCP3」や「サルコリピン」の働きが非常に大きい。

 

・これらのタンパク質を増やすには、長時間の持久運動は行わず、しっかりと筋力トレーニングを行うことが重要であり、これが肥満や冷え性などの体質改善に大きく貢献する。

 

 

 

参照文献

・石井直方(2015).石井直方の筋肉の科学.ベースボール・マガジン社.

 

 

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