人はどのように食欲をコントロールしているか?
体脂肪を減らそうと運動をしても、なかなか痩せられない人がいます。運動をして、消費エネルギーは増えているはずなのにいったいどうしてなのでしょう?
考えられる原因として、最も有力なのが「運動をした分、多くエネルギーを摂取している」ことです。つまり、運動をどんなに頑張ったとしても、食欲をコントロールできなければ、体脂肪を減らしていくことは難しくなってしまうのです。
では、そもそも食欲というのはどのようにコントロールされているのでしょうか?
人間の2つの摂食行動
なぜ食べるのか?と聞かれたら、それは「エネルギーを摂取して健康状態を維持するため、餓死してしまわないため」となるでしょう。このような摂食行動を「恒常性維持に関わる摂食」といいます。
一方、人間の場合、「美味しいから食べる」という側面が存在します。おなかはいっぱいだけど、デザートは食べたい、別腹!といったことはよく耳にしますよね?このような摂食行動を「嗜好性に基づく摂食」といいます。
では、この2つの摂食行動について詳しく見ていきましょう。
嗜好性に基づく摂食
美味しいものを食べると、「美味しい!!食べてよかった!!」と感じるはずです(当たり前の極みのようなことですが)。
これと同じように・・・
宝くじが当たって「よかった!」
パチンコで勝った!「よかった!」
スポーツの試合で勝った!練習してきて「よかった!」
など、何かいいことがあると「快感・報酬」が得られるわけです。
そして、予想よりもすごく「よかった!」と感じた時、脳の中の「報酬系」という機構が働き、それにつながった行動がさらに強化されます。
この報酬は、脳の前頭前野という場所で判断されます。そして、予想よりも大きな報酬が得られた場合、中脳の腹側被蓋野へ情報が送られ、ドーパミンを側坐核と言われる部分に放出します。
その結果、強い快感が得られ、それにつながった行動が強化されていきます。
つまり、美味しいものを食べて「すごくおいしい!」と感じると、その食べ物がもっともっと欲しくなるというわけです。
恒常性維持に関わる摂食
恒常性維持に関わる摂食は、簡単に言うと「命を守るために食べる」ことです。動物はエネルギー不足になると、飢餓になり、生命活動を維持できなくなってしまいます。
そのため、エネルギー不足を感知して、何か食べようとする働きが備わっているのです。
これにおいて、重要な働きを担っているのが、脳の視床下部に存在する「摂食中枢」という部位です。この摂食中枢は体のエネルギー状態を感知する働きがあります。
空腹時には、血糖(グルコース)の濃度が下がり、脂肪酸の濃度は上がります。摂食中枢は、この血糖や脂肪酸の濃度を感じ取って、摂食行動を起こすスイッチを入れるのです。
また、脳の視床下部には「摂食中枢」とは逆の役割を担う、「満腹中枢」も存在しています。満腹中枢は逆に、血糖の高さ、血中脂肪酸濃度の低さを感じ取って、摂食行動を抑える働きがあります。もしもこの満腹中枢がなかったら、人はどんなに食べても食べることをやめることができなくなってしまいます。
その他、食欲をコントロールしている因子
消化管ホルモン
小腸は、そこに入ってきた栄養素を感知し、コレシストキニン(CCK)やグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、ペプチドYY(PYY)などの消化管ホルモンを分泌します。
これが、脳まで作用することで、摂食行動が抑えられます。
つまり、小腸に食べ物が入ってくると、おなか一杯になりやすい…ということですね。
また、胃から食べ物がなくなると、それを感知して、胃から「グレリン」というホルモンが分泌されます。このグレリンは、食欲を促す働きを持っています。
レプチン
レプチンは、脂肪細胞から分泌される物質です。痩せていき、脂肪細胞が小さくなっていくとその分泌量が減り、食欲が増進します。
逆に、少し太ってきて、脂肪細胞が大きくなると、その分泌量が増え、食欲が抑えられます。
これはつまり、1回1回の食事による、食欲の変動ではなく、長期的に見た食欲の変動に関わる物質であるということです。最近やたら食欲が増えたなあ…、減ったなあ…、と感じる原因はこれにある可能性があります。
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