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「太る?腎臓に悪い?」陸上選手のプロテイン・タンパク質に対する正しい知識

プロテインとは何か?その効果は?

プロテインは筋肉が付く魔法の粉でもなんでもなく、protein=タンパク質です。

 

家庭科の授業などで、三大栄養素として「炭水化物、脂質、タンパク質」がある...と皆さん勉強すると思いますが、プロテインとはその中のただの「タンパク質」のことを指します。薬物でも何でもありません。食品です。

 

巷では「プロテインは筋肉作りに大切」という強いイメージがあるようです。しかし、髪や爪、皮膚、骨、腱、血液...etc、他の身体の組織もタンパク質を材料にして作られます。

 

そのため、陸上競技をやって日々トレーニングに励む選手であれば、どの種目を専門にしていようがタンパク質を十分に摂取しておく必要があるわけです。

陸上選手にタンパク質はどれくらい必要?

タンパク質の必要量

トレーニングを行うアスリートに必要な1日のタンパク質の量は、体重1㎏あたり1.6g以上と言われています。これは体重60㎏の人で、1日100g程度の量です。

 

 

鶏の胸肉に換算すると約400gと、これは普段タンパク質に気を使っていない人にとっては多い印象を抱く量かもしれません。この量を毎日確保しながらトレーニングを積むことで、筋肉量や筋力向上度合いがUPしたり、リカバリーが促進されたり、怪我を防止したりすることにつながります。

 

また、いくら「トレーニング後にプロテインを飲んだ!」からと言って、1日全体の量が確保できていなければ効果は得られにくいと言われています。なのでまず大切なのは、1日トータルの摂取量の確保です。

 

※Schoenfeldほか(2013)より作成

 

・第21回「超面白くないけど、最も重要な、筋肉量・筋力UPのための食事方法」

 

・第23回「身体作りの基本となる栄養摂取ほど面白くないものはない」

 

 

減量時にはもっと多くのタンパク質が必要

減量中には「より多くのタンパク質が必要」だということは、あまり知られていません。減量中で摂取エネルギー量を抑えている場合は、体重1kgあたり2.3g以上のタンパク質摂取が推奨されています(Close et al.,2019)。

 

なぜ減量中ほどタンパク質を増やさないといけないかというと、それが筋肉量の維持につながるからです。摂取エネルギーが減って体重が減少している中だと、筋肉は分解されやすい状態になっています。ここでタンパク質をより多く摂ることで、筋肉の分解を防ぐことができるというわけです。

 

実際に、Longlandほか(2016)の研究では、筋力トレーニングやインターバルトレーニングを行いながら、摂取カロリーを普段の40%制限し、かつタンパク質摂取量を1日体重1㎏あたり1.2gから2.4gに増やしました。

 

その結果、体脂肪がより減少したのに加えて、除脂肪体重の増加がみられています。つまり、脂肪が減って筋肉が付いたというわけです。したがって、減量中ほど積極的にタンパク質を摂るべきなんです。

 

ちなみに体重1㎏あたり2.3gというタンパク質は、体重60㎏の人で138gです。一食当たり50g近くの摂取が必要です。鶏むね肉なら毎食200g程度になるので、そこそこ多い量であることがお分かりいただけるでしょう。

 

・陸上短距離、長距離、跳躍選手の減量と実践例(なぜ痩せられない?)

 

 

キーポイント

・基本的には1日体重1㎏あたり1.6g以上のタンパク質を摂取することを最優先。

 

・タイミングよりも、まずは1日全体の量を優先。

 

・減量時ほど、より多くのタンパク質が必要(体重1kgあたり2.3g以上)

 

 

プロテインにまつわる嘘

プロテインに関して、巷で様々なうわさ話を聞くことがあります。ここからはその「うわさ話」のいくつかについて、解説していきます。

 

 

うわさ①~プロテインは太る~

結論から言うと、プロテイン(タンパク質)のせいで太る(体脂肪率が増える)という可能性はかなり低いと言えます。人がなぜ太るのかというと、消費エネルギーよりも摂取エネルギーが多くなるからです。プロテインを飲んだら太るわけではありません。

 

太ったという人は、ほとんどの確率で「タンパク質以外の栄養過多」で太っています。

 

 

また、タンパク質は、炭水化物や脂質よりも確実に太りにくいと言える根拠があります。それが食事誘発性熱生産と呼ばれるカロリー消費です。

 

人間は、栄養素を体内で消化・吸収する過程でもカロリーを消費しています。炭水化物や脂質は、摂取したエネルギーの約10%程度が、食事誘発性熱生産として使われます。1000kcal摂取しても、100kcal分は勝手に消費されると言うわけです。

 

しかし、タンパク質の食事誘発性熱生産は20ー35%まで上がります。タンパク質は1000kcal摂取したところで、200―350kcalは勝手に消費されます。おまけに満腹感も持続しやすいことも分かっています。「プロテインは太りやすいサプリメントである」というのは間違いです。

 

 

うわさ②~プロテインはトレーニング後に飲まないと意味がない!?~

プロテインというと、トレーニングを行った直後に摂取しているイメージがあると思います。これは、運動後30分ー数時間はタンパク質の合成が高まりやすいと広く言われているからです。

 

なので、ここでプロテインを摂取することで効率よく筋肉の合成を高めることができるというわけです。

 

※Churchward-Venneほか(2012)より

 

しかし先述の通り、筋肉をつける、リカバリーを促す、パフォーマンスを高めるために最優先させるべきは1日のタンパク質の必要量を満たすことです。摂取のタイミングは二の次であることが分かっています。トレーニング直後に摂らなければ意味がないということは、決してありません。

 

※Schoenfeldほか(2013)より作成

 

このような研究からも分かるように、「プロテインはトレーニング直後に飲まなければ効果がない」なんてことはありません。最も重要なのは1日全体の必要量を確保することです。なので、トレーニングが休みの日であっても不足していれば摂取すべきなのです。

 

・トレーニングしてない日にプロテインを飲んでも意味がない?(太るだけ?)

 

 

うわさ③~プロテインは腎臓に悪い?~

「タンパク質は腎臓で処理されるため、多く摂取すると腎臓に悪い」という話を耳にします。

 

しかし、結論から言うと1日に体重当たり2gそこらの摂取では、腎臓にダメージを与えることはないということが分かっています(Devriesほか,2018)。むしろ、筋肉量を維持・向上させていくためにはそれくらいの摂取は必要であると言えます。

 

 

キーポイント

・タンパク質(プロテイン)は他の栄養素に比べて「食事誘発性熱生産が高い」「空腹感を抑える」ので、太りにくい栄養素。

 

・プロテインはトレーニング後以外のタイミングで飲んでいい。むしろ不足していればいつでも飲むべき。

 

・プロテイン(タンパク質は)腎臓に悪い...なんてことは無い。安心して飲もう。

 

プロテインはいつ、どれくらい飲むべき?

プロテインはいつ飲むべき?

「タイミングは二の次だ!」という話をしてきましたが、もちろんタイミングも大事です(二の次に)。おススメのタイミングは以下の通りです。

 

トレーニング後

筋肉の合成が高まりやすいタイミングなので、ここでタンパク質を補給するというオーソドックスな考え方です。

 

就寝前

寝ているときは食事が摂れず、筋肉の分解が進みやすい状態ともいえるので、寝る前にタンパク質を補給しておこうという考え方です。

 

Snijders et al.(2015)の研究では、筋力トレーニングを実施させながら、就寝前に27.5gのプロテインと15gの糖質を摂取させた群と、何も摂取しなかった群で、筋力や筋肉量の増加度合いを比較しています。

 

その結果、プロテイン摂取群では筋力の増加度合い、大腿四頭筋の太さの増加度合いが高くなっていました。特に、タイプⅡaの筋肉量の増加度合いは約2倍となっています。

 

※Snijders et al.(2015)より作成

 

・寝る前のプロテイン摂取は、筋肉量を増やす効果的な戦略である

 

 

どれくらい飲むべき?

プロテインの飲み方欄に書いてある説明として、よくあるのは一回20g程度です。この量の基になっている情報というのが、筋トレ後に20-25gのプロテインを摂った時が最もタンパク質の合成が高まり、それ以上摂取してもさらにタンパク質の合成が高まることはなさそうだ…とする研究です(Witardほか,2016)。

 

基本的にはこれで問題はないと言えますが、トレーニング量によってはもう少し増やしてもよさそうな場合は多いです。Macnaughtonほか(2016)の研究では、全身をトレーニングさせたあと、20g or 40gのプロテインを摂取させ、その反応を除脂肪体重の重さごとに調べています。

 

その結果、除脂肪体重の重さに関わらず、20gよりも40gの方がタンパク質の合成が高まりました。

 

 

 

このように、全身激しくトレーニングするような場合、40gくらいプロテインを摂取しても、特に問題はなさそうです。トレーニング量や、その1日のタンパク質摂取量を基に考えてみましょう。

 

・最適なプロテイン摂取量は、体重よりもトレーニング内容による

 

 

足りていれば、当然効果は得られない

プロテインのみならず、あらゆるサプリメントは「不足分を補う」ことが目的の代物です。摂れば摂るほど効果が上がるものではありません。

 

基本的には食事で意識して摂る、それで足りない分を補うのがあるべき姿です。下図は高齢者が対象の研究ですが、十分栄養が足りていれば、プロテインを飲んだだけで、特別良いことがあるわけではないことが分かるでしょう。

 

 

 

・タンパク質が足りていれば、タンパク質を余分に摂っても効果はないという当たり前のことについて

 

参考文献

・Schoenfeld, B. J., Aragon, A. A., & Krieger, J. W. (2013). The effect of protein timing on muscle strength and hypertrophy: a meta-analysis. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 10(1), 53.
・Morton, R. W., Murphy, K. T., McKellar, S. R., Schoenfeld, B. J., Henselmans, M., Helms, E., ... & Phillips, S. M. (2018). A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med, 52(6), 376-384.
・Graeme L. Close , Craig Sale, Keith Baar,Stephane Bermon(2019)Nutrition for the Prevention and Treatment of Injuries in Track and Field Athletes.Int J Sport Nutr Exerc Metab, 29(2), 189-197.
・Longland, T. M., Oikawa, S. Y., Mitchell, C. J., Devries, M. C., & Phillips, S. M. (2016). Higher compared with lower dietary protein during an energy deficit combined with intense exercise promotes greater lean mass gain and fat mass loss: a randomized trial. The American journal of clinical nutrition, 103(3), 738-746.
・Churchward-Venne, T. A., Burd, N. A., & Phillips, S. M. (2012). Nutritional regulation of muscle protein synthesis with resistance exercise: strategies to enhance anabolism. Nutrition & metabolism, 9(1), 40.
・Devries, C. D. et al. (2018) Changes in Kidney Function Do Not Differ between Healthy Adults Consuming Higher- Compared with Lower- or Normal-Protein Diets: A Systematic Review and Meta-Analysis, The Journal of Nutrition, Volume 148, Issue 11, November 2018, Pages 1760–1775.
・Snijders, T., Smeets, J. S., van Vliet, S., van Kranenburg, J., Maase, K., Kies, A. K., ... & van Loon, L. J. (2015). Protein ingestion before sleep increases muscle mass and strength gains during prolonged resistance-type exercise training in healthy young men. The Journal of nutrition, 145(6), 1178-1184.
・Witard, O. C., S. L. Wardle, L. S. Macnaughton, A. B. Hodgson, and K. D. Tipton. 2016. Protein considerations for optimising skeletal muscle mass in healthy young and older adults. Nutrients 8: doi: 10.3390/nu8040181.
・Macnaughton, L. S., Wardle, S. L., Witard, O. C., McGlory, C., Hamilton, D. L., Jeromson, S., ... & Tipton, K. D. (2016). The response of muscle protein synthesis following whole‐body resistance exercise is greaterfollowing 40 g than 20 g of ingested whey protein. Physiological reports, 4(15).
・Zhu, K., Kerr, D. A., Meng, X., Devine, A., Solah, V., Binns, C. W., & Prince, R. L. (2015). Two-year whey protein supplementation did not enhance muscle mass and physical function in well-nourished healthy older postmenopausal women. The Journal of nutrition, 145(11), 2520-2526.

プロテインだけ飲んでればいいわけではない

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