☆睡眠とは
ヒトのみならず、動物は活動と休息を繰り返しながら生きています。
ヒトの睡眠は
・夜間に連続して眠る
・浅い眠りと深い眠りを繰り返す
これら2つの特徴があり、一晩徹夜したからといって、次の晩の眠りが2倍の睡眠時間にはならず、深い眠りを多く出現させることでそこまでの睡眠時間を要さずとも回復します。
1964年にアメリカの高校生が行った「何時間眠らずにいられるか」という実験があります。そしてこの高校生は264時間(約11日間)連続して眠らずに過ごすことができ、その後14時間40分寝ただけですっかり元気になったとのことです。
しかし、断眠中はかなり睡魔に負けかけることが多かったらしく、友人による応援がなければここまで断眠を続けることはできなかったようです。
ヒトは必ず眠ります。なぜ眠るのかについては未ださまざまな議論がなされている状態です。
考えられている睡眠の機能、役割というものは
・免疫系と内分泌系の回復
・神経系と代謝コストの回復
・シナプス可塑性、学習と記憶の促進
主にこの3つであり、最近の研究では主に睡眠は、身体よりも脳に対して大きなメリットを生むことが示唆されています。
このように、認知機能、身体機能の再生、準備のための、様々な生理的機能、心理的機能を確保に、睡眠は大変重要なことであると同時に、アスリートにとってその意味はさらに大きなものとなるはずです。
よって、睡眠が短期的に、長期的にパフォーマンスに及ぼす影響について理解し、良質な睡眠を妨げになる要因とその改善策を知ることは非常に有益なことでしょう。
☆眠らないと生理学的にどうなるか
◎グリコーゲンの貯蔵が遅れる
男子アスリートを対象にした研究では、30時間の断眠により、通常と比較して筋グリコーゲン濃度が低下したという報告がなされています。起きている時間が長くなり、エネルギー消費が多くなったことや、呼吸商が大きくなったことを考えれば当然のことでしょう。
30時間断眠というのは普通に考えれば現実的ではないように感じられますが、毎日の睡眠不足が続くことによって筋グリコーゲン濃度や回復に影響を与える可能性は十分考えられるでしょう。
また、筋グリコーゲン不足は筋のみでなく、脳にも影響を与えるため、仕事効率も低下します。
◎自律神経系のバランスが崩れる
36時間の断眠により、心臓血管系調節の交感神経活動増加、副交感神経活動低下が起こることが報告されています。
この自律神経系の乱れは、オーバートレーニングやオーバーリーチングの状態の徴候の一つでもあります。
自律神経系は身体機能を維持するという非常に重要な役割があるため、これが悪い方に乱れると、トレーニング効果もパフォーマンスも下がります。
適切なトレーニングとリカバリーを繰り返し、パフォーマンスを上げる過程では、良い意味で自律神経系の増強(副交感神経亢進と交感神経活動低下)が起こります。
よって、副交感神経を優位にすることで、より良いパフォーマンスUPが望めるはずです。
しかし、断眠はその逆の効果を生んでしまうということです。
適切な睡眠が、この自律神経系のバランスを維持するために重要なのであれば、アスリートはしっかり睡眠をとらなければならないということは間違いありません。
◎内分泌系が変化し、筋リカバリーが遅れる
睡眠時間が減少すると、血中のコルチゾールというホルモン濃度が増加し、成長ホルモンがうまく働かなくなります。
よって、筋肉などの組織の分解状態が強くなりやすくなり、これによってタンパク質の合成が低下し、長期的に見ると筋力の低下やリカバリー能力の低下につながる可能性もあります。
◎その他
免疫力が落ちる可能性や、呼吸循環系機能、体温調節機能に影響を与える可能性が示唆されていますが、これらははっきりしていません。
かなりの時間の断眠(30-72時間)を経たのちでも呼吸循環系、体温調節系には変化がなかったか、僅かな差しか認められていないようです。
これらのどれをとっても、寝不足はアスリートにとって少なくともメリットをもたらすことはないと言えるでしょう。
参考文献
・Hausswirth & Mujika(2013):Recovery for performance in sport. Human Kinetics.