一概に筋力といっても、様々な要因が絡んできます。
ここでは様々な運動時の「力発揮」にかかわる要素を、筋力の面から大まかに分類して紹介していきます。
☆最大筋力
その名の通り、筋肉が出し得る最大の力です。
これは筋の断面積、神経系の効率、速筋線維の割合で決まってきます。
初心者がトレーニングしたり、高重量でトレーニングしたりした時、初期は筋の動員率が高まりやすいため、割と早く筋力が上がります。
しかし、この動員率はいつまでも伸び続けるわけではなく、その後は筋の断面積が増える(俗にいう筋肥大)ことによって筋力が伸びていきます。
(実際は初期でもわずかながら筋肥大は起きますが、筋の動員率改善による筋力アップの度合いが高いため、神経系の改善による筋動員率UP→筋肥大といった認識が一般的です)
そして、速筋「線維」の比率は先天的なものなのでどうしようもないのですが、トレーニングして速筋線維を肥大させれば速筋と遅筋の割合は変えられます。
☆スピード筋力
低速だと大きな筋力が発揮できるが、速度が高いと発揮できる筋力は小さくなる。
これは筋肉の、「力・速度関係」として知られています。
100kgのバーベル持ち上げる時は、大きな筋力は出せるがゆっくりとしか挙げられない。
しかし、20kgでは大きな筋力は出せないが速く挙げられます。
速いスピードでも強い力が発揮できる方が、特にスプリント競技においては有利になると言えます。
→「筋力と収縮スピードの関係」
☆力の立ち上がり率
筋力を立ち上げるのに時間がかかる人もいれば、素早く最大筋力に近い力を発揮できる人もいます。
最大筋力を発揮するまで普通であれば0.3-4秒以上かかると言われていますが、実際のスポーツでのジャンプやフットワークの一つ一つにかかる時間は0.2秒以下、スプリントにおいては0.1秒以下になるため、最大筋力が高くても、筋力立ち上げの速さが高くなければ競技になかなか繋がらないことがあります。
パワークリーンやスナッチなどで爆発的にバーベルを持ち上げることも積極的に取り入れるといいかもしれません。
☆弾性筋力
連続ハードルジャンプをする時
脚が地面に着く
→その瞬間脚に高い負荷がかかり筋肉、腱が引き延ばされながら力を発揮。
→引き延ばされた後、高い力で短縮して爆発的なパワーを生み出す。
→身体が宙に浮く。
この時のように筋、腱が引き延ばされ、切り返しで短縮して発揮する筋力が弾性筋力です。(伸張-短縮サイクル運動、SSCと呼ばれる)
ハードルジャンプが連続でできないレベルの人は最大筋力の向上や力の立ち上がり率を改善させる事で、連続ジャンプができるようになる可能性がありますが、レベルが上がってくると最大筋力とこの弾性筋力の関係は低くなっていくようです。
スプリント種目では、この腱の力をうまく利用できるかどうかがパフォーマンスに大きく影響します。
さらに、大きな力を発揮するものの、筋肉自体は長さが変わらない等尺性の筋収縮(アイソメトリック収縮)であるため、余計なエネルギーを消費しづらく、また、腱自体はまったくエネルギーを消費しないので非常にエネルギー効率が良いのです。
長距離選手に対する筋力トレーニング、プライオメトリックトレーニングによって、走りの経済性が改善されるといった研究が多くなされていますが、この弾性筋力向上も、その一つの要因だと考えられます。
→「切り返し運動①」、「切り返し運動②」、「バネの力をうまく使う」
これらのように、スポーツの場面で「力」を発揮するにしても、いろいろな要素が絡んできます。
特に速い動き、非常に短い接地時間での力発揮が求められるスプリント種目では、いくら最大筋力が高くても、速い収縮速度での力発揮や、力の立ち上がり率が悪ければ結局力は発揮できず、腱の力がうまく使えなくても、パフォーマンスは上がりにくいでしょう。
これらの各要素は、競技そのものを練習することでも向上可能ですが、別個に専門的にトレーニングすることも有効です。
最大筋力であればウエイトトレーニングで筋肉を大きくしたり、筋の動員率を改善させたり、
力の立ち上がり率なら、爆発的なパワートレーニング(スナッチやパワークリーン等)や反動を使わないジャンプトレーニング
弾性筋力であれば、短い接地時間でのジャンプトレーニング(バウンディング、ホッピング、連続ハードルジャンプ等)です。
自身の筋力発揮の面での長所や短所を分析して、是非これらのトレーニングにも取り組んでみて下さい。