ロングスプリント生理学B(緩衝能力)

 

☆解糖系からのエネルギー供給を制限する要因

 

高いレベルで無酸素性のエネルギー供給をずっと続けることができない要因の一つに、筋肉内の水素イオン(H+)の増加があります。

 

高強度の運動にかかわる解糖系からのエネルギー供給では乳酸が必ず発生し、体の中で乳酸イオンと水素イオンに分かれるため、その水素イオン(H+)のせいで筋肉内はやや酸性に傾きます。

 

筋肉内の水素イオン(H+)が増えると解糖系を働かせるのに必要な酵素がうまく機能しなくなり、その結果解糖系からのエネルギー供給力が落ちてしまうという報告が幾つかなされています。

 

 

しかし、人間の身体には水素イオンの増加に伴う酸性への傾きを抑えるための働きが備わっており、それが今回取り上げる「緩衝能力」というものになります。

 

 

☆緩衝能力とは?

 

この「緩衝能力」とは、乳酸生成とともに発生する水素イオンを血液中の重炭酸イオンによって水と二酸化炭素にしてしまい、筋肉内のph低下を防ぐというものです。

 

そして、この時に発生する二酸化炭素は、エネルギー供給過程で直接的に出された二酸化炭素とは別であると判断できます。

 

したがって、この緩衝作用によって生み出された二酸化炭素は、過剰な二酸化炭素として、この「緩衝能力」を決定する指標として扱われています。

 

 

 

 

 

この「緩衝能力」に優れているということは、より無酸素系からのエネルギー供給を得られる能力が高いことであると考えられ、400mや800m等のパフォーマンスに良い影響をもたらすものと推測することができます。

 

 

実際に、緩衝能力の指標である、過剰Co2排出量と20―40秒程度の自転車全力ペダリングの平均パワーに有意な正の相関、400m走の記録との間に有意な負の相関が認められており、この緩衝能力に優れているものほど、解糖系への依存度が高い競技のパフォーマンスは良くなるものと考えられています。

 

 

 

 

 

 

このように、緩衝能力に優れているほど、より解糖系からのエネルギー供給を行うことができ、(その結果多くの酸素負債、多くの乳酸を生み出すことができる)パフォーマンスが高いということが言えるわけです。

 

では、この聞き慣れない能力を高めるにはどのようなことをしたら良いのでしょう?

 

 

 

☆重炭酸ナトリウムを摂取(非推奨)

 

重炭酸ナトリウムを摂取し、400m走をすると、プラシーボ摂取時と比較して記録が1―1.5秒良くなったという面白い研究があります。

 

これを飲むと血液中の重炭酸イオンが増加し、筋肉から水素イオンがより流れやすくなるということのようです。

 

しかし、自分自身の緩衝能力が向上するわけではありません。

 

さらには良くトレーニングされた選手での実験ではパフォーマンスの向上はあまり見られなかったこと、重炭酸ナトリウム摂取は胃腸に不調を及ぼしやすいことを考慮するとあまり推奨できるものではありません。

 

 

 

 

☆間欠的スプリントトレーニング

 

400などの距離を300+100、200+200等に分け、プラス間に不完全な休息を挟んでスプリントトレーニングを行うというものです。

 

これはスピードエンデュランス、ストレングスエンデュランスと呼ばれ、世界記録保持者のマイケルジョンソンも良く取り入れていたという専門的なスピード持久のトレーニングです。

 

このトレーニングでは、そのまま同じ合計距離を走ってしまうのと比較して、過剰な換気量が多いことが特徴で、緩衝能力を高めるのに有効である可能性が示されています。

 

 

 

また、レベルの高い選手はこの休息時間が短くなるほど最高乳酸値が高くなり、逆にレベルが低い選手では休息時間が長くなるほど最高乳酸値が高くなるようです。

 

これはレベルの高い選手ほどクレアチンリン酸の再合成や筋の緩衝能力に長け、短い休息でも無酸素系からのエネルギー供給が多く行える可能性というところにつながります。

 

 

 

これらのことから、レベルによって間欠的スプリントトレーニングにおける最適な休息時間や距離は変わってくるものと推測できるでしょう。

 

あまりにも回復しすぎず、あまりにも速度が落ちすぎずに走りきれる設定といったところでしょうか…。

 

プラスの距離時にヘトヘトになって大きく速度が落ちた状態になってしまう設定では、きついかもしれませんが、乳酸値はあまり上がらないでしょう。

 

ある程度高い努力度で最後までスピードが落ちすぎない設定でスプリントを行うことが重要で、そのギリギリのラインを見極めて設定タイムを日々向上させていくべきです。

 

 

 

 

 

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