「実は悪影響も!?」陸上競技におけるアイシングの効果と適切な方法




「実は悪影響も!?」陸上競技におけるアイシングの効果と適切な方法を科学的に解説




 

「練習が終わったらアイシングをするのは、アスリートなら当然のことだ!」

 

「アイシングは疲労回復に効果的!」

 

「アイシングをしないとケガにつながる!」

 

 

トレーニングを行っていると、このような話をよく耳にするのではないでしょうか?

 

 

しかし、結論から言うと、アイシングは怪我予防として有効な手段であるとは言えません。また、アイシングは翌日のパフォーマンス改善には効果がありますが、トレーニング効果を高めるためには悪影響があることも分かっています。ですが、ひどい肉離れをしてしまった時などは、その処置としてアイシングを利用することは必要になってきます。

 

 

とても、ややこしいですが、要は「アイシングには使い分けが必要だ」ということです。

 

 

ここからは、アイシングを科学的な知見からきちんと理解して、スポーツの現場で適切に使い分けができるようにはどのような点に気を付けたら良いのかについて紹介していきます(以下,Hausswirth& Mujika(2013):Recovery for performance in sport.を中心に解説)。

 

 

 

アイシングをすると、身体に何が起こるの?

 

そもそもアイシングをすると、身体にどんな反応が出るのでしょうか?それをまとめたものが以下の通りです。

 

・代謝活性の抑制(エネルギーの利用を抑える)

 

・毛細血管の収縮

 

・浮腫(運動後のむくんだような感じ)による炎症を抑える

 

・痛感覚の減少(痛みを感じにくくなる)

 

・筋肉の弾性の低下

 

アイシングをすることによって、筋肉の温度が下がり、これらのような反応が得られるのです。そして、このような反応が起きることで、疲労回復度合いや、トレーニング効果などに様々な影響を与えます。

 

 

では、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか?

 

 

 

疲労回復に与える影響

アイシング直後のパフォーマンスへの影響は?

運動後にアイシングを行うことによって、無駄なエネルギーの消費や筋肉痛、炎症が抑えられることが分かっています。しかし、アイシングを行った直後は筋肉の温度が低下しているため、大きなパワーを発揮したり、そのパワーを持続させるような能力は落ちてしまします。

 

 

すなわち、次の運動で高いパフォーマンスを発揮しなければならないとき、その直前にアイシングを行うと悪影響を与えてしまう場合があるということです。アイシングを行ってから次の運動を行うまでは、30分以上間隔を空けるといいでしょう。再びきちんとウォーミングアップを行えば、アイシングによる直後のパフォーマンス低下は防ぐことができます。

 

 

 

その日の次の運動・翌日のパフォーマンスへの影響は?

アイシングを実施すると、特に筋持久力を要するパフォーマンス改善に効果的だと言われています。これには、アイシングをすることによって筋機能が改善したり、筋肉痛が抑えられたりすることが関係しています。また、強度の高い運動で発生する筋損傷を防ぐことにも役立つため、その後の運動や、翌日の運動パフォーマンスを改善させる目的としては、アイシングは非常に有効な手段だと言えるでしょう。

 

 

これに関して、Tavaresほか(2018)の研究では、3週間のトレーニング期間中に冷水浴(10度の水に10分浸かる:計12回実施)を行った群と、何もせずトレーニングだけ実施した群で、トレーニング中の筋肉痛度合いや、垂直跳びのパフォーマンスの違いを検討しています。

 

 

その結果、冷水浴を行った群では、筋肉痛の度合いや垂直跳びのパフォーマンスが、やや改善されていました。このことから、短期間のトレーニング期間中に冷水浴などのアイシングを行うことで、疲労を感じにくく、高いパフォーマンスを発揮できるようになることが示唆されています。

 

 

このように、アイシングを行うことは、次に続く運動のパフォーマンスや、翌日の疲労度合いを改善させ、高いパフォーマンスを発揮するのに効果的だろうということが分かります。

 

 

 

 

トレーニング効果への影響

 

近年では、アイシングなどのリカバリー方法が、トレーニングの適応を阻害してしまうのではないか?との知見が多く生まれています。

 

筋力向上・筋肉量増加に及ぼす影響

Broatchほか(2018)の研究では、冷水浴の実施が筋力トレーニングの効果に及ぼす影響について、複数の研究を基に考察しています。そこでは、冷水浴を行うことによって、筋力トレーニングの効果が阻害されてしまうと結論付けられています。

 

 

 

 

 

 

また、Yamaneほか(2006)の研究では、筋損傷や浮腫は筋力向上や筋量増加にとって必要なものであり、アイシングなどのリカバリーによってこれらを取り除くことは、トレーニング効果を減少させてしまうことにつながると述べています。

 

 

これらのことから、トレーニング後にアイシングばかりやっていると、長期的な筋力トレーニングの効果を損なってしまうことが分かります。

 

 

 

持久トレーニングの効果への影響

一方で、持久トレーニングの効果は、アイシングをすることによってその向上度合いが高まるかもしれないと言われています。

 

 

これは、アイシングが、持久力に関わるミトコンドリアという器官や血管の生合成を促すからだと考えられています(Jooほか,2016)。

 

 

このことから、持久的なパフォーマンスを向上させるためには、トレーニング期間であっても、アイシングを活用することは有効に働くかもしれないことが分かります。しかし、アイシングによって持久的な運動パフォーマンスの向上はみられなかったとする研究(Broatchほか,2018)も多く、この点についてはさらなる研究が必要だとも言われているようです。

 

 

ただ、陸上の中長距離選手がパフォーマンスを向上させるためには、持久的な能力のみならず、筋力やパワーをつけて、スピードを向上させることも必要です。そのような目的で筋力トレーニングを行う際には、注意が必要だと言えます。

 

 

 

 

キーポイント

・運動直前のアイシングは、パフォーマンスを低下させるので避けるべき。30分以上の間隔を空けて、ウォーミングアップをし直す。

 

・その後や翌日のパフォーマンス改善のためにアイシングは有効に働く。

 

・しかし、日常的に長期間実施すると、主に筋力トレーニングの効果を損なう(持久トレーニングの効果については曖昧なところ)。

 

 

適切な効果が得られる、アイシングの実践方法

 

アイシングをすると言っても、適切な方法を用いないと狙った効果を得ることはできません。以下では、筋温を低下させ、生理的な効果を得るために有効であろうアイシングのやり方をまとめています。

 

 

※Hausswirth & Mujika(2013)より

 

 

きちんとアイシングの効果を得るためには、上記のよう実施が必要です。少量の氷をガチャガチャと数分当てるだけでは効果は得られません。

 

 

やるのであればかなり大きめな氷嚢を用意して、600g以上の氷を入れ、湿った布などの上から当てるようにすると良いでしょう。

 

 

 

参考動画

 

 

 

冷水浴に関しては、スポーツの現場で動画のような専用のバスを用意するのは実際難しい面があります。そのような場合は大きいポリバケツを用意し、水と氷を入れて、腰あたりまで浸からせます。

 

 

現場で試行錯誤しながら、かつアイシングを時と場合によって使い分けながら、パフォーマンスを向上させるためのアイシングを日々考えていきましょう!

 

 

 

 

参考文献

・Hausswirth & Mujika(2013):Recovery for performance in sport. Human Kinetics.
・Tavaresほか(2018)Effects of Chronic Cold-Water Immersion in Elite Rugby Players. International Journal of Sports Physiology and Performance, 14(2):156-162.
・Yamane, M., Teruya, H., Nakano, M., Ogai, R., Ohnishi, N., & Kosaka, M. (2006). Post-exercise leg and forearm flexor muscle cooling in humans attenuates endurance and resistance training effects on muscle performance and on circulatory adaptation. European journal of applied physiology, 96(5), 572-580.
・Broatch, J. R., Petersen, A., & Bishop, D. J. (2018). The influence of post-exercise cold-water immersion on adaptive responses to exercise: a review of the literature. Sports Medicine, 48(6), 1369-1387.
・Joo, C. H., Allan, R., Drust, B., Close, G. L., Jeong, T. S., Bartlett, J. D., ... & Gregson, W. (2016). Passive and post-exercise cold-water immersion augments PGC-1α and VEGF expression in human skeletal muscle. European journal of applied physiology, 116(11-12), 2315-2326.

 

 


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