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ヒップスラストは特に水平への力発揮能力(スプリント能力・立ち幅跳び)向上に効果的?(ヒップスラストのトレーニングでの位置づけ)

スポーツのパフォーマンス向上に、今やウエイトトレーニングは欠かすことのできない存在です。

 

ウエイトトレーニングを用いて、筋力を向上させることはスポーツのあらゆる面で有利に働くことでしょう。

 

特に、誰よりもいち早くスピードを立ち上げ、加速する能力(スプリント加速能力)は、陸上競技の短距離走のみならず、サッカーやバスケットボール等の球技パフォーマンス向上にも役立ちます。

 

 

このスプリント加速能力は、地面に対して水平に力を発揮する運動であるとされます(図)。そのため、その動作や運動方向の類似性から、ウエイトトレーニングの中でも「ヒップスラスト」という種目が注目を集めています。

 

 

 

 

 

 

 

参考動画

 

 

図のように、ベンチに背中をつけ、股関節にバーベルを挟みます。この状態から股関節を伸展させる(お尻を持ち上げる)ことで、臀部周辺の筋肉を刺激できるトレーニングです。

 

 

 

 

ヒップスラストがパフォーマンス向上に及ぼす影響

 

ヒップスラストは水平への力発揮能力を高める?

Contreras(2017)が実施した研究で、6週間のヒップスラストとフロントスクワットがパフォーマンスに及ぼすそれぞれの影響の違いについて検討されています(対象者:14-17歳で1年以上のスクワットを含むトレーニング経験のあるもの。ヒップスラストの経験は無し)。

 

その結果、フロントスクワット群では垂直跳び、ヒップスラスト群では立ち幅跳びや、10m、20mスプリントタイムの向上率が高くなりました。

 

 

 

 

関連記事

 

・ヒップスラストの効果とスプリントパフォーマンスへの影響

 

 

 

このようなパフォーマンス向上度合いの違いがみられた理由に、「力発揮の方向による特異性」が挙げられています。

 

冒頭でも述べた通り、スプリント加速時には地面に対して水平方向に力を発揮する必要があります。立ち幅跳びも、垂直跳びと比較すると、より水平への力発揮が求められます。

 

ヒップスラストはフロントスクワットと比較すると、より人体に対して後ろ側、すなわち水平方向に力を発揮できるようなトレーニングであるため、このような効果の違いがみられたのだとされています。

 

しかし、実際のスプリント加速時や立ち幅跳びでは、身体は前傾した状態にあります。

 

 

 

※Fitzpatrickほか(2019)より

 

 

図のように身体が前傾している状態では、直立時(人体と相対的に)と同じ方向に力を加えても、水平方向に力を加えることになります。よって、フロントスクワットのように鉛直方向に力を発揮するようなトレーニングでも、スプリント加速能力や、立ち幅跳びのパフォーマンス向上に効果的であるはずです。

 

 

この考えからすると、ヒップスラストは水平方向に力を発揮できる特異性があるから、水平方向への力発揮パフォーマンスを高めるという理屈は成り立たなくなります。

 

 

加えて、この研究の被験者はユース世代(14-17歳)でスクワットの経験はあるが、ヒップスラストの経験のないアスリートでした。そのため、ヒップスラストによる能力向上のポテンシャルが高く、ヒップスラスト実施群でパフォーマンスが著しく向上したという可能性も考えられています。

 

 

 

ヒップスラストは水平への力発揮パフォーマンス向上に特別に有用…ではないとする研究

 

Fitzpatrickほか(2019)は、「ヒップスラストが水平方向の力発揮パフォーマンスに特別に有用なら、鉛直方向の力発揮パフォーマンス改善があまり見られないはずだ」として、14週間のヒップスラストトレーニングが垂直跳びと立ち幅跳びのパフォーマンスに与える影響を調べています。

 

 

その結果、垂直跳びと立ち幅跳びの両方のパフォーマンスが向上し、両者の向上度合いに差はみられませんでした。

 

 

 

 

この知見は、ヒップスラストは垂直跳びと立ち幅跳びのパフォーマンス向上に有用であること、そして水平への力発揮が求められる立ち幅跳びに、特別に効果が高いわけではないことを示す一つの知見だと言えます。

 

 

さらに、ヒップスラスト経験のある大学生アスリートを対象に、8週間のヒップスラストトレーニング実施群と筋力トレーニング非実施群を比較した研究(Jarvisほか,2017)では、両群で40mのスプリントタイムの向上幅に差がみられていません。

 

 

ここまで述べてきたことをまとめると、ヒップスラストはジャンプ能力やスプリント加速能力向上に効果的である可能性はある。しかし、水平への力発揮能力向上に特別に効果が高いわけではなさそうだ…ということになります。

 

ただ、ヒップスラストは効果が薄いと言っているわけではありません。ヒップスラストは、他の種目と比較した利点がきちんとあります。以下、それについて紹介していきます。

 

 

 

ヒップスラストの利点は、臀筋群を効果的に刺激できること

 

お尻の筋肉(主に大臀筋)は、筋肉が短縮した状態、つまり股関節が伸びた状態の方が動員率が高くなります(Worrellほか,2001)。

 

そして、ヒップスラストは、スクワットなどと比較して、股関節がより伸展した状態で後負荷をかけることができるトレーニングです(Bezodisほか,2017)。

 

 

 

 

 

 

また、Andersenほか(2018)では、ヒップスラストは、バーベルデッドリフト、ヘックスバーデッドリフト(図を参照)と比較して、大臀筋の筋活動をより多く引き出すことが示されています。さらにはヒップスラストはバックスクワットと比較して、大臀筋の上部や下部、大腿二頭筋などを満遍なく刺激することができると言われています(Contrerasほか,2015)。

 

 

 

 

 

 

 

このように、ヒップスラストは大臀筋がより活動できる状態で、大きな負荷を比較的容易にかけることができるトレーニングであると言えるでしょう。

 

 

大臀筋のサイズや筋力は、スプリントやジャンプ能力など、あらゆるスポーツのパフォーマンスを向上させるための基礎であるため、臀筋群はウエイトトレーニングを用いて鍛えるべき優先順位が高い筋肉です。

 

 

筋肉量や筋力といった、筋肉の基礎的なパラメーターを高めておいて、そのうえで実際の競技パフォーマンスに直結するような練習(スプリントやジャンプなど)をきちんと行えば、パフォーマンスは向上していくはずです。筋肉のみを鍛えたからと言って、すぐに競技のパフォーマンスが向上するわけではありません。

 

 

また、スクワットでも大臀筋をトレーニングすることは可能ですが、スクワットで臀筋群を刺激できるようになるためにはある程度、スクワットのフォームを上達させておく必要があります。

 

 

その点、ヒップスラストは比較的動作の習得が容易で、臀筋群を効果的に刺激することができるので、スクワットが難しい、スクワットだけでは臀部への刺激が不十分…といった場合に非常に有用なトレーニングになるでしょう。

 

 

「動作や力発揮の方向が似ているので大事!(実際には似ていない)」と、ヒップスラストがもてはやされている現状がありますが、見た目だけの特異性にとらわれずに、トレーニング内容を選別していかなければなりません。

 

 

 

まとめ

 

・ヒップスラストはスプリント加速能力やジャンプ能力向上に効果的かもしれないが、水平方向への力発揮に特別に効果が高い…とは言い切れない。

 

・ヒップスラストは臀筋を効果的に刺激することができるトレーニングである。

 

・見た目が似ているトレーニングだからといって、パフォーマンス向上に特別に効果的であるとは限らない。
 

 

 

 

 

 

参考文献

・Contreras, B., Vigotsky, A. D., Schoenfeld, B. J., Beardsley, C., McMaster, D. T., Reyneke, J. H., & Cronin, J. B. (2017). Effects of a six-week hip thrust vs. front squat resistance training program on performance in adolescent males: a randomized controlled trial. The Journal of Strength & Conditioning Research, 31(4), 999-1008.

 

・Fitzpatrick, D. A., Cimadoro, G., & Cleather, D. J. (2019). The Magical Horizontal Force Muscle? A Preliminary Study Examining the “Force-Vector” Theory. Sports, 7(2), 30.

 

・Jarvis, P., Cassone, N., Turner, A. N., Chavda, S., Edwards, M., & Bishop, C. (2017). Heavy barbell hip thrusts do not effect sprint performance: an 8-week randomized–controlled study. The Journal of Strength & Conditioning Research.

 

・Worrell, T. W., Karst, G., Adamczyk, D., Moore, R., Stanley, C., Steimel, B., & Steimel, S. (2001). Influence of joint position on electromyographic and torque generation during maximal voluntary isometric contractions of the hamstrings and gluteus maximus muscles. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 31(12), 730-740.

 

・Bezodis, I.; Brazil, A.; Palmer, J.; Needham, L. Hip joint kinetics during the barbell hip thrust. ISBS Proc. Arch. 2017, 35, 184.

 

・Andersen, V., Fimland, M. S., Mo, D. A., Iversen, V. M., Vederhus, T., Hellebo, L. R. R., ... & Saeterbakken, A. H. (2018). Electromyographic Comparison of Barbell Deadlift, Hex Bar Deadlift, and Hip Thrust Exercises: A Cross-Over Study. The Journal of Strength & Conditioning Research, 32(3), 587-593.

 

・Contreras, B, Vigotsky, AD, Schoenfeld, BJ, Beardsley, C, & Cronin, J. A comparison of 24
 gluteus maximus, biceps femoris, and vastus lateralis electromyographic activity in the back squat and barbell hip thrust exercises. J Appl Biomech, 31: 452-458. 2015.



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