スポーツ競技者のためのアキレス腱痛対策(リハビリ・トレーニング・栄養摂取)

ダッシュやランニングを繰り返すような運動をしていると、アキレス腱の付着部である「かかと部分」や、かかとよりも数センチ上の部分が痛むことがあります。

 

 

走り始めは痛くても、慣れてくるとだんだん痛みが減ってきていつも通りトレーニングができるけど、次の練習開始時にはまた痛んでしまう。次第に痛みが増していって、トレーニングが継続できなくなってしまう。

 

 

このような症状を語るランナーやスプリンターは非常に多く、これが原因で競技成績を伸ばせず、最終的には引退まで追い込まれてしまう競技者も少なくありません。

 

 

そこで今回は「アキレス腱痛があるときにやってはいけないこと」「アキレス腱痛対策のためのリハビリ・トレーニング・栄養摂取」について紹介していきます。

 

 

 

アキレス腱について

 

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋とヒラメ筋)と踵部分をつなぐ腱であり、人体の中で最も大きな腱です。

 

 

 

 

 

 

 

アキレス腱は、足部の底屈運動(つま先を下げる運動)に関わり、正常なアキレス腱な場合1トン近くの張力に耐えられるとも言われています。

 

 

それだけ、アキレス腱の付着部やその周辺には大きな負荷がかかり腱の炎症やアキレス腱の断裂など、多くの傷害が起こりやすい部位であると言えるでしょう。特にアキレス腱のかかと部分の付着部から2―3センチほど上の部分は他と比較して血流が少なく、年齢が高くなるにつれてさらに減少します。そのため、腱の脆弱性が進み炎症や断裂を起こしやすくなると考えられています。社会人ランナーやスプリンターにアキレス腱炎が多い理由の一つとも言えます。

 

 

実際にランニングやスプリント時には、非常に短い接地時間の間に自分の体重を支え、身体を宙に浮かせられるくらい大きな力を地面に対して発揮しなければならず、その際アキレス腱周辺にかかる負荷は非常に大きくなります。

 

 

このような働きを持ち、ランニングや高い速度でのスプリント能力に重要なアキレス腱。このアキレス腱の付着部あたりに痛みを感じる場合、まずは信頼できるスポーツドクターに診てもらいましょう。本当にアキレス腱の炎症なのか、炎症を起こしている部位はどこなのかを究明することが先決です。そのうえで、治療方法、トレーニングの工夫、栄養摂取の工夫などの対策を考えていく必要があります。

 

 

 

 

 

下肢の腱の炎症がある場合にやるべきでないこと10項目

 

理学療法士であり、腱に関する臨床医学研究者でもあるJill Cook氏は、下肢の腱の痛みを抱えている場合にやるべきでないことについて、以下のことを挙げています(Cook,2016)。

 

 

1.完全に休むこと
 腱を完全に休ませることは、腱が負荷に耐え得る能力を低下させてしまうことに繋がります。また、腱とつながる筋肉やその他の組織を弱化させてしまうと、腱を上手く使う能力にも悪影響が出てしまいます。痛くない程度にできるだけ負荷を減らして運動を続けるようにはしておきましょう。痛みが取れてきたら、じっくり負荷を増やしていくことが重要です。

 

 

2.受動的な治療
 腱の耐性を高めることにつながらない治療は、短期的に痛みを和らげることにはつながるかもしれませんが、長期的には有用でない場合が多いです。電気治療やアイシングなどは一時的に痛みを軽減させたい、炎症を抑えたい場合にのみ利用しましょう。

 

 

3.注射療法
 腱への注射による治療の有効性は、臨床試験において示されていません。実際それらの治療の多くは、腱自体が他の組織と同じように、健常な状態まで治癒する能力があるという前提に基づいています。計画された良いトレーニングプログラムの効果が出ない場合を除いて、腱への注射は控えるようにしましょう。

 

 

4.痛みを軽視する
 腱の痛みは、運動の負荷が大きすぎるかどうかを判断する上で唯一の材料になります。痛いまま強度の高い運動はせず、無理のない範囲で負荷をコントロールしましょう。

 

 

5.腱のストレッチ
 スポーツ時にかかる負荷とは別に、圧縮荷重という負荷があります。これはアキレス腱が最大限に引き伸ばされたときにかかる負荷で、アキレス腱にとって有害であることが知られています。特に立位でのアキレス腱のストレッチは非常に大きな刺激となります。足首の可動性が低い、腓腹筋やヒラメ筋のタイトネスがある場合はマッサージなどでほぐしてあげるようにしましょう。

 

 

6.腱のマッサージ
 腱の痛みは過負荷で刺激されていることや炎症を起こしているサインだと言えます。したがって、マッサージでさらに組織を刺激することは、実際には腱の痛みを増やしてしまいます。腱をマッサージすると一時的に痛みが減ることはありますが、その後負荷をかけた時、結果的に悪化してしまいます。腱ではなく、付随する筋肉へのマッサージは有益なことが多いです。

 

 

7.自分の腱のことを心配する
 超音波やMRIなどで負傷している自分の腱の画像を見ると、怖くなってしまうかもしれません。腱が裂けている、弱っている…などの言葉を医師から聞くと、「こんな状態の腱に負荷なんてかけていいのだろうか…」と疑問に思うこともあるかもしれません。負傷した腱でも負荷を徐々に増やしていくことで耐えられるようになるという科学的な根拠はしっかりあるので安心しましょう。

 

 

8.腱断裂の心配
 「痛み」は自分の腱を守ってくれているものとも言え、痛みがあるからこそ、負荷を減らさないといけない…と判断することができます。実は、腱断裂をした人のほとんどは腱が問題を抱えているのにも関わらず、「痛み」という前兆がなかったと言います。

 

 

9.リハビリを省略する
 リハビリをサボってはいけません。腱の力や耐性を向上させるのにはどうしても時間がかかります。リハビリにはそれ相応な期間(3カ月、もしくはそれ以上)が必要ですが、正しいリハビリの段階を踏みさえすれば、長い目でみて良い結果を生むはずです。電気や注射、マッサージなどで一時的に痛みを軽減させることはできますが、再び腱に負荷をかけると痛みが再発してしまいます。

 

 

10.適切な負荷について把握しない
 最も腱に負荷がかかる運動が、ジャンプや方向転換、スプリントなど、腱をバネのように使う運動です。これらのような動作を含まないウエイトを使った運動や遅い速度でのエクササイズであれば、腱への負荷は小さく、筋肉の柔軟性や筋力を維持向上させるのに有益です。痛みがひどい場合はこのような運動からはじめて、負荷の小さいジャンプや軽めのジョギング、負荷のやや大きいジャンプエクササイズ…と、必ず段階を追ってリハビリをするようにしましょう。

 

 

 

 

 

 

血流が少なく治癒能力の比較的低いのが腱の特徴です。一時的に痛みを取る治療ではなく、段階を追って負荷をしっかり高めていけるようなリハビリを根気よく続けていくことが長期的にとても重要になります(Clinical edge,2018)。

 

 

 

※Mascaroほか(2018)より、筆者翻訳

 

 

 

どうしても出場したい、出場しなくてはならないレースがある場合は、全力でのスプリント量を減らしたり、ややかかとが厚めのシューズを履いて腱の伸張量を減らすなどの対策が必要です。

 

 

ですが、自身の競技人生を縮めてしまっている可能性も大きい…と言うことだけは覚えておいてください。一度レースから離れて、長い期間をかけてリハビリに専念する勇気を持つことも必要です。結果的には、長期的にはそれが良いの競技成績を生む可能性は大きいでしょう。

 

 

 

 

 

アキレス腱痛対策のための栄養摂取

 

筋肉や腱、靭帯、骨などの身体の怪我を治すためには食事が重要になることは言うまでもありません。人間の身体の組織は食べたものを基に作られます。ここではアキレス腱の炎症を含む怪我から回復するために抑えておきたい栄養摂取のポイントを紹介します。

 

 

 

1.エネルギー収支をマイナスにしない
 怪我からの回復には身体組織の合成を促さなければなりません。そのためにはエネルギー収支をプラスにする(摂取エネルギー>消費エネルギー)必要があります。エネルギー収支がマイナスになると身体の組織の分解が促されてしまいます。痩せていきながら筋肉が付きにくいのと同様に、腱を回復させるためにはしっかりと食事を摂ることが重要です。

 

ただ、体脂肪率が非常に高く、それがアキレス腱への負担になっている場合はアキレス腱の痛みが減ってきたところで減量を試みるのも一つの手でしょう。

 

 

 

2.十分なタンパク質を摂取する
 筋肉や腱、靭帯、骨を形成するのに重要な栄養素がタンパク質です。アキレス腱痛を持つ人、そうでない人に関わらず、競技スポーツを行う人であれば1日体重1kgあたり最低2g(体重60kgであれば1日120g)は摂取するように心がけましょう。もちろん睡眠(8時間程度)も大切です。

 

 

 

3.ゼラチンやビタミンCを活用する(Shaw et al., 2016)
 筋や腱の機能を引き出すために重要な組織にECM(細胞外基質)と言うものがあります。これはいわゆる鉄筋コンクリートの鋼棒のようなもので、組織の土台をなしており、筋腱のパワー、スピードなどのパフォーマンスを高めたり、軟骨や靭帯がエネルギーを吸収するのに役立っています。腱に異常のほとんどは、このECMがもろくなっていることが原因で、これを強化できるかどうかが腱の以上を克服することにつながる可能性があります。

 

このECMを強化するためにはそれを構成するコラーゲンや、コラーゲンタンパク質を結合する架橋(いわゆるハンバーグで言う「つなぎ」)を増やす必要があります。そのためには筋腱に負荷をかけることが重要です。

 

しかし、このECMの適応は運動開始後5−10分程度で最大になり、その後いくら運動を続けても高まることはなく、腱は機械的な疲労を蓄積させていくばかりで、運動をやめて6時間ほど経たなければ、ECMの適応を促すシグナルは高まってくれないようです。

 

 

 

 

 

※画像はmysportscience より

 

 

 

したがって、ECMの適応を促し腱を強くするためには、6時間ごとに10分程度、腱に刺激を与えるような運動をすることが重要なのではないか?という研究が進んでいます。

 

 

また、ECMを構成するコラーゲンが豊富に含まれる食品である「ゼラチン」やコラーゲンの合成を促すビタミンCを摂取することで、ECMの適応がさらに促されることが分かっています。ちなみにコラーゲンは経口摂取しても、きちんとコラーゲンとして身体に吸収されるようです(小山,2010)。

 

 

この研究(Shaw et al., 2016)の著者は、腱などの怪我の治療のために「6時間ごとに、5−6分程度の縄跳びのような腱に刺激を与える運動を1日3回程度実施すること。そして各運動の1時間ほど前にゼラチンを5−15g、ビタミンCを500mgほど摂取しておくこと。」を推奨しています。

 

まだまだ研究段階、怪我からの復帰を早めた…などのデータはありませんが、実践してみるのも一つの手でしょう。

 

 

 

 

 

まとめ

 

 

・疾走時、ジャンプ時に大きな負荷のかかるアキレス腱の痛みは、多くの陸上競技者を悩ませている。

 

・アキレス腱は自然治癒能力が比較的低く、治療段階でも完全に休ませるのではなく、適切な負荷を把握して、地道に、長期的に強化をしていくことが重要である。痛みを無視して負荷をかけすぎると取り返しがつかなくなることもある。

 

・電気やマッサージ、ストレッチなどは一時的に痛みを軽減させることはあるが、痛みの根本の解消にはならない。

 

・タンパク質の豊富な食事や睡眠を大切にすること。リハビリ時にはゼラチンやビタミンCの摂取も有用であるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献、及びウェブサイト
Jill Cook(2016)10 things not to do if you have lower limb tendon pain.

 

Clinical edge(2018)Infographic Midsubstance achilles tendinopathy - When labels are important in directing treatment - part 1 of 3.

 

・Mascaro, A., Cos, M. A., Morral, A., Roig, A., Purdam, C., & Cook, J. (2018). Load management in tendinopathy: Clinical progression for Achilles and patellar tendinopathy. Apunts. Medicina de l'Esport, 53(197), 19-27.

 

・Shaw, G., Lee-Barthel, A., Ross, M. L., Wang, B., & Baar, K. (2016). Vitamin C?enriched gelatin supplementation before intermittent activity augments collagen synthesis. The American journal of clinical nutrition, 105(1), 136-143.

 

・小山洋一. (2010). 天然素材コラーゲンの機能性. 皮革科学, 56(2), 71-79.

 

 

 

 

 

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