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短距離走に最も必要な筋肉と筋力トレーニング方法

短距離走に最も必要な筋肉と筋力トレーニング方法




日本トップ、世界トップスプリンターの体つきを見ればわかるように、一流スプリンターは総じて常人よりも筋肉量が多いことが分かります。

 

 

一見、足先や手先は細く感じることもあるかもしれませんが、足の付け根部分である股関節周り、または肩回りにはしっかりと筋肉がついています。

 

 

速く走るためには素早く手足を動かしたり、強く素早く地面を蹴りだす必要があります。その原動力となるのが自分自身の筋力です。

 

 

ここでは、スプリンターにとって特に重要であろう筋肉はどこか。さらにその筋肉はどういう役割を担っていて、どのように鍛えていくのが良いのかについて紹介していきます。

 

 

 

①大腰筋・大腿直筋

 

スプリンターにとって重要性の高い筋肉として、まず挙げられるのが「大腰筋」「大腿直筋」と呼ばれる筋肉です。

 

 

 

 

 

 

これらの筋肉は、股関節を曲げる作用(股関節の屈曲)を持ちます。言い換えると膝を前に引き出す筋肉です。

 

 

ヒトは走っているとき、足で地面を押して、その反作用を得て前に進んでいます。足で押すことで前に進んでいるのですから、当然体に対して「足は後ろに残される」ことになります。

 

 

しかし、残ったままだと次の一歩を踏み出すことはできないので、膝を素早く前に引き出すことが必要になります。この時大きな力を発揮しているのが「大腰筋」や「大腿直筋」などの股関節屈曲筋群です。この筋肉で大きな力を発揮できれば、地面の蹴りだし後にすぐ膝を前に引き出すことができるようになります。

 

 

また、走るスピードが速くなればなるほど、身体の進むスピードに対して、足は高いスピードで後ろに取り残されることになります。高いスピードで後ろに取り残される足を、素早く前に引き出すには、それ相応の強力な筋力が必要です。したがって、速く走ろうとすればするほど、この「大腰筋」や「大腿直筋」などの股関節屈曲筋で大きな力を発揮する必要が出てくるのです。

 

 

 

大腰筋・大腿直筋のトレーニング方法

筋肉が大きな力を発揮するためには「筋肉が太い」ことが土台になります。なぜなら、筋肉が大きいほど、発揮できる筋力のポテンシャルが上がるからです。細い筋肉ではどんなに爆発的な神経系のトレーニングを行っても、発揮できる力には限界があるのです。実際に、足が速いほど大腰筋や大腿直筋のサイズが大きいことが示されています(久野ほか,2001;Emaほか,2018)。

 

 

そのため、これらの筋肉はウエイトトレーニングなどでしっかりと鍛えて、大きくし、土台を作ることが重要です。そして、実際の走りの動きの中で力を発揮するトレーニングを行う…という手順を踏むことが、大きく競技力を伸ばすために大切なことになります。

 

 

・マシンヒップフレクション
動画のようなトータルヒップというマシンで、負荷をかけてトレーニングできます。骨盤が後傾しないように、脚の付け根部分から動かすことを意識しましょう。

 

 

 

・バンドウエイトヒップフレクション
マシンが無い場合は、台にあおむけになり、片膝を挙げる運動を繰り返します。足首に重りを付けるなどして負荷を調節します。つま先にケトルベルなどをぶら下げるのもアリでしょう。

 

 

 

 

・ハードルサイドステップ

 

 

ハードルを横向きで素早くまたいでいきます。空中で膝を素早く入れ替えるイメージで多く行いましょう。

 

 

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②ハムストリング・内転筋

 

次に重要な筋肉として「ハムストリング」「内転筋群」が挙げられます。実際に、足が速いほどこれらの筋肉のサイズが大きい傾向があると言われています(狩野ほか,1997)。

 

 

 

 

 

 

ハムストリングの機能

ハムストリングは「股関節を伸ばす」に加えて「膝を曲げる」役割があります。このように、二つの関節に作用する筋肉を「二関節筋」と言います。

 

 

走りの中で、次の一歩を踏み出す時、膝を「ビュンッ」と前に引き出す必要があります。しかし、前に勢いよく引き出したままだと、足はそのまま前へ吹っ飛んで行ってしまいますよね。

 

 

そうならないためには、股関節を伸ばす力や膝を曲げる力を使って、足が前へ振り出ていかないようにブレーキを発揮しなければなりません。この時に大きな力を発揮しているのがハムストリングです。

 

 

 

 

 

 

しかし、全力疾走中の素早い下肢の動きに、一瞬でブレーキをかけるためには「非常に大きな力」が必要になります。そして当然、膝を曲げる力も発揮しながら、股関節を伸ばす力も発揮しなければならないハムストリングには大変な負荷がかかるわけです。

 

 

このような理由から、ハムストリングという筋肉では非常に「肉離れ」が多いと言われています。

 

 

内転筋の機能

 

内転筋もハムストリングと同じように、股関節を伸ばす、すなわち前へ振り出る膝にブレーキをかけて動作を切り返す役割があります。

 

加えて、内転筋群は「大腰筋」や「大腿直筋」と同じように後ろに残った腿を前に引き出す「股関節屈曲筋」としての役割も担っているのです。

 

そのため、この内転筋は膝を前後に切り返す動作、両方に関わる重要な筋肉であると言えるでしょう。

 

 

 

ハムストリング・内転筋の筋力トレーニング方法

ハムストリングも内転筋も、強い力を発揮できなければなりません。強い力を発揮できるから、動作を素早く切り返すことができるようになります。そのためには、やはりウエイトトレーニングなどでしっかりと負荷をかけて、筋肉量を増やすこと、そしてその筋肉をしっかりと使える(実際の走りで大きな力を発揮)ようにする必要があります。

 

 

・ノルディック・ハムストリング(ロシアンハム)
膝立ちで踵を固定し、前に倒れつつ、ハムストリングを使って我慢します。ギリギリのところで元の姿勢へ戻る、またはギリギリのところまでいって、前に倒れる運動を繰り返しましょう。強度がかなり高いため、やりすぎには気を付けてください。

 

参考動画(ノルディックハムストリング)

 

 

 

・ルーマニアン・デッドリフト
やや胸を張って、骨盤を前傾させた状態でバーを握ります。やや広めに持つとやりやすいでしょう。踵寄りに体重をかけながらバーを身体に沿わせながら下ろしていくのがコツです。臀部から首筋までビシッとまっすぐ保ち、ハムストリングが伸びているな、と感じるあたりで元の姿勢に戻ります。

 

参考動画(ルーマニアンデッドリフト)

 

 

・リバースランジ
バーベルを担いだ状態から、片足を後ろに下げながらしゃがんでいきます。膝が地面に着きそうになるくらいは可動域を出します。前の足はかかと寄りに体重をかけて、お尻や腿の裏、腿の内側を意識して、重りを持ち上げます。

 

参考動画(リバースランジ)

 

 

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③臀筋群

 

さらに重要な筋肉として挙げられるのが、臀筋群、つまりお尻の筋肉です。一流スプリンターの臀部を見てみると、非常に引き締まっていて、お尻が筋肉でポコッと盛り上がっている人が多いのです。

 

そしてこの臀筋群は主に「股関節を伸ばす」、そして「骨盤を支える」役割があります。

 

 

 

 

 

大臀筋

股関節を伸ばす役割を担うのが大臀筋という臀筋群の中でも大きな筋肉です。この筋肉もハムストリングや内転筋と同じように、前に勢いよく振り出る膝にブレーキをかけ、動作を切り返す役割があります。

 

 

これに加えて、加速時に地面を強く押していくためのエンジンのような役割も担っています。

 

 

 

中臀筋

中臀筋は、お尻の横の方についている筋肉です。この中臀筋は、足が地面に接地した時に、反対側の骨盤が落ち込まないようにする役割があります。

 

 

走っているとき人は、自分の体重を片足で支えなければいけません。片足で体重を支えると、反対側の骨盤が勢いで下に落ち込みやすくなります。反対側の骨盤が沈んでしまうと、地面に力を一瞬で伝えることができなくなるので、地面をベタベタと走るような、遅いフォームになってしまいます。

 

 

そうならないためには、中臀筋で骨盤の傾きをキープできることが重要になります(下図参照)。

 

 

 

 

 

臀筋群の筋力トレーニング方法

ハムストリングスや内転筋の筋力トレーニングで紹介した「ルーマニアンデッドリフト」や「リバースランジ」でも、これら臀筋群にしっかりと負荷をかけてトレーニングすることができます。それらに加えて、次のようなトレーニングもおすすめです。

 

 

・ヒップスラスト
仰向けになり、背中を台に固定します。股関節にバーベルを挟み、お尻の筋肉をキュッと締めるようにしてバーベルを挙げます。踵寄りに体重をかけて、腰を反らさず顎を引いて行いましょう。

 

参考動画(ヒップスラスト)

 

 

・アブダクション
アブダクションマシンがあれば、動画のように手軽に負荷をかけて、中臀筋を刺激することができます。そのようなマシンが無い場合は、チューブなどを使って負荷をかけることもできます。

 

 

参考動画(アブダクション)

 

 

参考動画(チューブアブダクション)

 

 

・片足クリーン
クリーンなどのパワートレーニングを片足立位で行います。片側の骨盤が落ち込んでしまわないように、腰回りを上手く固定したまま行いましょう。

 

 

参考動画(片足ハングクリーン)

 

 

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④腓腹筋・アキレス腱

 

腓腹筋とは、要するにふくらはぎの筋肉です。アキレス腱は筋肉とは言えませんが、腓腹筋と合わせて走るときに非常に重要な役割を果たします。

 

 

 

 

速く走るためには、かかとから接地して、地面をバタバタと音を立てて走るようなフォームではいけません。なぜなら地面に接地している時間が非常に長くなり、身体が前に進むスピードが高まらないからです。

 

 

短い接地時間で走るためには、足の前部分から地面に接地し、アキレス腱のバネを使うことが重要になります。

 

 

そして、このアキレス腱のバネを使うためには、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)を一瞬で硬くして、接地した瞬間にアキレス腱が良く伸びるような状況を作り出す必要があります。

 

 

 

 

非常にスピードが高く、接地時間の短いトップスプリンターでは、ふくらはぎの筋肉を一瞬で硬くし、足首で大きなパワーを一瞬で発揮できます。なので、トップスプリンターでは接地しているときの足首の曲げ伸ばし動作が小さいことが分かっています(伊藤ほか,1998)。

 

 

 

 

腓腹筋・アキレス腱の筋力トレーニング方法

 

特にふくらはぎでは、大きな力を「一瞬で」発揮できることが重要です。一瞬で発揮できる筋力を高めるためには、筋肉量を増やしたり、筋力の最大値を高めるだけでは十分ではありません。

 

 

非常に高いスピードで走っている場合、地面に足が着いている時間は0.1秒程度になります。筋肉が最大の筋力を発揮するまでには0.4秒くらいは時間がかかるので、筋力の立ち上げ(力の立ち上がり率)を速くすることが大切になります。加えて、アキレス腱をバネのように使えるようにするトレーニングが必要です。

 

 

そのためのトレーニングとして以下のようなものが挙げられます。

 

 

・アンクルホップ
できるだけ膝の曲げ伸ばしを使わないように、足首で瞬間的に力を発揮して、短く高くジャンプします。同様のジャンプを、縄跳びをしながら実施させるのもアリです。

 

参考動画(アンクルホップ)

 

 

・ハードルドリル
ハードル選手が行うようなドリルを実施します。短くステップを刻んだり、踏切や着地を短く、リズムよく行うことで、アキレス腱周りを鍛えていくことにもつながります。ハードル選手でなくとも、このようなドリルはやっておきたいです。

 

参考動画(ハードルドリル)

 

 

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まとめ

 

このように、短距離走に必要な筋肉には様々なものがあり、それぞれが持つ役割も異なっています。なので、どこもかしこも、やみくもに鍛えるのではなく、その役割に応じたトレーニングを積み重ねていくことが重要です。

 

 

股関節、膝、足首まわり…と、それぞれの筋肉がどのような筋力を発揮できるようになれば良いのかトレーニングの目的地をハッキリさせておきましょう。そのうえでトレーニングを計画することで、自信をもってトレーニングに臨むことができるはずです。

 

 

 

 

 

参考文献

・久野譜也, 金俊東, & 衣笠竜太. (2001). 体幹深部筋である大腰筋と疾走能力との関係 (特集 スポーツにおける体幹の働き). 体育の科学, 51(6), 428-432.
・EMA, R., M. SAKAGUCHI, and Y. KAWAKAMI. Thigh and Psoas Major Muscularity and Its Relation to Running Mechanics in Sprinters. Med. Sci. Sports Exerc., Vol. 50, No. 10, pp. 2085–2091, 2018.
・狩野豊, 高橋英幸, 森丘保典, 秋間広, 宮下憲, 久野譜也, & 勝田茂. (1997). スプリンターにおける内転筋群の形態的特性とスプリント能力の関係. 体育学研究, 41(5), 352-359.
・伊藤章, 市川博啓, 斉藤昌久, 佐川和則, 伊藤道郎, & 小林寛道. (1998). 100m 中間疾走局面における疾走動作と速度との関係. 体育学研究, 43(5-6), 260-273.

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