足が速い人の特徴「陸上短距離におけるフォームの科学」


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足が速い人の特徴「陸上短距離におけるフォームの科学」


「足が速い人はどんなフォームで走っているのか」

 

「速く走れるフォームを教えてほしい」

 

 

と、陸上競技のトレーニング現場ではこのような議題が良く挙がります。

 

 

ここでは、スポーツ科学の学問領域である「スポーツバイオメカニクス」から、足が速い人の特徴を紹介していきます。

 

 

 

足が速い人は、接地中に身体が高い速度で前に進んでいる

 

足が速い人の共通点として、接地中の「脚の後方スイング速度が高い」ことが挙げられます(伊藤ほか,1998)。

 

 

この「脚の後方スイング速度」とは、地面に足が着いてから、自分の体に対して足が後ろにスイングされる速度のことを指します(下図を参照)。

 

 

 

 

 

これが、足が速い人に最も共通している特徴です。走りの回転数が高いタイプ(ピッチ型)の人でも、歩幅が大きいタイプの人(ストライド型)でもこれは共通しています。足が速い人は決まって、「脚の後方スイングスピードが高い」のです。

 

 

しかしこれは、考えてみれば当たり前です。

 

 

接地中に足が後ろにスイングされる速度というのは、言い換えると、接地中に身体が前に進む速度が高いということを意味します。「前に進むスピードが高い=足が速い」となるわけです。

 

 

 

 

腿の高さ・かかとの引き付けとの関係は?

 

では、指導現場でよく耳にするワードである「腿の高さ」「かかとの引き付け」についてはどうなのでしょうか?

 

 

伊藤ほか(1998)の研究では、足が速い人でも、腿が高く上がっているわけではないことを示しています。しかし、子供の足の速さと動作の関係を調べた研究では、腿が高く上がっているほど、足が速い子が多かったとされています(木越ほか,2012)。

 

 

一方、かかとの引き付け角度は、足の速さと関係があり、足が速い人ほどかかとがしっかりと引き付けられていたことが分かりました。これらは、小学生などの児童に強くみられる傾向のようです。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、腿を高く上げて、かかとをお尻に引き付けるように意識をしたら速く走れるのでは?」と、多くの人は考えます。

 

 

しかし、実際そう上手くはいきません。

 

 

なぜなら、足が速い人は「腿が上がって、かかとが引き付けられている」からと言って、その足が速い人たちが「腿を高く上げて、かかとを引き付けるように意識しているとは限らない」からです。

 

 

では、足が速い人はなぜこのような特徴があるのでしょうか?腿が高く上がっているのは、かかとの引き付けがしっかりできているのはなぜなのでしょうか?

 

 

 

足が速い人は、腿を引き戻すパワーが高い

 

足が速い人に「腿が高く上がり、かかとの引き付けがしっかりできている人」が多いのは、腿を後ろから前に引き戻すパワーが関係していると考えられます。

 

 

ヒトは走っているとき、接地中に身体を前に進めなければなりません。身体が前に進むということは、足は後ろに取り残されることになります。そして、走るスピードが高いほど、足は身体に対して高いスピードで後ろに取り残されます。

 

 

しかし、走るためには素早く次の一歩を踏み出さないといけないので、高いスピードで取り残される足を、素早く前に引き戻す必要が出てきます。当然、高いスピードで足が後ろに流れていくほど、強い力を素早く発揮しないと足を前に引き戻すことはできなくなります。

 

 

したがって、足が速い人は「強い力、かつ素早く腿を前に引き戻す能力が高い」のです(豊島と桜井,2018;矢田ほか,2012)。

 

 

 

 

では、強く素早く腿を前に引き戻そうとしたらどのようなことが起こるでしょうか?当然、腿は高く上がりやすくなりますし、膝から下、かかとは「パタンッ!」と勝手にお尻に引き付けられるようになるはずです。

 

 

これが、足が速い人ほど「腿が高い、かかとの引き付けができている理由」だと考えられます。目に見える脚の速い人の動作の特徴は、腿を前に引き出すパワーの高さの「結果」であると言えるのです。

 

 

実際に世界のトップスプリンターでは、この腿を引き付けるパワーが高いために、走っているときの足が身体の後ろにあまり残らないような軌道がみられます。足が後ろにいったらすぐに前に引き戻すことができています。

 

 

 

 

 

腿を引き出すパワーを高めるためには?

 

じゃあその腿を引き出すパワーを高めるためにはどのようなことをしたらよいのでしょうか?

 

 

腿を前に引き出す動作は、股関節を「屈曲」させる動作です。なので、この股関節を屈曲させる筋力やパワーを高める必要があると言えます。この股関節を屈曲させるための筋肉には「大腰筋」「大腿直筋」などの筋肉が挙げられ、これらの筋肉が大きいほど、足が速いということも分かっています(久野ほか,2001;Emaほか,2018)。

 

 

このような筋肉を鍛えるためには「全力疾走をする」ことは当然必要です。速く走るために必要な筋肉は、速く走ろうとすることで刺激されるからです。かけっこが速くなりたければ、まずはかけっこをたくさんやりましょうということです。

 

 

しかし、それだけでは足りないので、別のトレーニングをやることも必要になってきます。トレーニング歴が長くなればなるほど、走るだけでは刺激が不十分になってくるからです。

 

 

その際に、股関節屈曲筋群を鍛えるトレーニングとして、以下のようなものが挙げられます。

 

 

股関節屈曲筋のトレーニング
マシンヒップフレクション

トータルヒップというマシンがあれば、高負荷を用いて簡単にトレーニングができます。脚の付け根部分から動かす意識をしましょう。

 

 

 

バンドウエイトヒップフレクション

マシンが無い場合、台の上にあおむけになり、膝を挙げる運動を繰り返します。足首に重りを付けて負荷をかけます。

 

 

 

ハードルサイドステップ

 

ハードルを横向きで素早くまたいでいきます。腰や背中が曲がらないように、空中で膝を素早く入れ替えるイメージで行いましょう。

 

 

 

 

足が速い人は、足首と膝が固定されている

 

足が速い人のさらなる特徴として、足首や膝の角度変化の度合いが挙げられます。

 

実は足が速い人は、走っているときの足首があまり大きく動きません。接地中は足首が固定されているように見えるのです(伊藤ほか,1998)。さらに、膝も同じように、接地中に角度が大きく変わらず、固定されているように見えます。

 

 

 

 

簡単に言うと、地面を蹴りだすときに膝を伸ばしたり、足首が「びろーんっ」と返ることがありません。

 

 

これは、特に足首で瞬間的に発揮できる力が弱いために起きる動作です。接地中に足首を硬いバネのように使えなければ、足首はグニャっと曲がり切ってしまいます。曲がり切ってしまったら、それを頑張って戻そうと足首や膝を伸ばすように使ってしまい、結果的に足首や膝の動きが大きくなってしまうのです。

 

 

一方、足首で瞬間的に大きな力を発揮できる人は、足首の曲げ伸ばし動作が少なく、短い時間で身体を支えることができます。短い時間で身体を支えることができるというのは、速く走るために非常に重要なことで、このことは「接地時間の短さ」と言われます。

 

 

速く走っているということは、接地中に身体が前に速く進んでいることだと先ほど説明しました。接地中に身体が前に速く進むとすれば、当然、接地している時間は短くなります(下図参照)。

 

 

 

 

ということは、速く走るために「短い接地時間で走る」ことは必須で、それには足首を硬いバネのように使えることが大事。それを達成できるように強い足首を作る必要があるのです。

 

 

 

対して、足首が弱い人は「短い接地時間」で身体を支えることができないので、足を大きく身体の前方で接地したり、かかとから接地したりして、身体を支える力を補う動作がみられます。これがいわゆる、小学生などによくみられる「ベタベタ走り」「ヒールストライク」という走り方です。

 

 

 

強い足首を作るためには?

 

じゃあ、強い足首を作るためにはどうしたらいいのでしょう?繰り返しにはなりますが、まずは「全力疾走」に近いようなトレーニングを積むことが必要です。

 

その補強として、以下のようなジャンプトレーニングが有効です。

 

 

参考動画(アンクルホップ:できるだけ膝が曲がらないようにするのが好ましい)

 

 

 

また、不整地をじっくりと走ったり、縄跳びなどの遊びを取り入れた練習をしたりすることも効果があると考えられます。

 

 

 

 

バイオメカニクスは地図である

 

ここまで足の速い人の特徴から、いくつかトレーニングの視点やその方法を紹介してきました。

 

しかし、ここで紹介している足の速い人の特徴は「あなたが速く走るための方法」ではないことに注意すべきです。

 

バイオメカニクスで明らかになっている知見は「速く走っている人共通の動作」ですが、どうしたらその動作に近づくかを完全には示してくれないのです。

 

言い換えると、理想の「動作の目的地」は教えてくれるけど、そこへの行き方は教えてくれないということです。その点、バイオメカニクスは「地図(手掛かり)」のようで、目的地への行き方は自身で考える必要があります。

 

 

 

 

 

したがって、ここで紹介しているトレーニング方法は、この記事を書いた人がバイオメカニクスの知見を基に考えた「目的地への行き方」になります。なにも、ここに書いてあるトレーニングだけが有効なんだというわけではありません。

 

 

人の数だけ走り方があれば、人の数だけ様々な修正点、トレーニング課題があるはずです。

 

 

ここで紹介している知見や、選手やコーチの考え、経験などを合わせて考えて、自分が速くなるための「目的地への行き方(トレーニング方法)」を考えていきましょう。

 

 

 

 

まとめ

・足が速い人は「脚の後方スイング速度」が高い。

 

・足が速い人は「腿が高く上がったり、かかとが引き付けられている」傾向はある。

 

・その特徴がみられる理由には、後ろに流れる脚を素早く引き戻す、股関節屈曲パワーが関係している。

 

・足が速い人は瞬時に足首を硬いバネのように使うことができ、足首や膝の曲げ伸ばし動作が小さい。

 

・これらの動作は「足が速い人の特徴」であり「速く走るための方法」ではない。

 

・あくまで「手掛かり」として、トレーニングに活用していくことが大切。

 

 

 

 

 

参考文献

・伊藤章, 市川博啓, 斉藤昌久, 佐川和則, 伊藤道郎, & 小林寛道. (1998). 100m 中間疾走局面における疾走動作と速度との関係. 体育学研究, 43(5-6), 260-273.
・木越清信, 加藤彰浩, & 筒井清次郎. (2012). 小学生における合理的な疾走動作習得のための補助具の開発. 体育学研究, 57(1), 215-224.
・豊嶋陵司, & 桜井伸二. (2018). 短距離走の最大速度局面における遊脚キネティクスとピッチおよびストライドとの関係. 体育学研究, 17008.
・矢田恵大, 阿江通良, & 谷川聡. (2012). 世界一流および学生短距離選手の回復脚におけるキネティクス的相違. 陸上競技研究, 2012(3), 9-16.
・久野譜也, 金俊東, & 衣笠竜太. (2001). 体幹深部筋である大腰筋と疾走能力との関係 (特集 スポーツにおける体幹の働き). 体育の科学, 51(6), 428-432.
・EMA, R., M. SAKAGUCHI, and Y. KAWAKAMI. Thigh and Psoas Major Muscularity and Its Relation to Running Mechanics in Sprinters. Med. Sci. Sports Exerc., Vol. 50, No. 10, pp. 2085–2091, 2018.

 


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