以上のことから、現在も一般的に用いられている「もも上げ」と呼ばれるドリルの目的や用い方について、紹介していきたいと思います
ウォーミングアップとして
股関節、上半身の可動性向上
もも上げを歩行で行ったり、ステップをつけて行うことは、股関節や肩回りを大きく動かすことになります。そうすることで、股関節や肩回りをダイナミックに動かすための可動性向上に役立てられるはずです。
筋肉への刺激・弾性向上
全身をダイナミックに動かすということは、全身の筋肉がそこそこの力・パワーを発揮するということです。そうすれば当然筋肉にも刺激が入るので、筋温を高めたり、大きな力、バネのような力を出すための準備を整えることができます。すなわち、全身のウォーミングアップに効果的だと言えます。
足裏、足首周りの筋力・安定性向上
腰の位置を高くし、足指の付け根あたりで体重を支えるように行えば、自然とアキレス腱の反射が使えるようなフォームになるはずです。その姿勢を維持して、短い接地を意識して地面を捉えられれば、足首を固定して、硬いバネのように使えるための筋力やパワーを効率よくトレーニングすることができます。
実は、全力疾走中の非常に短い接地時間で足首が発揮している力と、やや遅くて、少し長めの接地時間の時に足首が発揮している力はあまり変わりません。これは、接地時間が短すぎて筋肉の力発揮が追い付かなくなるからです(Dornほか,2012)。イメージとしては「筋肉が力を発揮するぞ~!」と思ったら「えっ!もう接地終わっちゃった?まだ力発揮できてないのに~」という感じです。
このことから、アキレス腱の反射を使いながら素早くもも上げドリルを行っていれば、全力疾走中の足首の力発揮に近いくらいの筋力を発揮できていることになります(とはいっても、同じ筋力発揮にはなりませんが。)。つまり、全力疾走をせずとも、アキレス腱のバネを効率よくトレーニングできるというわけです。
特に初心者や、スピードレベルが低く、ベタ足走りになりがちな中長距離選手は、このようなトレーニングを積極的に取り入れる必要があるでしょう。
ケガ(肉離れなど)からのリハビリテーション
股関節を大きく動かし、ハムストリングなどの筋肉を引き伸ばしながら負荷をかけたり、足首に無理なく刺激を与えたりできるので、股関節周りの柔軟性や筋力、足首周りの安定性を回復させるのに役立ちます。肉離れや捻挫など、ケガからの復帰直後に全力で走る…というわけにはさすがにいきません。そのような復帰過程のトレーニングとしても大変使えるドリルなのではないでしょうか?
股関節屈曲筋群のトレーニング
素早くももを引き上げることを意識すれば、膝を挙げる筋肉のトレーニングにもなり得ます。足に重りを巻いたりして、膝を勢いよく挙げる動作(股関節の屈曲)を強調すれば、十分な負荷をかけることができるでしょう。
しかし、冒頭部分でも説明した通り、全力疾走時のように、後ろに素早く取り残される足にブレーキをかけて、前に引き戻す負荷はかけにくいので、以下の図のように、台の上に寝そべって、股関節を大きく伸展させながら動作を切り返し、足首などに重りを巻くなどで負荷をかけて、別個トレーニングしておく必要もあるでしょう。

上半身、下半身の筋力・パワー、および持久力の向上
スピーディーに、パワフルにマック式のようなドリルを行えば、それに関連する筋力・パワーを鍛えられます。ウエイトベストを着て行ったり、またはスレッドを引きながら実施するのもアリでしょう。
そしてこのようなトレーニングに持久性を持たせれば、筋力・パワーの持久性を高めるトレーニングにつながります。実際に100m全力で、スレッドなどの負荷をかけて、一連の動作を強調した腿上げをやってみると、相当ハードなトレーニングになることが分かります。
坂道や階段などを利用して、負荷をかけることもできます。そのためには、動きの確認…とかではなく、筋力トレーニングとして、根気よく反復することが必要です。
スレッドとなると高価ですが、ウエイトベスト程度であれば個人でも比較的購入しやすいかと考えられます。
その他、個人の技術的な課題に合わせて
ここまでフィジカルトレーニングとしてももも上げドリルが大事なんだ!という論調になってしまいましたが、当然、個人の技術を修正するドリルとしても使えます。
アキレス腱を上手く使えない初心者に向けて、アキレス腱を使えるような姿勢を教えたり、身体に近いところに足を落とすような感覚を身につけさせたり、「動作のコツ」をつかむスキル練習としても当然利用価値は高いと言えます。