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足首の硬さ、パワーと足の速さの関係(スプリント能力と足関節)

足首が硬いと足が速い?

足が速い人は「足首が硬い」と良く言われます。実際に、100m走で日本人初の9秒台をマークした桐生祥秀選手の足首は硬いとニュースでも多く取り上げられており、その硬さは和式トイレに座るのが難しいほどだそうです(桐生祥秀の秘密、硬い足首と1秒間5歩の高速ピッチ:日刊スポーツ)

 

参考動画(桐生選手9.98)

 

スポーツでは一般的に、体は柔らかいほうがパフォーマンスは良くなる、怪我をしにくくなると信じられているようです。実際に、足首の背屈制限(つま先を挙げる動作の可動域が低い)が強いほど、ハムストリングの肉離れ率が高いという報告(Freckleton& Pizzari,2012)があります。

 

では、足が速い人に「足首が硬い」人が多いと言われるのは、なぜなのでしょうか?


速く走るためには、接地時間を短くできることが重要

足が速い人の特徴の一つに「接地時間の短さ」が挙げられます。走行スピードが上がれば上がるほど、地面に足がついてから身体が高いスピードで前に進むので、必然的にすぐに地面から足が離れていく(接地時間が短い)ことになります。したがって、速く走るためには接地時間を短くできることが重要です。

 

 

では、この接地時間を短くするためにはどうすればよいのでしょうか?

 

以下の動画は、短い接地時間で走っているエリートスプリンターと、接地時間が長い一般スプリンターの比較です。出てくるグラフは、地面の下方向に加わった力の大きさを表しています。

 

動画(エリートスプリンターと一般スプリンターにおける鉛直地面反力の比較)

 

(Linking running motion to ground force: the concise physics of running:https://www.youtube.com/watch?v=PfHNOwmmik4より)

 

(Linking running motion to ground force: the concise physics of running:https://www.youtube.com/watch?v=PfHNOwmmik4より)

 

 

図からわかるように、エリートスプリンターは短い接地時間のうちに、大きな力を下へ伝えることができています。走っている最中は一歩一歩、自分の体重を宙に浮かせながら走らなければならないため、自分の体重を浮かせられるくらいの力を地面の下方向に力を加える必要があります。接地時間が短いということは、地面に十分に力を加えるチャンスが非常に短いということです。その間にできるだけ大きな力を加えないと、自分の体重を浮かせることができず、上手く走ることができなくなってしまいます。

 

接地時間を長くすれば、小さな力でも長い時間をかけて地面に力を伝えられるので、自分の体重を浮かせることができますが、それでは速く走ることができません。

 

このように、速く走るためには短い時間で地面に下向きの大きな力を加え、接地時間を短くできることが大切だとわかりました。では、短い時間で大きな力を地面に伝えるためには、何が必要なのでしょうか?

 

足が速い人は、足首が強い

短い接地時間で走ることのできる選手の特徴に、「足首で発揮できるパワーが大きい」ことが挙げられます(Bezodisほか,2008;Hutchinson,2004)。トップスプリンターでは、足首を硬いバネのように使って走っているので、疾走中の足首の曲げ伸ばし動作が少ないことも明らかになっています(伊藤ほか,1998)。

 

 

また、足の速い選手は「膝を伸ばしたまま、足首だけで行う連続ジャンプ(アンクルジャンプ)」を、短い接地時間で高く行うことができるようです(永原ほか,2013:Nagaharaほか,2014)。

 

このように、足が速く、短い接地時間で走ることができる人は「接地中に足首を硬くし、足首で大きな力を発揮できる」という特徴があります。

 

さて、ここからが本題になりますが、この「接地中に足首を硬くし、足首で大きな力を発揮できる」人というのは、もともと硬い足首を持っているのでしょうか?それとも、接地中に硬くできているだけなのでしょうか?

 

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「接地中に硬くできる」が一番大事だが、もともと硬いほうがおそらく有利

足首がもともと硬いほうが足が速い・・・ということはハッキリ言えません。しかし、よく聞くように、トップスプリンターは足首が硬く、曲げるのに大きな力が必要な特徴を有していると考えられます。

 

関節角度を変化させるのに必要な力の度合いは、学術的には「スティフネス」と呼ばれています。長距離選手では、足首のスティフネスが高いほど(足首を曲げるのに大きな力が必要=足首が硬い)走りの経済性が良く、5000m走のベストタイムが速いことも明らかになっています(Uenoほか,2018)。短距離走において、明確な知見は見当たりませんが、おそらく短距離選手でも足首の硬さは有利に働くと考えられます。

 

※Uenoほか(2018)より:縦軸は足関節の硬さ度合い(スティフネス)を表しており、5000m走の記録が良い群の方がスティフネスが高い

足首の硬さは生まれつき?それともトレーニングで鍛えられる?

これについても明確なことは分かりません。生まれつきの要素もあるでしょう。だからといって、今から頑張っても何も変えられないということはありません。トレーニングで筋肉や腱を鍛えることにより、足首を硬くできる可能性はあります。

 

筋肉や腱は太いほど、引き伸ばすのに大きな力が必要になります。つまり、スティフネスが高くなります。トレーニングによる負荷で筋腱を太くすることは可能です(限度はあると考えられます)。短い接地時間で力を発揮できる能力が大事であることも踏まえると、先述した「アンクルジャンプ」のような運動を地道に続けていくことが有効かもしれません。これに近いものを挙げるなら、縄跳びが有効だと考えられます。

 

※Nagaharaほか(2014)より:腰に手を当て、膝の屈伸を使わないように、足首のみで行うアンクルジャンプ(AJ)

 

参考動画(アンクルホップ:できるだけ膝が曲がらないようにするのが好ましい)

 

また、接地で足首を固定できるようにするためには、足底(足裏)の筋肉も重要です。足裏の筋肉が十分に発達することで、足底屈(つま先を下げる)動作が強化されるとともに、足の指を機能させて、地面の蹴りだし時に大きな力を発揮することができるようになると考えられます(Tanakaほか,2017;Farrisほか,2019)。

 

※Farrisほか(2019)より:赤・青部分が足部の内在筋

 

タオルギャザーなどで足指を動かす筋力を地道に強化していくことも有効でしょう。

 

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加えて、「硬い足首が大事なら、ストレッチで柔軟性を高めてはいけないのでは?」と疑問に思う人も出てくるかもしれません。しかし、これに関してはハッキリと答えが出ていません。足首の柔軟性を高めると、もともとの硬さは失われてしまうかもしれませんが、接地で瞬時に硬くできる能力は維持されるかもしれませんし、硬くできる能力(もともと硬いからこそ潰れない?固定できる?)も失われてしまうかもしれません。(ちなみに、静的ストレッチを長い時間実施した後は明らかに悪影響が出ます(Simicほか,2013)。)少なくとも、足首の硬さが特定の怪我の主要因となっている場合を除いて、日常的にガシガシ足首をストレッチするようにして、足首を柔らかくしておこうとするのは控えた方が良いのかもしれません。

 

 

 

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まとめ

・速く走るためには「接地時間を短くできる」ことが重要で、そのためには短時間で地面に下向きの大きな力を加えられる必要がある。

 

・短時間で大きな力を加えられる人は、接地時に足首を固定する(潰れない)ことができ、大きなパワーを発揮できている。

 

・接地中に足首を硬くできる人の足首は、もともと硬い性質があるかもしれないが、これはトレーニングによって変えられる可能性がある。長距離選手では硬いほうが走の経済性が高く、パフォーマンスも良い。

 

・ストレッチをすることで、足首の硬さ(接地で硬くできる能力も)が失われてしまう可能性は否定できない。

 

参考文献

 

 

・Freckleton G. & Pizzari T. (2012) Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: a systematic review and meta-analysis.. British Journal of Sports Medicine. published online July 4.
・Bezodis, I. N., Kerwin, D. G., & Salo, A. I. (2008). Lower-limb mechanics during the support phase of maximum-velocity sprint running. Medicine and science in sports and exercise, 40(4), 707-715.
・Hutchinson, J. R. (2004). Biomechanical modeling and sensitivity analysis of bipedal running ability. I. Extant taxa. Journal of Morphology, 262(1), 421-440.
・伊藤章, 市川博啓, 斉藤昌久, 佐川和則, 伊藤道郎, & 小林寛道. (1998). 100m 中間疾走局面における疾走動作と速度との関係. 体育学研究, 43(5-6), 260-273.
・永原隆, 宮代賢治, & 図子浩二. (2013). 女子短距離走選手を対象とした足底屈パワーテストと疾走能力の関係. スポーツパフォーマンス研究, 5, 279-294.
・Nagahara, R., Naito, H., Miyashiro, K., Morin, J. B., & Zushi, K. (2014). Traditional and ankle-specific vertical jumps as strength-power indicators for maximal sprint acceleration. J Sports Med Phys Fitness, 54, 691-699.
・Hiromasa Ueno, Tadashi Suga, Kenji Takao, Takahiro Tanaka, Jun Misaki, Yuto Miyake, Akinori Nagano, Tadao Isaka (2018) Potential Relationship between Passive Plantar Flexor Stiffness and Running Performance.Int J Sports Med. 39(03): 204-209.
・Tanaka, T., Suga, T., Otsuka, M., Misaki, J., Miyake, Y., Kudo, S., ...& Isaka, T. (2017). Relationship between the length of the forefoot bones and performance in male sprinters. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 27(12), 1673-1680.
・Farris, D. J., Kelly, L. A., Cresswell, A. G., & Lichtwark, G. A. (2019). The functional importance of human foot muscles for bipedal locomotion. Proceedings of the National Academy of Sciences, 201812820.
・Simic, L., Sarabon, N., & Markovic, G. (2013). Does pre‐exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta‐analytical review. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 23(2), 131-148.

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