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陸上短距離走者における「足の流れ」の原因と改善方法

「足の流れ」の原因と改善方法

「あの選手は足が流れてしまっている」

 

「レース後半になると足が流れてしまって失速してしまう」

 

と言うように、陸上競技、特に短距離走の指導現場において「足が流れる」という言葉は非常に多く使われていることでしょう。

 

実際に、スプリントフォームの指導ポイントとして、指導書でも注目されていたり、研究テーマとして取り上げられることもしばしばです(文献1-5)。本サイトのTwitterアカウント(こちら)で実施している質問箱にも関連する質問が多く寄せられます。

 

今回はこの「足の流れ」の原因と改善方法について、考えていきたいと思います。


そもそも「足が流れる」とは何か?

「足が流れる」とは一体どういうことなのでしょうか?
以前、このようなアンケートを実施しました。

 

 

写真はインターハイでの100mチャンピオンです。
この走りをみて、どのように感じるでしょうか?

 

アンケート結果から行くと、「足が流れていると感じる人もいるが、流れていないと感じる人もいる」ということになります。

 

全国トップの選手でありながら、半数ほどの人が「足が流れている」と判断する走りだということです。

 

2人の動画はこちら

 

 

 

このように、全国トップ選手の走りでさえ「足が流れている」と判断する人が多いのにも関わらず、「足の流れ」はスプリントフォームを改善するためのポイントとして重要視されている現状があります。

 

さらには、「足が流れているかどうか」は人によって、とらえ方、感じ方が異なっている可能性があるようです。

 

足の流れに関する研究

そこで、陸上競技経験のある教師が、中学生の疾走動作をみて評価した足の流れと、実際の動作の関係を調べた研究(文献5)について紹介します。

 

この論文では足の「流れ動作」のことを「支持脚が地面をキックした後に、遊脚が素早く前方に振り出すことができず後ろに残ってしまうような動作」としています。

 

 

そして、その教師たちから「足が流れている」と評価された生徒の疾走動作の特徴が以下の通りです。

 

 

このように、この研究での陸上競技経験のある教師の「足の流れの判断ポイント」は、接地した瞬間の遊脚の大腿部角度や離地後の遊脚の最大大腿部角度でした

 

キック後に腿がより後方にあることや、接地した瞬間に遊脚がより後ろに残っている選手は、「足が流れていると判断されやすい」ようです。

 

しかし、この研究では、キック後に腿がより後方にあることや、接地した瞬間に反対の足が後ろに残っている選手ほどピッチが遅いということは示されていましたが、疾走速度との関係は検討されていませんでした。

 

一方、一般選手や児童の疾走動作と疾走速度の関係を調べた研究(文献6,7)では、離地時の支持脚股関節角度は大きいほど、疾走速度が高いという結果になっています。

 

離地後の最大大腿部角度と離地時の股関節角度は異なるものですが、「足が流れている」と判断されやすい疾走動作の特徴の一つは、足が速い人の疾走動作の特徴の一つと似ているようです。

 

 

これが、「足が流れている」ような気がするのに、足が速い選手が存在する一つの理由かもしれません。

 

ここまでくると、「足の流れ」は良いことなのか、悪いことなのか、どう判断すべきなのか、改善すべきなのか…ますますわからなくなってきますね。

 

足の流れは必要なことである「前に進む=足は結果的に後ろに残っている」

これまで紹介してきた選手のように、トップ選手の足が流れているように見えることがあるのはなぜなのでしょうか?

 

この問題を解くためのヒントが「足が全く流れていない(であろう)人の走り」にあります。まずはその走りを見てみましょう。

 

 

腿をしっかり上げて、足を全く後ろに流さない走りを極めるとおそらくこうなります。

 

しかし、上手く前に進めているとは言い難いのは一目瞭然でしょう(ロンドンブーツ敦さんすみません)。

 

これはなぜなのでしょうか?

 

それは、「モノは後方から力を加えると前に進むから」です(競技中は前から誰かが引っ張ってくれることはないはず)。

 

後ろに力が加わるから、その反力で、人間は前へ進むことができます。加速時はもちろんのこと、トップスピードに達してからも同様です。そのため、股関節はある程度伸展して、しっかりと後方へ力を伝えられるフォームでないと、前へはなかなか加速できません。

 

また、前に高い速度で進んでいるということは、接地中の移動速度は高くなります。すなわち足は重心よりも後ろにおいていかれる(結果的にそうなる)ことになります。

 

 

このように、速く走ろうと思えば必然的に足は身体よりも後ろに残ることになります。足が身体より後ろに行かないように走ろうとすると先ほどの動画ような走りになるはずです。

 

では、足は積極的に後ろに流すようにキックすべきか?と言われると、そこは断言できません。意識的に流すようなキックをすると、腿を前に引き出す動作のタイミングが遅れ、次の動作に早く移行できなくなる可能性があるからです。

 

しかし、トップスプリンターはある程度股関節を伸展(下腿の長さ次第で伸展角度が小さくてもいける選手はいる)し、足を後ろに残しながらも、腿を素早く引き出し、高いピッチで走っています。高い速度で走れば走るほど、足は相対的に高い速度で後ろに取り残されるので、その分強い力で前に引き出さなければ、素早く次の動作に移行ができません。

 

この時に大事になるのが、脚を後ろから前に引き出すための大腰筋、内転筋群などの股関節屈曲に働く筋力や、脚を前に引き出そうと意識するタイミングになります。

 

 

文献(5)でも「最大大腿部角度が大きくても、素早く前方へ脚を振り出せるようにすることで遊脚大腿部角度を小さくできる可能性があることから、流れ動作の評価は遊脚大腿部角度に着目することが望ましいと考えられる」と考察されていました。

 

自然に足は後ろに残るようにして、かつ身体を前に進めつつも素早く遊脚を引き付けることが、高い疾走速度を獲得するために重要です。

 

ここまで説明してくると、良くない動作、指導ポイントとされる「足の流れ」とは何なのか、またそれを改善するためには何が必要なのかについて、推測が付いてくると思います。

 

良い「足の流れ」と悪い「足の流れ」

ここまで説明してきた通り、足の速い選手はある程度股関節を伸展させて、足を身体の後ろに残すような動作になっています。これは、速く走るために必要な動作です。この動作を「足が流れている」と判断する選手、指導者はおそらく一定数いるはずでしょう。しかし、この動作は速く走っている選手に必然的に起こる動作で、悪いこととは言えません。むしろできなければいけない、「良い足の流れ」だとも言えます。

 

一方、「足の流れ」に関して、よく耳にするのが「後ろで足を大きく巻いてしまう」「100mや200m、400mの後半、膝が前に出ない」「これを改善したい」と言うものです。

 

こういった選手に起きている現象が、「足が身体よりも後ろに残っている時間が長い」ことだと考えられます。これだと素早く次の動作に移行できないのでピッチは上がりません。すなわち「悪い足の流れ」と言うことになります。

 

 

したがって、速く走るためには「良い足の流れ」は崩さず、「悪い足の流れ」は改善する必要があると考えられるでしょう。

 

 

「悪い足の流れ」の原因と改善トレーニング方法

速く走ろうとすると相対的に足は高い速度で身体の後ろに取り残されますが、この時に、足を前に引き出そうとするタイミングが遅かったり、前に引き出す筋力が弱かったり、さらには姿勢が過度に前傾していたりすると、足が残ったままになります。素早く次の動作には移ることができません。

 

なので、これを改善させるためには

 

「股関節屈筋を鍛えること」

 

「屈曲の意識のタイミングを早めること」

 

「上体の前傾角度の調整」

 

などの方策が重要だと推測できます。

 

 

股関節屈曲筋力のトレーニングについては「持久の記事」でも取り上げましたが、以下のようなトレーニングが参考になるかと思います。

 

 

股関節屈曲筋のトレーニング

マシンヒップフレクション

動画のようなトータルヒップというマシンがあれば、それを用いてトレーニングができます。腿の前の筋肉よりも、脚の付け根部分から動かすことを意識しましょう。

 

 

 

バンドウエイトヒップフレクション

マシンが無い場合は、図のような台の上にあおむけになり、片膝を挙げる運動を繰り返します。足首に重りを付けるなどして負荷を調節します。30回未満で限界になるように負荷をかけられれば、筋量増加にも十分な効果が見込めます。

 

 

 

ハードルサイドステップ

 

動画のようにハードルを横向きで素早くまたいでいきます。腰が曲がらないように、空中で膝を素早く入れ替えるイメージで行いましょう。これも足首に重りを巻くなどして負荷調節が可能です。

 

 

関連記事

 

 

 

足を引き付けようとするタイミングや姿勢

全力スプリント中の支持期の後半(地面を蹴り出す局面)では、すでに脚を前に引き出そうとする力が働きます。言い換えると、地面にまだ足が着いている時に前もって、膝を前に引き出そうと力を発揮させないと、脚を引き出すのが遅れてしまうということです。

 

キックが終わるまでずっと股関節を伸展させ続けようと、地面を押し切ってしまうとバウンディングのような走りになってしまう可能性が高いと考えられます。すなわちピッチが低い、悪い足の流れを生んでしまいます。

 

 

 

 

これらのことから、「屈曲の意識」については
・地面を後ろに大きく蹴りきって、ストライドを無理に稼ごうとしない。
・遊脚や他の部分を前に進めることを意識して、高いピッチを維持する。
・足が地面に着いたら、すぐに前に引き出す。

 

など、様々考えられますが、自分の課題に合った意識を探っていく必要があるでしょう(実際には骨盤含め身体は3次元的に動いているので股関節の内転、その他腰回りの動きが非常に大事になりますが、これに関してはまた次回…)。

 

 

また、「上体の角度」ですが、前傾するほど足を後ろに残しやすくはなりますが、その分後ろから前に足を引き出しづらくなります。自分の現在の能力でできる範囲の前傾角度を探っていくことも策の一つでしょう。

 

 

加えて、「良い足の流れ」を獲得する方法も同様に、個人の課題に合った修正方法を探っていく必要があります。多くみられるのは骨盤含めた上体の後傾、股関節伸展の可動性の低さ…あたりでしょうか。このあたりも含めて、フォーム改善、トレーニングを行っていく必要があるでしょう。

 

 

 

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足が流れる原因と改善方法まとめ

・陸上競技における指導言語「足が流れる」の明確な定義はよくわからない。 

 

・疾走中の離地後、または接地瞬時の遊脚の大腿角度(股関節角度)が大きいほど「足が流れている」と判断されやすい。

 

・速く走るために、「足が身体よりも後ろに残る(良い流れ)」ことは重要であるが、「残ったまま(悪い流れ)」になると次の動作に早く移行できない。

 

・股関節の屈曲筋力を鍛えたり、腿を前に引き出す意識や姿勢をコントロールして、足を後ろに残しつつも(身体を前に進めつつも)、素早く腿を前へ引き出せることが重要である。

 

合わせて読みたい!

 

参考文献

[1] 中畑敏秀, 上田敏斗美, 松村勲, 瓜田吉久. (2011). 右足舟状骨疲労骨折を罹患した大学女子 中距離ランナーの障害発生機序について; 身体機能評価データと歩行並びに走動作評価をもとに. スポーツパフォーマンス研究, 3, 122-137.
[2] 馬場崇豪. (2003). 短距離疾走における下肢動作の回復期について. 阪南論集. 人文・自然科学編, 39(1), 1-9.
[3] 吉福康郎, & 中部大学. (1998). スポーツ上達の力学的基礎. 中京大学体育学論叢, 40(1), 135-148.
[4] 鈴木一成, & 中嶋悠貴. (2016). ナラティヴの視点による小学校短距離走の授業実践―体育授業日誌と感想文を手がかりとして―.
[5] 中野弘幸(2012). 短距離走における遊脚の 「流れ動作」 に関する研究.愛知教育大学保健体育講座研究紀要.37,80-82.
[6] 伊藤章, 市川博啓, 斉藤昌久, 佐川和則, 伊藤道郎, & 小林寛道. (1998). 100m 中間疾走局面における疾走動作と速度との関係. 体育学研究, 43(5-6), 260-273.
[7] 加藤謙一, 宮丸凱史, & 松元剛. (2001). 優れた小学生スプリンターにおける疾走動作の特徴. 体育学研究, 46(2), 179-194.
[8] 久野譜也, 金俊東, & 衣笠竜太. (2001). 体幹深部筋である大腰筋と疾走能力との関係 (特集 スポーツにおける体幹の働き). 体育の科学, 51(6), 428-432.

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