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陸上短距離選手におけるマーク走のやり方と意識、期待できる効果について

マーク走とは?

陸上競技の短距離走における練習方法の一つに、「マーク走」と呼ばれるものがあります。このマーク走とは、走路に等間隔で置かれたマークを目印に、一定のストライドでスプリントを行う練習です。

 

関連動画(マーク走)

 

マーク走では、マークを目印にストライドを固定することができるので、目標のストライドで走ったり、または目標のストライドでピッチを高める練習をしたり、普段よりもストライドを狭めてピッチを高めるような練習をしたりと、様々な工夫を凝らすことができます。

 

つまり、「マーク走にはどんな効果があって、どういう意識が必要なの?」と聞かれたら、「そのマーク走の目的次第です」ということになるわけです。

 

しかし、マーク走は短距離走の練習で広く用いられている現状がありながら「先生が作ったメニューだから、先輩が、トップ選手がやっている練習だから…」という理由で、何の意図もなくただ単に「これくらいの間隔でいいでしょ!」と置かれたマーク通りに走って練習している選手も少なからずいるのではないでしょうか?

 

そこでここでは、「なぜわざわざマークを置いて走る必要があるのか?」「マーク走にはどんな効果が期待出来て、どんな意識が必要になるのか?」について、色々なトレーニング例を基に考えてみたいと思います。


ピッチ向上を狙ったマーク走

ピッチを高めることは、速く走るために非常に重要な要素です。マークの間隔を通常のスプリント時か、それよりもやや狭めに設定してトレーニングをすることで、ピッチを向上させる目的のトレーニングをすることができると考えられます。

 

普段と同じストライドのマーク走では、とにかくピッチを上げることだけに専念してピッチを高めることができれば、ストライドを減少させずにピッチを高められたということになります。つまり、足が速くなっています。

 

ピッチだけを高めるんであれば、ストライドを犠牲にして、極端な話その場足ふみをやれば、誰でも簡単にピッチを高めることができます。しかし、全然前には進みません。このように、普段のストライドを犠牲にしてピッチを高めてしまうようなことを防ぐために、マーク走といわれる練習を利用することができるわけです。

 

一方で、普段のストライドをあえて犠牲にして、強制的にピッチを高めるようなマーク走でも、ピッチの向上が期待できる場合もあるかもしれません。

 

ピッチを向上させるためには、接地時間を短くする(結果的に短くなると言った方が妥当)ことや、滞空時間を短くできることが重要です。そこで、あえて普段よりもやや狭めのストライドでマークを接地して走り、下肢の切り替え動作のタイミングを早めたり、膝や足首を固定するように使う感覚を身につけたりしようと言う意図で、マーク走を行うこともできるでしょう。

 

※ピッチ向上のためのマーク走の配置

 

実際に、児童や大学生に普段よりもやや狭めのマーク走をさせることで、脚の切り返し動作(いわゆるシザース動作)が改善し、疾走速度の改善がみられたとされています(斎藤,2013;斎藤,2015;末松,2009;奥永,2017)※注:卒業論文,修士論文と思われるもの含む。

 

上記の研究では、通常ストライドの90%や95%程度でマークを接地した場合に、疾走速度の向上や、シザース動作の改善が良くみられたとされているものがあります。ピッチ向上の意図でマーク走を行うときは、このあたりを目安にすると良いでしょう。

 

 

ピッチを高めるトレーニング+考え方について、動画で紹介しています(コチラの方が短時間で理解が進みます)。

 

後半の速度維持(ピッチキープ)を狙ったマーク走

100mや200m走の後半では、主にピッチの低下によって速度が低下していきます。ピッチが低下してくると、動作が間延びしたような感覚、身体が浮いてしまうような感覚になってしまうと言うことも良く聞かれることではないでしょうか?

 

そこで、100m走の後半部分に、中間疾走時と同様か、それよりやや狭めのマークを接地して、ピッチをキープさせたトレーニングを積むという方法も考えることができます。疲れてスピーディーに動作を切り返すことができなくなってくるころに、マーカーを用いてストライドを間延びさせないように設定することで、最後までピッチをキープせざるを得ない状況を作ろうという意図です。

 

※後半の速度維持のためのマーカー走

 

ただ、マーカーの位置に上手く足を合わせられるように、走りながらストライドを調整しないといけないため、そこで減速してしまっては、トレーニングの意味がなくなってしまいます。この点には注意が必要です。

 

また長い距離を何本も実施していると、疲労して通常時(中間疾走)自体のストライドも狭くなってきてしまい、後半のマーク幅が合わなくなってくることも考えられます。本数設定にも気を付けましょう。

ストライド向上を狙ったマーク走

マークを普段のストライドよりも広めに設置することで、ストライドの向上を狙ったトレーニングができます。普段よりもやや広めにマークを置いて、あとはピッチを維持向上させることに専念し、それが達成できれば、必然的に脚は速くなっているはずでしょう。

 

しかし、普段よりも大きなストライドで走ることは、走動作に良くない影響を与えてしまう可能性も考えられます。その良くない動作と言うのが、「膝や足首、股関節を伸ばしすぎてしまう動作」のことです(下図参照)。

 

※広いストライドで走ろうとするときに、推奨できないフォーム

 

ストライドを伸ばすためには簡単な話、地面を強く長く押して、滞空時間を長くして走ればいいわけです。バウンディングをやれば、誰でもストライドを広げて走ることができるようになります。しかしながら、バウンディングでは速く走ることはできません。なぜならピッチが出せないからです。

 

「膝や足首、股関節を伸ばしすぎてしまう動作」が悪いとされるのは、ピッチが出せないということも一つの原因です。図のようなフォームが染みついてしまうと、動きは大きくなったとしても、スピード感の無い、キレの無いような状態になってしまうかもしれません。上に跳ねて走るためには理想のフォームだけど、前に進むためには合理的ではないフォームと言ったところでしょうか。

 

したがって、ストライドを伸ばすためのマーク走を考えるときは、「膝や足首、股関節を伸ばしすぎてしまう動作」が出ない範囲でマークを広げるか、その他の動作でカバーして、ストライドを獲得する必要があると言えるでしょう。

 

もしくは、「ストライドは自然と伸びていくもの」として、動作を崩してしまうストライドを広げたマーク走は実施しないというのも選択肢の一つです。

 

マーク走での動作の視点

“ストライドを伸ばすためのマーク走を考えるときは、「膝や足首、股関節を伸ばしすぎてしまう動作」が出ない範囲でマークを広げるか、その他の動作でカバーして、ストライドを獲得する必要があると言えるでしょう。”

 

前段にて、上のようなことを言いました。では、ここでいう「その他の動作」とは何なのでしょうか?その一つに遊脚の動きが挙げられます。これについては、ピッチ向上を意図したマーク走についても通ずるところがあるため、まとめて説明します。

 

遊脚とは、地面に足が付いていない側の脚のことです。この遊脚の使い方が、ピッチを保ったままストライドを向上させたり、またはストライドを維持したままピッチを高めるための手掛かりになります。

 

以下の図は、ピッチが同じくらいでもストライドが大きい人の特徴、ストライドが同じくらいでもピッチが高い人の特徴を示したものです(参考:豊嶋&桜井,2018)。

 

 

 

ピッチが同じくらいでも、ストライドが大きい人の走りは、「蹴り出しで膝や足首を伸ばしきるような動作があまりみられないこと」、そして「遊脚を素早く引き出して、上に弾むための力を上手く補っていること」と、なると思われます。

 

つまり、地面に接地している方の脚で蹴り切らずに、接地の瞬間に脚を硬くして(もしくはあらかじめ硬くしておいて)、遊脚の振り子のタイミングを早めて弾んでいるわけです。

 

一方、ストライドが同じくらいでもピッチが高い人は、走りの中であまり腿が後ろに行かず(腿が流れない)、大きな筋力を素早く発揮して動作をスピーディーに切り返せているということになります。加えて、接地が自分の重心に近い位置になっているようです。「身体の真下に近いところを踏んで、股関節を素早く切り返し続けている」イメージでしょうか。

 

このことを分かりやすく説明した指導方法に、福島大学の川本和久先生による「ポン・ピュン・ラン走法」が挙げられます。真下に踏んで、遊脚を早くスイングするというポイントが、小学生にも分かりやすく伝わるように工夫されています。

 

関連動画「ポン・ピュン・ラン走法」

 

これに加えて、腕を素早く大きく振ることができているか、姿勢が崩れていないか、などの基本的な部分も、ストライドをコントロールした練習時にみるべきポイントとなるでしょう。

 

これらのことを考慮して、ストライドを意識したマーク走、ピッチを意識したマーク走について、練習時の意識や評価のポイントについて考えてみました(以下、参考までに。)おおよそ似たような感じになるかと思います。

 

 

 

その他、マーク走に関する動画紹介

冒頭でも述べた通り、マーク走は目的によってさまざまなやり方、意識を考えることができます。ここで紹介したものの他に、数えきれないほど様々な実践例があるはずです。以下、関連動画を紹介しておきます。

 

関連動画(Keitaro Fitness Channel)

 

関連動画(マーク走解説)

 

自身やチームの課題に応じて、マーク走のやり方を考えて、実践してみてください!

 

 

合わせて読みたい!

 

参考文献

・齋藤壮馬. (2013). 短期間のマーク走トレーニングが小学生児童の疾走能力に与える影響 (卒業論文, びわこ成蹊スポーツ大学).
・斎藤壮馬. (2015). 陸上競技短距離選手におけるマーク走の効果に関するバイオメカニクス的研究: 即時効果に着目して (修士論文, びわこ成蹊スポーツ大学).
・奥永真司. (2017). マーク走を用いた短距離走の減速局面に関するトレーニング (卒業論文?, びわこ成蹊スポーツ大学).
・末松大喜ら(2009)マーク走を用いた走運動学習が 小学生6年生児童の疾走動作に及ぼす影響.スポ ーツ方法学研究.23.pp185-188.
・豊嶋陵司, & 桜井伸二. (2018). 短距離走の最大速度局面における遊脚キネティクスとピッチおよびストライドとの関係. 体育学研究, 17008.

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