走っているときに自分の身体が受ける地面反力は、以下の2つに分けられることが分かります。
・鉛直方向の力(縦方向)
・水平方向の力(横方向)
鉛直方向の力は自分の体重を支える加速度、水平方向の力は自分を前へ進ませる(またはブレーキをかける)加速度を生み出します。トラック種目は前に進む競技なので、水平方向の力は非常に重要です。ですが、鉛直方向の力も非常に大切な要素になります。
鉛直方向の力発揮の重要性
自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力発揮を高める必要がありません。なぜなら、「タイヤは地面から離れる必要がない」からです。そのため、自動車は水平方向に力を発揮し続けるだけでどんどん加速し、高いスピードを得ることができます。
しかし、人間が走る場合はそうはいきません。人が走る時には片足ずつしか地面に接地していませんし、全力疾走時は足が地面についている時間が一歩あたり0.1秒程度と、非常に短くなります。
この非常に短い接地時間で、ヒトは「自分の体重を支える力+前へ進む力」を発揮しなければなりません。
そして、ほんの一瞬のタイミングと同時に、身体を浮かせられるくらいの力というのは、極めて大きなものとなります。
以下の動画は、エリートスプリンターと一般ランナーの「鉛直方向の力発揮の違い」です。エリートスプリンターは接地時間が短く、その短時間で体重を浮かせられるくらい、鉛直方向に大きな力を発揮していることが分かります。一方、一般ランナーは接地時間が長く、鉛直方向の力も大きくありません。
参考動画
一瞬で体重を支えられる能力がなかったらどうなるか?
一瞬で体重を支える能力がなければ、次のような動作が現れてきます。
・足をより前方に接地して、接地時間を長くして力を加え、自分の身体を浮かせる力を補う
・接地の後半で、膝の伸ばす、足首を伸ばすなどの動きを大きくし、自分の身体を浮かせる |


これらの結果、推進力を地面に加える余裕がないまま足が地面から離れてしまいやすくなります。誰かをおんぶして走ると、重さを支えるのに精一杯で、とても前に速くは進めませんよね?
以上のことから、速く走るためには
・できるだけ短い時間で体重を支えられる能力
・できるだけ短い時間で前への推進力を発揮する能力
が、バランスよく求められるのです。
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参考文献
・金子公宥. (2006). スポーツ・バイオメカニクス入門: 絵で見る講義ノート. 杏林書院.
・阿江&藤井(2002). スポーツバイオメカニクス 20 講. 朝倉書店.
・深代千之, 川本竜史, 石毛勇介, & 若山章信. (2010). スポーツ動作の科学 バイオメカニクスで読み解く.
・土江寬裕. (2011). 短距離・リレー. ベースボール・マガジン社.