「右脚より左脚の方が強い…」
「左より右脚の方が脚が太い…」
「筋力の左右差があるから直した方がいいよ…」
このような言葉をトレーニング現場で聞くことは比較的多いのではないでしょうか?
今回は脚の筋力の左右差とスプリント能力について考えていきます。
ジャンプ力の左右差とスプリント能力の関係
Lockieほか(2014)の実験では、片脚での垂直跳び、立ち幅跳び、側方へのジャンプをそれぞれの脚で行い、その左右差と5m-20mスプリントとの関係を調べました。
その結果、どの項目とも有意な相関関係は得られませんでした。
どうやら左右均等のジャンプ力がある=スプリント能力が高い…と言うわけではなさそうですね。
そもそも、ジャンプ力が高くて左右差がある選手、ジャンプ力が低くて左右差がある選手が混在している場合、スプリント能力に対するジャンプ力の左右差の影響を検討するのは難しいというのはありますが。
一方、疾走中の推進力の左右差がある選手に対して、筋力の左右差を改善させたところ、推進力の左右差も改善し、疾走速度が高まったという報告もあります(Brownほか,2017)。
このことから、疾走中のキック力の左右差を改善させるためのトレーニングは意味がないわけでは無いということは分かると思います。
ウサイン・ボルト選手も左右差がある
陸上男子100m、200m世界記録保持者のボルト選手ですが、実は走っているときの地面反力、そしてストライドの左右差が意外に大きいのです。
参考動画
ボルト選手には生まれつき脊柱側弯症というものを持っており、背骨がゆがんでいる状態だと言います
ボルト選手のこの走りの左右差は、この脊柱側弯症と上手く付き合った結果であるとも考えられますね。
脚の筋力の左右差と怪我の発生率
しかし、脚の筋力の左右差は、ハムストリングの肉離れと関連があります。
Sugiuraほか(2008)では、肉離れをしてしまった選手に、膝の屈曲筋力、股関節の伸展筋力の左右差を持つ者が多かったことを報告しています。
※Sugiuraほか(2008)より、筆者作図
このように、スプリントパフォーマンスに直接は影響するかは分からないものの、怪我のリスクを低減させ、トレーニングを継続していくためには筋力的左右差は改善させた方が良いと言えます。
左右差が自分の、または選手のパフォーマンスの制限要因となっているかどうかをしっかりと見極め、トレーニング手段を考えていく必要があるでしょう。
参考文献
・Lockie, RG, Callaghan, SJ, Berry, SP, Cooke, ERA, Jordan, CA, Luczo, TM, et al. Relationship between unilateral jumping ability and asymmetry on multidirectional speed in team-sport athletes. J Strength Cond Res 28: 3557–3566, 2014.
・Brown, SR, Feldman, ER, Cross, MR, Helms, ER, Marrier, B, Samozino, P, et al. The potential for a targeted strength-Training program to decrease asymmetry and increase performance: A proof of concept in sprinting. Int J Sports Physiol Perform 12: 1392–1395, 2017.
・Sugiura, Y, Saito, T, Sakuraba, K, Sakuma, K, and Suzuki, E. Strength Deficits Identified With Concentric Action of the Hip Extensors and Eccentric Action of the Hamstrings Predispose to Hamstring Injury in Elite Sprinters. J Orthop Sport Phys Ther 38: 457–464, 2008.