☆トレーニング効果の転移とは?
スプリント能力を向上させるための手段として、様々な体力トレーニングが取り入れられています。
その概念や、力発揮の様式に着目することの重要性についてはこれまで述べてきた通りです。
体力トレーニングの概念
トレーニングの原理②(特異性の原理)
筋力に関する知識
筋力と収縮スピードの関係
切り返し運動① 切り返し運動②
力の立ち上がり率
しかし、競技力向上のために、体力トレーニングを取り入れて、一般的な体力が上がっても、なかなかパフォーマンス向上に繋がらないことはよくあることではないでしょうか。
・「スクワットやデッドリフトの記録が向上してもスプリントタイムが短縮しなかった。」
・「800mの持久力が向上しても、400mのタイムに結びつかなかった。」
(もちろん結び付く可能性は十分あります)
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体力トレーニングによって高めた体力が、別のパフォーマンス向上に結び付くことを「トレーニング効果の転移」と呼びます。
体力トレーニングによって、競技力アップを目指すには、この「トレーニング効果の転移」が非常に重要なポイントとなるわけです。
☆トレーニング効果の転移を促すためには?
トレーニングの原理②(特異性の原理)
でも紹介した通り、トレーニング種目の力発揮様式や形態は、トレーニング効果の転移率に大きく影響します。
当然、実際の競技と似た要素が多く、強く関連するトレーニング種目が、良い転移を生むと考えられるでしょう。
(スプリントで考えると、非常に短い時間での力発揮、高い収縮スピードでの力発揮、エキセントリック局面での力発揮など)
こう考えると、
「より実際の競技に近いトレーニングをやるべきだ!」
という結論に至ってしまいがちですが、これは突き詰めると、「競技そのものの練習」となってしまいます。
「競技そのものの練習」のみで、パフォーマンスを向上させ続けることが困難であり、別の手段でパフォーマンス向上の可能性を高める体力トレーニングを行うわけですから、「似た動き、似た力発揮」でなければならない!と安易に考えてしまうのは良くないでしょう。
トレーニングで得られる効果にしっかり目を向けて考えていく必要があります。
しかし、トレーニング適応に関連する専門性は競技レベルが高まるほど、体力レベルが高まるほど増大していきます。
これらのことをまとめて考えると、
一般的な体力レベルを高めるトレーニングを続けながらも、その高めた体力をいかにパフォーマンスに繋げられるかが重要だ!
という視点が生まれ、
トレーニング効果の転移をより促す方法はないのか?
という疑問も同時に生まれることでしょう。
しかし、残念ながらこのトレーニング効果の転移現象をより促す方法について、その根拠を明確に示したものはほとんどありません。
ただ一つ言えることは、競技そのものの練習を疎かにしすぎれば、パフォーマンスが上がらない、もしくは低下するのは当たり前だということです。
☆ボディビルダーの筋肉は使えない?
「ウエイトで鍛えた筋肉は使えない」
「ボディビルダーの筋肉は見せかけの筋肉」
という表現が様々なメディアから発信されている場合があります。
筋骨隆々としたボディビルダーに様々なエクササイズを行わせると、それが上手く遂行できないことを根拠に説明していることが多いのですが、全く根拠になっていません。
上手くできないのは、そのエクササイズをやったことがないからです。
やったことのないエクササイズを上手く遂行できる調整力は、いくら筋肉量が多かろうが関係ありません。
筋肉は筋肉であり、競技での特異的な運動ができるかどうかは、筋肉に指令を出す脳の役割です。
その運動が上手いかどうかは、その運動を練習しているかどうかに左右されます。
ボディビルダーは、他のスポーツでの特異的な運動の練習をしているわけではありません。
しかし、特定の筋群に負荷をかける運動、コンテストで自身の身体をよりよく見せるための運動については、エキスパートなのです。
要は、いくらウエイトで最大筋力を向上させようとも、競技そのものの練習をしなければ、パフォーマンスはなかなか上がらないということです。
今のところ、トレーニング効果の転移をより促す方法としては「競技そのものの練習」を行いながら、技術の最適化を図っていくことです。
体力レベルが向上すれば、当然技術構造にも変化を及ぼします。
体力レベルの高まりとともにできるようになる技術も増えていくでしょう。
これらを踏まえて、競技そのものの行為の能力を高める練習と、それとは別の体力を高めるトレーニングの内容や、比率、量を考えてみて下さい。