
ボディビルダーの筋肉は使えない?
「ボディビルダーの筋肉は使えない」
筋骨隆々なタレントなどが、スポーツ番組で上手くスポーツができなかったりした時、よく耳にする言葉です。
あれは見せ筋だの、使えない筋肉だの、どうのこうの言われることはありますが、それはその通りなわけです。より人に見せるために鍛え上げられた筋肉なわけですから、スポーツが上手いとかどうとかは別の話なわけです。そもそも、「筋肉量が多い=スポーツ万能」という認識がナンセンスです。
普通、スポーツが上手くなるためには、そのスポーツの練習をする必要があります。筋トレが一番大切だ…とはなりません。いくらボディビルダーみたいに筋肉が多くても、それを上手く操れなければいけないからです。
したがって、いくら筋肉が多いボディビルダーでも、そのスポーツの練習をしていなければ、スポーツが下手だったりすることは当然あるわけです。(ボディビルダーはポージングと呼ばれる、筋肉をより美しく、大きく見せる技術では、めちゃくちゃスペシャリストです。なぜかというとボディビルダーはそのポージングの練習をたくさんしているからです。)
ボディビルダーは筋肉量の割に筋力やパワーが小さい
もう一つ、ボディビルダーの筋肉は使えない…と言われてしまう理由があります。
それが、ボディビルダーは筋肉量の多さの割に、発揮できる筋力やパワーが低いことです。筋骨隆々なのに、足が遅かったり、ジャンプ力が低かったりする人が多いのはこれが関係しています(決してボディビルに取り組まれている方々を非難している訳ではありません)。
Meijerほか(2015)の研究では、一般人とパワー系アスリート、そしてボディビルダーの筋線維の太さあたりの最大筋力、そして発揮できるパワーの大きさを比較しています。
その結果、ボディビルダーの筋肉はパワー系アスリート、さらには一般人よりも、筋線維の太さに対して発揮できる筋力やパワーが小さいことが分かりました。

つまり、筋肉の大きさの割に、大きな力やパワーを出しにくくなっているわけです。これには、ボディビルダーが普段行なっているトレーニング様式が関係していると考えられます。
ボディビルダーは筋肉を大きくするために、中重量で高回数、じっくり追い込むようなトレーニングをすることが多いです。そのようなトレーニングを長く続けていれば、素早く爆発的に大きな力を出すような機会は少なくならざるを得ません。
したがって、筋肉をいかに大きくするかに特化したトレーニングを極めていくと、必然的に大きな筋力、パワーの発揮が苦手になってしまうかもしれないというわけです。
じゃあ他のスポーツ選手がボディビルダーみたいに鍛えるのは間違いなの?
アスリートがスポーツのパフォーマンスを高めるために、筋肉量は力を引き出す土台になります。筋肉が大きい方が、発揮できる筋力やパワーのポテンシャルが高くなるからです。素早い動作を生み出しているのは力です。
しかし、これはあくまでポテンシャルの話で、実際に大きな筋力やパワーを発揮するトレーニングをしなければ、その能力を引き出すことはできません。その能力を引き出すのに適したトレーニングを行う必要があるわけです。
したがって、筋肉を大きくするようなトレーニングに長い期間(1年単位で)特化してしまうと、爆発的なパワー発揮能力が、鈍ってしまう、思ったより上がらないという現象は起こり得るでしょう。筋肉は全てを救う!と、デカくなるための筋トレだけをやるのは、アスリートがスポーツのパフォーマンスを高める目的でいうと間違いです。スポーツの世界では、筋肉がデカイだけでは戦えない競技がほとんどです。
参考・参照文献
・Meijer, J. P., Jaspers, R. T., Rittweger, J., Seynnes, O. R., Kamandulis, S., Brazaitis, M., ... & Degens, H. (2015). Single muscle fibre contractile properties differ between body‐builders, power athletes and control subjects. Experimental physiology, 100(11), 1331-1341.
・・寺田新. (2017). スポーツ栄養学: 科学の基礎から 「なぜ」 にこたえる. 東京大学出版会.
・石井直方(2015).石井直方の筋肉の科学.ベースボール・マガジン社.
・芳賀脩光, & 大野秀樹. (2003). トレーニング生理学.