「サルでもわかる、「サイズの原理」」では、スポーツ生理学などでよく習う「サイズの原理」の基本について説明してきました。
筋肉が力を発揮するとき、まずは運動単位のサイズが小さく発揮できる力が弱い遅筋線維が使われ、発揮する力が大きくなるにつれて、運動単位のサイズが大きく発揮できる力が大きな速筋線維が加勢していく。これがサイズの原理です。

しかし、このサイズの原理には「例外」なるものが存在します。ここではその例外について紹介していくこととします。
例外①「瞬発力を発揮するとき」
第1の例外として「瞬発力を発揮しているとき」が挙げられます。
ボールを勢い良く投げたり、スタートダッシュを決めたりするとき、運動単位の小さな遅筋線維から使っていてはあまりにも効率が悪いです。
そのため、人間の体は、一瞬で力を出したり、スピードを意識して動かすことが求められる場面では、運動単位の大きな速筋線維から使われていくような仕組みになっています。
例外②「伸張性収縮をしているとき」
第2の例外として、「伸張性収縮をしているとき」があります。「サルでもわかる、伸張性収縮(エキセントリック収縮)の特徴」でも紹介しているとおりです。
伸張性収縮とは、収縮しようと力は発揮しているけど、耐えられなくなって筋肉が引き伸ばされている状態を指します。このような状態が起きる局面というのが、ジャンプした後、着地をして衝撃を吸収するように筋肉でブレーキをかけるような場合です。このとき、筋肉でブレーキをうまくかけられず、衝撃を吸収できなければ、人間の体は壊れてしまうことになります。
そんな時に、悠長に遅筋線維から使っているようでは、体の安全を確保することは難しくなってしまいます。したがって、こういう伸張性収縮が起きる局面では、大きな力が発揮しやすい、運動単位の大きな速筋線維が優先的に使われるのです。
この仕組みは、スポーツや健康づくりのトレーニングにおいても非常に重要になってきます。ランニングの一歩一歩にかかる衝撃を受け止め、次の一歩を踏み出すエネルギーを生み出すのはこの伸張性収縮によるものです。速筋線維をうまく使うことができないと、速く走ったり、またはケガなく運動をしたりすることは難しくなります。
そのため、動作にブレーキをかけるような伸張性の筋収縮を使ったトレーニングは、パフォーマンス向上や、ケガ予防に幅広く使われているのです。
まとめ
・「瞬発力を発揮するとき」「伸張性収縮をしているとき」はサイズの原理に反して、運動単位の大きな速筋線維から使われることとなる。
・これは、人間がケガから体を守るために重要なシステムであり、これを上手く使えばスポーツのパフォーマンスや健康づくりにも生かすことができる。
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参照文献
・・寺田新. (2017). スポーツ栄養学: 科学の基礎から 「なぜ」 にこたえる. 東京大学出版会.
・石井直方(2015).石井直方の筋肉の科学.ベースボール・マガジン社.
・山地啓司, 大築立志, 田中宏暁 (編), スポーツ・運動生理学概説. 昭和出版: 東京(2011).
・勝田茂, 和田正信, & 松永智. (2015). 入門運動生理学. 杏林書院.
・芳賀脩光, & 大野秀樹. (2003). トレーニング生理学.