☆技術と技術力
スポーツにおける「技術」とはどう言ったものなのでしょうか?
リズミカルな動き、流れるような動き…というような動きの質の高さを「技術が高い」と表現することもしばしばです。
単なる個人の動きの癖のことを「すごい技術だな…」と口にする人もいるかもしれません。
このように、「技術」という言葉は実に多様な使われ方をしています。
2016年のリオデジャネイロ五輪で、陸上男子4×100mリレーで日本は銀メダルを獲得しましたが、その時に用いたバトンの渡し方やその精度に注目が集まりました。
世界で主流のバトンを上から渡す「オーバーハンドパス」に対して、日本は下から渡す「アンダーハンドパス」を採用していました。
このパスの仕方の違いは一つの「技術の違い」と言い表すことができるでしょう。
さらに、この技術の違いだけではなく、いかに走者のスピードを落とすことなくバトンパスを完了できるかは、ここでの技術の高さ、すなわち「技術力」と言い表すことができます。
この例のように、ここでは
「ある課題を解決するための、個人の癖とは異なる方法」を技術、
「その場面で最も効率的な動き方を適応できる能力」を技術力
として話を進めていくこととします。
☆技術には種類とレベルがある
スポーツには様々な「技」が存在します。
例えば、陸上の背面跳び、柔道の背負い投げ、サッカーでのインサイドキック、フィギュアスケートのトリプルアクセルなども技の一つと言うことができ、かつ「技術」と捉えることができます。
そして、この技としての技術には種類やレベルが存在しています。
水泳のクロールでは、腕をS字にかくクロールや肩のラインを真っ直ぐにかくクロールが存在するように、同じクロールであってもその技術は異なる場合があります。
また、上で挙げたフィギュアスケートのトリプルアクセルは空中で3回転半の回転を伴いますが、それ以前に1回転や2回転などの技としての技術を習得していなければ、到底成し得るものではありません。技術のレベルが違います。
一般的に技術はそのレベルが高度になるほど習得が難しくなっていきます。
高いレベルの技術を習得するためには、それより低いレベルの技術(下位技術)の習得が必須です。
☆レベルや状況に応じた技術トレーニングができていますか?
ある技術を習得したい場合、どのようなトレーニングをどのような意識ですれば良いかを考えることは誰しも通る道でしょう。
そして、ここでのイメージやトレーニング内容は、必ずしも一流選手が行なっているものと一致するとは限らないことには注意が必要です。
高度な技術を習得するには、その基になる技術(下位技術)、または基礎体力の習得が先決だからです。
トレーニングの優先順位を無視して、初心者へいきなり高度な技の練習をさせても確実に遠回りとなります。
つまり、指導者はその技術に関する知識や個人の習熟度、発達段階などの特性を踏まえたトレーニング内容を考えなければなりません。
例えば、身体がまだできていない少年野球には変化球の使用が禁止されている場合があります。
陸上競技では棒高跳びや400mハードル、三段跳などの競技は小学生から実施されていません。
これらは身体の成長や、基礎技術の習得の優先順位から考えると当たり前のことでもあります。
また、試合の直前などに大きく運動技術を変えようとすると、自分の本来の技術を大きく崩してしまい、試合でのパフォーマンスを損なってしまう恐れもあります。
これらのように、個人の状況、さらには男女差、体力レベルを考慮して、技術トレーニングの目標設定は行われる必要があると言えます。