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切り返し運動(SSC運動)②

前ページに続き、切り返し運動の力発揮に関係する要因、いわゆる「バネ」の力に関わる要素について解説します。
【切り返し運動(SSC運動)①】

 

①運動中アイソメトリック局面が加わる
 
②力を発揮させる時間が長くとれる
 
③筋と腱の弾性
 
④神経系のメカニズム

 

残りの③と④について詳しく見ていきましょう。

 

 

☆SSC運動のメカニズム

 

③筋と腱の弾性

筋肉やそれに付随する腱が外力によって引き伸ばされると、弾性エネルギーが蓄えられます。

 

ゴムを引っ張ると縮もうとする力が蓄えられますよね?あのようなイメージです。

 

この蓄えられた弾性エネルギーが跳ね返り運動として、SSC運動の短縮局面での出力を高めることになります。

 

ですので、ここでどれくらい弾性エネルギーをためることができるかが重要となるわけですが、どのようにするとより力を蓄えることができるのでしょう。

 

スプリント中の下腿、足部に着目して考えていきます。

 

 

 

 

筋や腱に蓄えることができる弾性エネルギーは、筋や腱を引き伸ばすために必要な力の大きさ(スティフネス)と伸びる量によって変わります。

 

 

腱は自ら硬くなることはできないので、引伸ばすのに必要な力は一定です。

 

 

ですが、筋肉は自分で硬くする(収縮させて張力を発揮させる)ことができるので、引伸ばすのに必要な力が変化します。

 

 

硬くて良く伸びるバネと、貧弱で良く伸びないバネでは前者の方が強い力を蓄えることができますよね?

 

 

よって、一流のスプリンターは良く伸びる筋腱を持ち、筋肉を一瞬で硬くさせることでこの力を最大限に利用し、脚全体をバネのように使いながら力を発揮させることができます。

 

 

そして、一流選手では弾性エネルギーが、筋肉よりも先に腱に蓄えられます。

 

 

これは腱よりも、筋肉を強く、硬くすることができるからです。

 

 

 

 

この時、筋肉はあまり引き伸ばされず、アイソメトリック収縮のような状態になり、無駄なエネルギー消費なく、腱に大きな弾性エネルギーを蓄えさせます。

 

腱自体は自分で収縮せず、蓄えられた弾性エネルギーを使って収縮することになるので、非常にエネルギー効率の良い動作が生まれるわけです。

 

 

長距離のエリートランナーによるフォアフット接地はエネルギー効率が良い!!と言われる所以もこれが関係しています。

 

 

スプリンターにとっては一歩一歩、この大きな弾性エネルギーを蓄えながら、跳ね返しながら前に進む、自分の体を支える力を獲得しているわけです。

 

 

速い選手の接地期での足関節角度変位が小さいのは、この弾性エネルギーで非常に大きな力を発揮させている結果とも言えます。

 

 

 

 

 

④神経系のメカニズム

筋肉や腱には、その長さや張力を感知する「筋紡錘」「腱紡錘」と呼ばれるセンサーのようなものがあります。

 

切り返し運動中、例えば連続ハードルジャンプ中に足が地面に接地した時、筋腱の長さと発揮されるの両方が急激に変化します。

 

 

筋腱は急激に強く伸張されると同時に即座に張力を発揮させます。

 

この変化は以下の2つの反射によって調節されています。

 

 

 

 

伸張反射

筋線維と並列に並んで配置されてあるセンサー(筋紡錘)が、急激な筋肉の長さの変化を察知して、元の長さを維持しようとさせる反射。長さのフィードバック

 

 

 

ゴルジ腱反射

筋線維と直列に配置されてある腱のセンサー(腱紡錘)が、急激な張力変化を感知して、筋活動を抑制させる反射。力のフィードバック

 

 

この二つは切り返し運動において、相反する反射であることが分かると思います。

 

 

 

伸張反射はより高い力を発揮させ、ゴルジ腱反射は高い力を抑えます。

 

 

 

よって、連続ハードルジャンプを短い接地でより高い高さで行ったり、短い接地時間で大きな力を発揮したりするには、

 

 

ゴルジ腱反射を抑制して、伸張反射を促していく必要があります。

 

 

 

いくらローギアでの筋力が高くても、この神経系の能力の効率が良くなければ、エネルギー消費の少ない、高い出力での切り返し運動は遂行できません。

 

 

一流の競輪選手やパワーリフティングの選手であっても、三段跳び、走高跳選手のように軽やかな連続ジャンプはできません。

 

 

スプリンターにおける短い接地でのジャンプトレーニング(プライオメトリックと呼ばれている)の目的はこの神経系の要因を改善させていくことにもあるわけです。

 

 

 

☆大きな弾性エネルギーを引き出す要因

 

このように、筋、腱において

 

・どれくらいのエネルギーを即座にためることができるか
・蓄えたエネルギーをどれくらい再利用できるか

 

 

これらが、スポーツでよく表現される「バネ」を決定する要素になります。

 

 

では、この「バネ」が上手く使えたり、強かったりする要因はなんなのでしょう?

 

また、どうしたら強くできるのでしょう?

 

 

 

 

◎先天的な要因

・筋、腱の長さ

 

・速筋線維の比率

 

 

 

◎後天的にある程度獲得できるであろう要因

最大筋力アップにより、即時的に発揮できる筋力を高める

 

・腱の太さ

 

力の立ち上がり率の改善

 

・筋、腱の伸びる量を高める(柔軟性)

 

・神経系の効率の改善(ゴルジ腱反射を抑え、伸張反射を促す)

 

・弾性エネルギーを蓄えやすい動作の習得、またはそれを阻害する身体機能(可動性、安定性等)の改善

 

 

 

短い接地での切り返し運動により、上に示す後天的に獲得できるであろう能力は、工夫と努力である程度改善できると考えられます。

 

 

運動初心者や、ハードル連続ジャンプが遂行できない選手などは、高負荷のウエイトで最大筋力や、ウエイトリフティングのようなトレーニングでパワーを養成することで改善が見込めるようですが、

 

 

高いレベルの選手に近づくほど、最大筋力と素早い切り返し運動で発揮できる力に有意な相関関係が見られなくなってしまうので、

 

 

レベルが高くなればなるほど、この二つは異なる独立した能力となり、ローギアでのウエイトトレーニングのみでは大きく改善することが難しいようです。

 

 

 

スプリンターにとってのウエイトトレーニングやジャンプトレーニングの最終的な目的は、筋肉を大きくすることでもなく、高く跳ぶことでもなく、スプリント中の力発揮を高めることです。
 
筋肉をつける、ジャンプ力を高めるのはあくまで過程にすぎません。

 

 

高めた能力が実際のスプリントに繋がらない、トレーニング効果の転移が上手くいかないといったケースは多く見られますが、トレーニング効果の転移を促す特効薬のようなものは、実際のスプリント練習以外に現段階では十分な根拠をもって示すことができません。

 

 

ですが、ウエイトトレーニング、ジャンプトレーニング、アップヒル(上り坂)、スレッド走などを、実際のスプリントにつなげる意識を持ってトレーニングに取り組むことは非常に重要だと考えられます。

 

 

 

ここではSSC運動、バネについて取り上げましたが、これらのメカニズムを知っておけば、指導者が提示する、または自身が作成する、実行するトレーニングメニューの目的を本当の意味で理解することにつながります。

 

 

よくわからないけどみんなが良いって言うからやるのと、本質を理解してやるのでは、その先で必ず差が開きます。

 

 

個人の問題に合わせて自分で応用ができるようになるからです。

 

 

何事も、最終的な目的を見失わないように、そこに行き着くまでのメカニズムをしっかり理解して、よりベターな道を自身で作っていけるようになっていきましょう。

 



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