では、具体的にどのようにして選手にコツを習得させていけば良いのでしょうか?
選手にその運動の練習をさせた時、指導者が思い描いているような感覚で、選手が運動しているとは限りません。
そこで、その選手の感覚を引き出して、指導者なりに選手の心の中のイメージをしておくことが大切です。
「今の動きはどんな感じだった?」
「さっきと比べてこの部分はどんな変化があった?」
などの聞き取りを重ねることによって、選手が今、技術習得のどの段階に来ているのかが推測しやすくなります。
それらの情報を元に、指導者は
「次はこれをああいう感じでやらせたら、こうなる筈だ」
と、指導の未来予測をすることができます。
このようなやり取りを重ねながら、選手の動きや感覚のどこに問題があるのかを探し、選手にとっての「より良い動きの感じ」を見出していく作業が運動指導者としての技術指導であると言えます。
そして、このやりとりの過程には「観察」「交信」「代行」と大きく3つのやり取りを含んでいます。
・観察
選手の動きを目で見て、指導の身体で感じ取ることです。
ここでは選手の動きのどこに着目するか、すなわち「目の付け所」が重要になります。
どのような視点から動作を見ることで、選手の問題をいち早く察知することができるか。
これに長けているほど、技術指導がよりスムーズに進んでいきます。
・交信
選手にその運動の感じを聞き出して分析することです。
ここでは「何を聞き出すか」「どのように聞き出すか」が重要です。
観察した内容を元にして、今やった感じを選手から引き出して、選手がなぜそのような感覚を持っているのかをイメージします。
・代行
選手の感覚を、指導者の感覚として感じ取ることです。
「もし自分がその選手だったら、こういう感じで動けば成功するだろう」
「こういう感じでやってるから失敗するんだろう」
というように、指導者自身の知識や経験を元に、選手の代わりに指導者が「新たな動きの感じ」を見出してあげるのです。
これらの観察ー交信ー代行の取り組みを積み重ねていくことは、自身の指導力を高めていくのみならず、指導者としての貴重な財産にもなっていきます。
☆コツ習得の例(観察ー交信ー代行)
ハードル走のタイムが縮まらないという選手がいたとします。
指導者はその選手の動きを観察して、ハードルの抜き足が地面と平行になっていない、いわゆる縦抜きをしていることに気がつきます。
「空中ではどういう意識で跳んでる?」
と、聞いてみたところ
「リード足を高く振り上げるように跳んでいる」
と、答えます。
この時「この選手は抜き足を横にして引きつける動作の感覚が分かっていないのだな」と推測ができました。
これらの情報から、抜き足だけハードルを越えさせるドリルや地面にハードリングの体勢で座らせて骨盤を前傾させながら抜き足を横にする感覚を引き出させてあげます。
「一度リード足の意識は忘れて、この時の感覚を意識してハードルを跳んでごらん」
と、意識を向ける対象を絞ってあげることで、選手の意識を抜き足に集中させやすくします。
このような意識の削除と創造、練習を繰り返すことで、より効果的で効率的な技術指導を行うことができます。