インターナルフォーカスでは、動作そのものや自分の身体そのものを意識することで、全力運動や、自然な滑らかな動作が阻害され、一時的なパフォーマンス低下につながることがあります。
特に、全力に近くて運動途中で動作を修正する暇がない短距離走や跳躍、投てき種目では、
「腕をもっと大きく振ろう」
「膝を高く上げて走って」
「体幹をまっすぐにジャンプして」
「スタートで身体を一直線に」
「膝や肩に力を込めて」
「足首を固定して」
というような指示で、逆に動きがぎこちなくなってしまうことは、良くみられるのではないでしょうか?
これは、全力に近い運動と、ゆっくりだけど精密な動きが求められる運動とでは、身体運動を制御しているシステムが異なり、インターナルフォーカスでは、後者のシステムを誘導してしまいやすくなることに起因しています。
開回路システムと閉回路システム
全力に近い運動、一瞬で行われるような運動では、予めプログラミングされた「運動プログラム」を用いて運動を行います(開回路システム)。
飲み物を飲みたいときに、自販機でボタンを押したら、予め用意された飲み物が瞬時に出てくる…といった具合です。こちらは一度ボタンを押すと飲み物の味の修正はできませんが、すぐ飲み物を飲めます。押したら決まったものが出てくるので、一連の流れが自動化されています
野球のピッチングや、サッカーのキック、テニスのストロークなどは、運動を始めてしまうと途中で修正が利かないので、開回路制御が優位な運動と言えます。陸上競技においては、瞬発系の短距離、跳躍、投てきはほぼこの開回路制御が優位な運動と言えるでしょう。
一方、ゆっくりだけど精密な動きが求められる運動では、運動を行いながら「状況に応じて動きの微調整を加えながら」運動を行います(閉回路システム)。
同じく飲み物を飲みたいときに、味見を繰り返しながら、お好みの味や温度へ調整していく…といった具合です。こちらは、味見というフィードバックを用いて、より好みの味を目指すことができますが、完成まで時間がかかる…という例えができるでしょうか。
山道を路面の状況に合わせて上手く歩いたり、サイクリングをしたりする場面では、この閉回路制御が優位と言えるでしょう。
このように、瞬発的な運動と、ゆっくりとコントロールがしやすい運動とでは、使っている運動制御の仕組みが異なっていると考えられています。
そのため、自動化されている開回路制御優位の全力運動に対して、「足首を固定して!肘は90度に!」などと注文を付けることは、自販機に「もっと味を濃くして!」と無理な注文を付けるのと同義と言っても過言ではないことになります。
(好みの味の飲み物を買うには、予め商品自体を入れ替える、つまり運動プログラム自体を書き換える必要があります)。
インターナルフォーカスによって、全力で運動するための自動制御システムを阻害してしまうため、上手く全力が出せなくなる、逆にぎこちなくなってしまう感じです(オートマチック車から、ミッション車にいきなり乗せられたような感じ)。

では、この全力運動での滑らかさを極力保ったまま、動作を良い方向へ導くにはどのようにすべきなのでしょうか?そこで登場するのが、エクスターナルフォーカスです。