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筋力トレーニングでの筋肥大、筋力向上がパフォーマンスにつながらないあるあるパターン

筋肥大=筋力向上ではないし、筋力向上=疾走速度UPでもない

 

上記の記事では、「筋肥大したからと言って、必ずしも筋力向上するとは限らないし、よく言われる最大筋力が向上したからと言って、それが走りの中での力発揮を向上させるとは限らない。」

 

「しかし、筋が肥大することはスプリントパフォーマンスを高める上で重要な適応であり、筋力向上や筋肥大を狙った筋力トレーニングは、走りの中での力発揮能力向上のポテンシャルを高めるための合理的な戦略である」ということを説明しました。

 

ここではその前提知識を踏まえたうえで、筋力トレーニングでの筋肥大、筋力向上がパフォーマンスにつながらないあるあるパターンを紹介したいと思います。

 

スプリントトレーニングを中心としたトレーニングにより、疾走速度の向上がみられたトップスプリンターでも、股関節周りの筋肥大が観察されている

 

トレーニングにより疾走速度の向上に成功したスプリンターでは、股関節周りの筋肥大がみられた。一方、疾走速度が向上しなかったスプリンターではそれがみられていない。

 

 

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技術の最適化ができていない

その種目そのものの練習を怠っていると、たとえベースの筋力が高まったとしても、記録向上にはつながりません。

 

実際に、力発揮のタイミング(という名の技術)を変えずに、筋力だけを増やしても、逆に跳躍高が落ちてしまったという垂直跳のシミュレーション研究があります。

 

しかし、上がった筋力に応じて力発揮のタイミングを最適化すると、筋力が上がった分だけちゃんと記録が伸びたとのことです(Bobbert& Van Soest, 1994)。

 

 

この研究の面白いところは、技術を変えなかった場合、単純に筋力を大きく向上させるほど跳べなくなった。膝の筋力向上だけなど、局所の筋力だけ向上させるほど跳べなくなったという点です。

 

単純に筋力だけを伸ばしても、自分にとっての技術の最適化、つまりその種目の専門的なスキルの部分練習、全体練習、試合形式の実践練習が不足していれば、平気でパフォーマンスが落ちることがあり得ます。ですが、きちんとその種目特有のスキル練習、実践練習をやっていれば、ちゃんと記録につながってくれます。

 

扱うキャラが変わったのに、それまでと同じ操作をしていても勝てないわけです。

 

捉え方を変えると、ベースの筋力が向上した場合、過去の良かった時の感覚にとらわれずに、「今の自分」が最もパフォーマンスを発揮できる、新たな動きの感じを探る必要があるということです。

 

良かった時の感覚に執着しすぎると、それが足枷になってしまい、感覚迷子になってしまうことが多々あります。過去に戻ることはできません。過去を越えるためにも、絶えず今の自分やこれからの自分に最適な技術を模索しましょう。

 

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筋肥大、最大筋力的なトレーニング特化の期間が長すぎる

筋肥大、最大筋力的なトレーニング特化の期間が長すぎて、その他の速く、エキセントリックな、爆発的な力発揮のトレーニングを怠っていると、その後一時的に、種目特異的な力発揮能力が落ちてしまう、専門練習に特化し始めてもなかなかもどらないことがあります。

 

低速でのトレーニングばかりだと、筋束が短く、末端を引っ張る方向に対する角度(羽状角)が大きくなることがあります。

 

筋の生理学的な筋断面積が広くなり、たくさんの筋線維で引っ張れるので、デカい力を出しやすくなる反面、同じ縮む量でも端を引っ張れる距離が短くなり、速度が出せなくなりがちです。ちなみにカニやクワガタの筋肉はこういう作りです。

 

 

これとは逆に、筋束を長くして、同じ縮む量でも末端をより長く引っ張れて、速度が出やすい筋肉を作るためには、種目特異的な高い速度でのトレーニングや、筋が力を出しつつ引き延ばされるようなエキセントリックトレーニングが必要です。

 

確かに、年間通してパフォーマンスを高めるために、比較的筋肥大の起こりやすい、筋持久力や筋力養成に特化した期間を作ることは、伝統的なピリオダイゼーションの代表的な考え方です。しかし、より速度やパワーの出しやすい専門的な筋力づくりは、筋肉系の怪我を防ぐためにも重要なので、年間通して軽視すべきではないでしょう。

 

 

 

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持久的なトレーニングが疎かになっている

持久的なトレーニングを行っていなければ、いくら短距離選手と言えども、ハイパフォーマンスは望めません。100mでも10秒ちょっとの全力運動を続けるので、その最大スピードの持久力が必要です。

 

特に200mや400mと、距離が長くなるにつれて、最大スピードの向上とともに、持久力の重要度合いが当然上がっていきます。その種目での記録を出すために必要な能力をきちんと網羅しておかないと、筋力トレーニングの成果は記録につながりません。筋トレはすべてを解決してくれるわけではない、ということは肝に銘じておきましょう。

 

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体脂肪が増えすぎている

太り過ぎてしまうと、いくら筋力が高まっても、記録が落ちてしまうことがあります。

 

筋力向上、筋肉量アップを確実に行う場合、エネルギー収支をプラスにすることは重要です。エネルギーが余っていないと、身体の合成作用は高まらず、分解作用が強くなってしまいます。分解作用が強いのに、筋肉の合成だけ促してくれ…というわがままは通用しないので、体重がほんのり増えていくくらいは食べる必要があります。

 

しかし、この過程では体脂肪も増えやすく、余分な体脂肪は当然重りになります。短距離や跳躍は自分の身体を素早くゴールへ運ぶ種目なので、5㎏余計な重りを背負って走れば、当然不利です。

 

食べまくって体重をガンガン増やせばみるみるウエイトの記録が上がって気持ちいいですが、本来の目的を見失わないように、増量と減量は計画的にしましょう。

 

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体脂肪減のための栄養摂取についてこちらで解説しています

 

優先して鍛える部位を間違っている

競技力を高めるために優先して鍛える部位を間違うと、まず記録につながりません。極端な話、選手の腹筋だけ1kg増えても、パフォーマンス向上はほぼ狙えないことはおおよその人が理解できると思います。自分の体重を素早く移動させることが主目的の短距離や跳躍選手ならむしろ記録が落ちる可能性が高いでしょう。

 

種目が違えば求められる力発揮能力は異なります。短距離走で太さが重要な筋肉で明確なものは、股関節周りや肩回りなど、四肢の付け根部分に近い筋肉です。長い脚や腕をブンブン速く振り回すには、その中心に当たる股関節周りにはとても大きな筋力が必要だからです。

 

これは言い換えると、身体の末端部分を過度に太くするようなトレーニングを重視しすぎると、四肢を振り回す労力が増え、パフォーマンス低下につながる可能性が高くなることになります。

 

超短い時間で衝撃に耐えたり、腱の力をフル活用して力発揮を行う膝回りや足首回りでは、筋の太さと疾走速度の関連性は弱まり、硬いばねのようにふるまえる能力が重要になってきます(そのような鍛え方を積み重ねた結果、筋が少し肥大する…という適応が起こることは重要かもしれません)。

 

その種目で鍛えられる部位、能力と、自分の競技時種目に求められる形態的な特徴、能力をきちんと整理して、トレーニング種目をピックアップする必要があるでしょう。

 

加えて、スプリンターは非スプリンターよりも下肢の筋量が明らかに多いにも関わらず、正規化された股関節周りの慣性は非スプリンターと有意な差がないということも示されています(Sado et al., 2023)。

 

したがって、変な鍛え方をしなければ、筋力トレーニングによって下肢を振り回すことに対するデメリットが大きくなるリスクは小さいと言えるかもしれません。

 

 

筋原線維(筋)の肥大は、最大筋力を向上させ、スプリント&持久パフォーマンスを向上させるメリットがある。しかし、過剰な筋肥大は、体重の増加、四肢の質量や内部モーメントアームの増加によるデメリットを生じさせ、パフォーマンスを損なう可能性がある。どのようなメリットのあるトレーニングでも、そのデメリットが上回らないように行うことが大切である。

 

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参考文献

・Haff, G. Training Principles for Power. Strength and Conditioning Journal 34(6):p 2-12, December 2012. | DOI: 10.1519/SSC.0b013e31826db46
・Bobbert, M. F., & Van Soest, A. J. (1994). Effects of muscle strengthening on vertical jump height: a simulation study. Medicine and science in sports and exercise, 26(8), 1012-1020.
・吉本隆哉, 高橋英幸, 杉崎範英, & 千葉佳裕. (2019). トレーニング期前後のスプリントパフォーマンス向上に伴う筋の形態的特徴の変化. デサントスポーツ科学= Descente sports science, 40, 196-205.
・Nuell et al. (2020) Hypertrophic muscle changes and sprint performance enhancement during a sprint-based training macrocycle in national-level sprinters. European Journal of Sport Science, 20(6), 793-802.
・Van Hooren, B., Aagaard, P. & Blazevich, A.J. Optimizing Resistance Training for Sprint and Endurance Athletes: Balancing Positive and Negative Adaptations. Sports Med 54, 3019–3050 (2024). https://doi.org/10.1007/s40279-024-02110-4
・Sado N, Ichinose H, Kawakami Y. The Lower Limbs of Sprinters Have Larger Relative Mass But Not Larger Normalized Moment of Inertia than Controls. Med Sci Sports Exerc. 2023 Mar 1;55(3):590-600. doi: 10.1249/MSS.0000000000003064. Epub 2022 Oct 21. PMID: 36730966; PMCID: PMC9924968.

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