さて、「真下(付近)接地」は、たぶん大事なことなんだろうな~というのが何となく分かってきたところで、「じゃあ、具体的にどんな形になればいいの?どんなトレーニングが有効なの?」という話に入っていきます。
①「身体に近い」と「身体重心に近い」は、ベツモノ
「真下接地」を心がけようとするときに注意すべきことが、「身体に近い位置に接地する」というよりも、「接地位置に身体各部位を追い付かせる」ということです。下の図を見てみると分かりやすいと思います。

AとBの選手は、どちらもおヘソから同じくらいの近い位置で接地をしています。見た目的には、どちらも「真下(付近)接地」ができていると判断されることもあるかもしれません。
しかし、選手Bは遊脚(前に引き出す脚)や腕が後ろに大きく取り残されたままになっているので、身体重心は接地位置から、より後ろに位置することになります。
このように、見た目的には身体に近いところで接地しているように見えても、その肢位によっては必ずしも身体重心に近い位置で接地できているとは限らないわけです。
選手Bは接地時に遊脚や上半身が遅れたままになっているので、接地時間は長引き、短時間で弾むことも難しくなります。また、100m走など、短距離走の後半の速度低下時にも、遊脚の回復が遅れて、接地が身体重心のより前方になる動作に近づくことも報告されています(遠藤ほか,2008)。この動作は選手Bに近いものだと言えるでしょう。
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一方で選手Aは、遊脚や上半身の振り込みのタイミングが早く、それらが上向きに早期に加速することで、接地の瞬間に地面鉛直方向に力が伝わりやすいフォームだと考えられます(豊嶋と桜井,2019)。
したがって、「真下接地を意識しよう!」とするときは、「身体の近くに接地しなきゃ!」という意識よりも、「接地点に遊脚や上半身を早期に乗り込ませよう・・・」というアプローチの方が、理にかなっているとも言えるわけです。
②「真下接地」を可能にする体力とは?
「真下(付近)接地」を一つの技術とみなすのならば、その技術を達成できるための体力が必要になります。技術は体力の上に成り立つのが前提だからです。その動作をそのタイミングで、その速さで行いたいのに、それが実行可能な筋力や瞬発力、調整力などが伴っていなければ、その動作を遂行することはできません。レベルの低いポケモンは大技を覚えられないわけです。

では、上で言及した「接地点に遊脚や上半身を早期に乗り込ませた真下接地」を可能にする体力には、どんなものが挙げられるでしょうか?最後に紹介しておきます。
股関節の屈曲筋力
まず、強靭な股関節の屈曲筋力です。相対的に後ろに流れていく脚にブレーキをかけて、一瞬で腿を前に引き出すことができなければ、接地の時に脚が後ろに大きく残ったままになってしまいます。これでは、重心位置も後ろに残ったままになりやすいので、なかなか「重心の真下付近での接地」が達成できません。
やや狭めのマーカー走などで、腿を切り返すタイミングを早めようと意識したり、そもそもの股関節屈曲筋群の筋力トレーニングを取り入れるなどで、修正・強化が図れると考えられます。
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上半身を素早く切り返す筋力
上半身、特に腕振りを早いタイミングで切り返して遅れないように振るためには、腰や胸周りを捻じり戻す筋力、肩や肘を曲げ伸ばす筋力向上が必要です。
その筋力を高めるためには、全力で走って上半身を素早く切り返すような刺激を与えるだけでなく、ウエイトトレーニングなどを活用すると良いでしょう。
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足関節の硬いバネ的な筋力
真下付近で足を接地すると、必然的に足裏の前部分で着地することになります。いわゆるフォアフット接地というやつです。
しかし、ここで足首周りを「クッ」と、硬くできるだけの筋力が無ければ、接地でつぶれてしまい、アキレス腱のバネの力を上手く使うことができません。そうなってしまうと、いくら「真下接地」に向けてあらゆる工夫を凝らしたところで、接地が間延びしてしまい、形だけのものにものになってしまいます。
なので、この接地の瞬時にある程度ふくらはぎの筋肉を硬くして、アキレス腱のバネの力を引きだせるだけの筋力が必要になります。
そこで有効なトレーニングとして、不整地を地道にジョグをして、足首周りを補強するような刺激を与えたり、縄跳びのような短い接地のジャンプで、アキレス腱のバネを引き出すようなトレーニングが挙げられます。
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接地の一瞬でブレーキをかける筋力
身体に近い位置で接地をするということは、その分「ブレーキをかけられる時間が短くなる」ということです。必要以上に大きなブレーキは必要ありませんが、直立姿勢で走っている以上、身体のバランスを保つために、ある程度のブレーキをかけてあげる必要があります。となれば、「短時間、一瞬でブレーキをかける能力」が必要です。
この能力を高めるための手段として、全力で平地をスプリントすることはもちろん、下り坂を走ったり、バウンディングしたりするトレーニングが挙げられます。必然的に大きなブレーキを短い時間でかけることができなければ、下り坂を高速で走ったり、バウンディングしたりすることはできません。大きなブレーキを短い時間でかけられる脚づくりにどうでしょうか?(負荷が大きいため、怪我には注意しましょう)
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目的となる動作と、それを達成するための考え方が理にかなっていれば、トレーニングの幅は無限大です。
その目的としている動作というのは、今の自分のパフォーマンスを高めるために本当に必要なものなのか?それを達成するためにはどんなことが必要で、自分に足りていないのは何か?その足りていない要素を補うトレーニングはこれで十分か?・・・を徹底的に考えて、実行するのが大事だと思います。本記事がその一助となれば幸いです。