「ピリオダイゼーション(陸上短距離を中心に)①―理論の本質を理解しよう―」にて、ピリオダイゼーション理論の大まかな内容について紹介しました。
ここでは、その中の「準備期の重要性」について考えていきます。
一般的準備期と専門的準備期
準備期は、一般的準備期と専門的準備期に分かれています。
そもそも、一般的とか専門的とかって何なのでしょうか?
100m走の選手で例えてみましょう。
100m走では、爆発的な加速力や高いトップスピード、それを維持する持久力が重要です。
それらを獲得するには非常に短い時間や高いスピードの中で筋力を発揮できる能力や、非常に大きなエネルギーを生み出し続ける筋肉の持久力が必要となります。
そして、それらを高めるためにはそもそもの筋肉が大きな力を発揮できたり、エネルギーの貯蔵量が多い必要があります。
そしてさらにそれらを達成するためには、筋肉の大きさが非常に重要です。
このように、競技力向上に必要な要素を掘り下げていくと、100m走のハイパフォーマンス達成に必要な土台は、筋量にあることが分かります。
しかし、100m走の場合、筋量を増やしたり、筋力を高めるだけでは競技力は上がりません。
必ず100m走の練習をやって、100m走特有の体力に転化させる必要があるのです。
このように、筋量を高めたり、筋力を高めたりするトレーニングは「競技力に直結はしないが、競技力の向上に貢献しうる基盤的能力」と言えるのに対して、
実際の100m走に近い60m走やスタート練習は「競技力に直結しうる、競技そのものに近い能力」と言うことができますね。
そして、前者を一般的体力、後者を専門的体力と呼び、それに対応したトレーニングを一般的トレーニング、専門的トレーニング、試合的トレーニングと言うのです。
競技力に直結する練習だけやるのはダメなの?
ダメだとは言いませんが、その理屈で行くと100mの試合だけやっていれば競技力はぐんぐん上がっていくことになります。
しかし、レースだけで細かい動作を改善して、技術を習得するのは非効率ですし、レースは練習強度が高すぎて、回復に時間を要するため、トレーニングの総量は必然的に少なくなってしまいます。
ハイパフォーマンスの土台となる筋サイズやエネルギー代謝の基盤を改善するのに十分な負荷が得られにくいので(皆さん年中かなりの量走っているのに下半身ムキムキになっていかないのはそういうことも関連している)試合だけでなく、土台作りに特化してトレーニングを行うことはおそらく必要でしょう。
実際の競技に近い練習は、競技力に直結しやすい競技成績が比較的すぐに出るトレーニングであると言えます。
ですが、競技力を構成する土台がしっかりできていないと、頭打ちが早く来たり、オーバートレーニング、怪我を誘発しやすくなってしまうのも事実でしょう。
レースに近い練習(試合的運動)は、作り上げた土台を改良し、競技力につなげる(転換)ための仕上げであり、仕上げをやってる時期に調子が良くなったから、この練習は効果が高い!!これが自分に合っている!とするのは良くある勘違いとなります。
試合的な練習やって競技力にぐんぐん表れる人と、すぐ頭打ちする人がいるのはなぜか、考えるヒントはその人の土台(ポテンシャルとも言える)にあると言えるでしょう。
このように、試合に近いトレーニングだけでは選手の能力を十分に高めることは難しく、試合的なトレーニングとは別のことをやって、競技力の土台を強固にすることが重要です。
その土台を強固にすることを目的としたマトヴェーエフ理論における「準備期」は、それだけ重要な期間であり、この期間の充実度合いが目標とするシーズンでの成功を左右します。
では、この準備期を選手はどのように過ごしていくべきなのでしょうか?
******関連記事はこちら************************************
・ピリオダイゼーション(陸上短距離を中心に)①―理論の本質を理解しよう―
・ピリオダイゼーション(陸上短距離を中心に)②―一般的体力と専門的体力の違い、および準備期の重要性―
・ピリオダイゼーション(陸上短距離を中心に)③―準備期の過ごし方―
・ピリオダイゼーション(陸上短距離を中心に)④―試合期の過ごし方―
・ピリオダイゼーション(陸上短距離を中心に)⑤―移行期の過ごし方―
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参考文献
・L. P. マトヴェーエフ:魚住廣信監訳・佐藤雄亮訳(2008)ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論,ナップ.