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長距離走が速い人の特徴とトレーニング

長距離走の速さを決めるのは?

最大酸素摂取量(VO2max)

最大酸素摂取量と長距離パフォーマンスの関係

最大酸素摂取量とは、身体が一定時間内に取り込める酸素の最大量のことを言います。これは、一定時間内に身体がどれだけ酸素を使うことができるかを表す指標です。酸素をより多く利用できるほど、長距離走のパフォーマンスは高い傾向があります。

 

長距離走では、酸素を使ってエネルギーを生み出す能力が高いほど有利です。酸素を使ってエネルギーを生み出す仕組みは「有酸素系」と呼ばれ、「長続きさせられる」からです。

 

一方で、身体には酸素を使わずともエネルギーを生み出す仕組みが備わっています。こちらは「無酸素系」と呼ばれていて、有酸素系よりも大きなパワーを生み出すことができます。しかし、長続きしないという欠点があります。

 

 

 

「有酸素系」と「無酸素系」はいつでも同時に働いていて、より長い時間が必要な運動では、有酸素系の方が大きく働くようになります。しかし、この有酸素系でエネルギーをたくさん生み出す能力に乏しいと、高いスピードで走り続けることができません。なので、身体により多くの酸素を取り込み、使える能力(最大酸素摂取量)は、長距離のパフォーマンスに関わる重要な要因だと言われているのです。

 

 

 

 

 

トップアスリートでは関係ない?

トップランナーの間では、最大酸素摂取量とパフォーマンスにほとんど関係が無いとも言われています(Yamanaka et al.,2020)。トップランナーでは最大酸素摂取量よりも、その他の能力がパフォーマンスを左右しているということです。

 

とは言え、「トップランナー間で差が無い=みんなトレーニングしなくて良い」ことにはなりません。初心者や中級ランナーでは積極的にトレーニングすべきですし、トップランナーと言えど、その能力に伸びしろがあるのであれば、集中してトレーニングすべき要因です。

 

・スプリント能力の高さと長距離走のパフォーマンスの関係

 

 

最大酸素摂取量のトレーニング

これを高めるためには、高い強度での持久トレーニングが必要になります。最大酸素摂取量を高めるわけですから、最大酸素摂取レベルで運動することが、直接的に有効なトレーニングになるというわけです。

 

主観的に「最高にきつい・非常にきつい」と感じるくらいの強度で、激しく呼吸が乱れるようなペースです。

 

トレーニング例

・1000m×5本 休息5分
・(1000m+2000m)×3セット 距離間5分 セット間10分 

 

関連動画

 

関連記事

・よくわかる最大酸素摂取量(VO2max):スポーツパフォーマンスや健康との関わりは?

 

乳酸性作業閾値(LT)

長距離走の速さと乳酸性作業閾値

乳酸性作業閾値とは、無酸素系にあまり頼らずとも運動を継続できる運動強度のことを指します。

 

マラソンなどの持久運動では、より長い時間ペースを保たないといけません。しかし、序盤で長続きしない無酸素系に頼ってしまうと、ペースを保てなくなってしまいます。

 

その無酸素系への「頼り度合い」の指標になるのが「乳酸」です。無酸素系では身体に蓄えられている糖質を分解し、その時に乳酸という物質が作られます。そして、無酸素系が強く働くようになると、血液の乳酸値が高くなるのです。

 

なので、できるだけ無酸素系に頼らずペースを保つためには、乳酸値が高まらないようにするのが重要なポイントになります。下図のように、ペースを上げていくと乳酸値が急増するポイントがあります。これが乳酸性作業閾値です。

 

・よくわかる乳酸性作業閾値(LT:Lactate threshold)

 

この乳酸性作業閾値が違うAとBの選手を比べてみましょう。AとBは同じペースで走っています。しかし、Aにとっては乳酸性作業閾値よりも高いペースなので、よりたくさんの糖質を消費しています。

 

 

この状態だと、Aは早く疲労して、いずれB選手においていかれます。なので、乳酸性作業閾値の向上は、速いペースを長く維持するのに重要な指標になるわけです。

 

 

乳酸性作業閾値を高めるトレーニング

これを高めるためには、筋肉が多く酸素を使えるようにすることが重要です。最大酸素摂取量は、肺でどれだけ酸素を取り込んで全身に送ることができるか?が重要だったのに対し、乳酸性作業閾値はどれだけ酸素を使えるか?がより関わる指標です。

 

そのためには、酸素でエネルギー作る工場(ミトコンドリア)や、酸素をスムーズに届ける「毛細血管」を増やすことが必要です。筋肉には遅筋線維速筋線維があり、どちらの筋線維の能力もトレーニングで高めなければいけません。

 

 

 

また、最大酸素摂取量のトレーニングでは「非常にキツイ」強度でのトレーニングが重要でしたが、乳酸性作業閾値のトレーニングでは、「トレーニング量」がより重要になってきます。

 

トレーニング例

―遅筋線維のトレーニング―
・LSD(Long slowdistance)30-120分程度
⇒会話ができる強度の低いペースで、ダラダラとエネルギーを使い続ける

 

―速筋線維のトレーニング―
・10000m ペース走
⇒ややキツイと感じるペース。呼吸が少し乱れるペースで。

 

・5000m+5000m r:400m walk
⇒呼吸が乱れるペース。20分間耐えられるかどうか…?のペースが目安。

 

参考動画

 

 

・高強度持久系アスリートのトレーニングは、スピードが大事?量が大事?(中長距離の練習比率)

 

ランニングエコノミー(RE)

長距離走の速さとランニングエコノミー

ランニングエコノミーとは、一定ペースで消費する酸素消費量のことを指します。車で言う「燃費の良さ」を示すものです。持久走では、当然無駄なエネルギー消費を抑えて走れた方が有利なので、ランニングエコノミーに優れていた方が良いというわけです。

 

 

ランニングエコノミーに関わる要因とトレーニング

このランニングエコノミーに関わる要因には、様々なものが挙げられます。

 

スプリント能力

全力に近いスピードを出すようなスプリント能力が高いほど、ランニングエコノミーに優れている傾向があります。実際に、5000mや10000mなどの長距離走のパフォーマンスと100mや400mのスプリントパフォーマンスとの関係を調べた研究では、長距離走のパフォーマンスとスプリントパフォーマンス、そしてランニングエコノミーに有意な相関関係が得られたと言います(Yamanakaほか,2019)。

 

短距離選手のように速く走るためには「身体のバネ」のような力を使えることがとても重要です。このバネのような筋力の使い方は、エネルギーを消費しにくい性質があるため、より少ないエネルギー量で走る能力につながりやすいというわけです。

 

長距離選手のスプリントトレーニング例

・200m全力スプリント×6本 休息4分

・150m全力スプリント×5×3 本数間3分 セット間10分

 

また、このようなスプリントトレーニングをインターバル形式で行えば、長距離走のパフォーマンスに深くかかわるミトコンドリアを増やすことにもつながります。

 

 

・陸上中長距離選手のためのスプリントインターバルトレーニング

 

 

身体の硬さ?

身体が硬い方が、ランニングエコノミーに優れている傾向があります。身体が柔らかすぎると、身体のバネのような力を使いづらくなってしまうことが原因として考えられています。

 


ただ、特定の可動域の狭さがケガに繋がっていたり、明らかにパフォーマンスを制限していると判断できる場合には、その部位の柔軟性。可動性を改善させることも必要です。

 

やみくもに、「ストレッチはやっちゃダメ」という認識を持つのは好ましくありません。

 

・柔軟性が高過ぎると走りの効率が悪くなるかも?

 

 

足首の硬さ?

身体の硬さの中でも、「足首の硬さ」は特に重要だと言われています。実際に、足首が硬いほど(つま先を挙げるために必要な力が大きいほど)、5000m走のパフォーマンスやランニングエコノミーのレベルが高かったと言われています(Ueno et al.,2018)。

 

※Uenoほか(2018)より:縦軸は足関節の硬さ度合い(スティフネス)を表しており、5000m走の記録が良い群の方がスティフネスが高い

 

足首のバネは、走るためのエネルギー消費を抑えるために特に重要で、足首が硬い(または硬くできる)ほど、走りの効率が良くなるというものです。

 

 

 

足首のバネを鍛えるトレーニング例

 

 

・身体が硬い方が足が速い?(短距離・中長距離走と柔軟性の科学)

 

長距離走の速さと体型

長距離走のパフォーマンスには、「体型」も関係します。

 

吉岡ほか(2009)の研究では、10000m走の記録が良い選手ほど、腿の前の筋肉に対して腿の裏の筋肉(ハムストリング)が発達しており、ふくらはぎの筋肉量が相対的に大きいほど、ランニングエコノミーが低い傾向があったとしています。

 

走るためには、身体の末端部分をより大きく動かす動作が必要です。その時、ふくらはぎなどの末端部分が重たいと、より多くのエネルギーを消費してしまうというわけです。

 

なので、長距離が速い人には、身体の末端部分が細くて、それを動かす中心部分(股関節周り)の筋肉はしっかりと発達していることが多いのです。

 

 

・中長距離選手が目指すべき体型(フォルム)

参考文献

・Laursen, P. B. (2010). Training for intense exercise performance: high‐intensity or high‐volume training?. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 20, 1-10.
・Weyand, P. G., Cureton, K. J., Conley, D. S., Sloniger, M. A., & Liu, Y. L. (1994). Peak oxygen deficit predicts sprint and middle-distance track performance. Medicine and science in sports and exercise, 26(9), 1174-1180.
・Yamanaka, R., Ohnuma, H., Ando, R., Tanji, F., Ohya, T., Hagiwara, M., & Suzuki, Y. (2020). Sprinting Ability as an Important Indicator of Performance in Elite Long-Distance Runners. International journal of sports physiology and performance, 15(1), 141-145.
・八田秀雄(2003)芳賀脩光, & 大野秀樹 編, トレーニング生理学,杏林書院.
・八田秀雄(2004)エネルギー代謝を生かしたスポーツトレーニング,講談社.
・Trehearn, T. L., & Buresh, R. J. (2009). Sit-and-reach flexibility and running economy of men and women collegiate distance runners. The journal of strength & conditioning research, 23(1), 158-162.
・Gibala, M. J., Little, J. P., Van Essen, M., Wilkin, G. P., Burgomaster, K. A., Safdar, A., ... & Tarnopolsky, M. A. (2006). Short‐term sprint interval versus traditional endurance training: similar initial adaptations in human skeletal muscle and exercise performance. The Journal of physiology, 575(3), 901-911.
・吉岡利貢, 中垣浩平, 向井直樹, & 鍋倉賢治. (2009). 筋の形態的特徴が長距離走パフォーマンスに及ぼす影響. 体育学研究, 54(1), 89-98.
・Fletcher, J. R., & MacIntosh, B. R. (2017). Running economy from a muscle energetics perspective. Frontiers in physiology, 8, 433.
・Hiromasa Ueno, Tadashi Suga, Kenji Takao, Takahiro Tanaka, Jun Misaki, Yuto Miyake, Akinori Nagano, Tadao Isaka (2018) Potential Relationship between Passive Plantar Flexor Stiffness and Running Performance.Int J Sports Med. 39(03): 204-209.

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