長距離パフォーマンスとスプリント能力との関係
長距離走のパフォーマンスを高めるためには、長い距離をこなすだけでなく、短い距離のスプリントやウエイトトレーニングなど、瞬発的な能力を向上させるトレーニングも重要だと言われます。
実際に、5000mや10000mなどの長距離走のパフォーマンスと100mや400mのスプリントパフォーマンスとの関係を調べた研究では、長距離走のパフォーマンスとスプリントパフォーマンス、そしてランニングエコノミーに有意な相関関係が得られたと言います(Yamanakaほか,2019)。以下はその結果をまとめたものです。
5000m走のシーズンベスト(13:58.5±0:18.7)との相関係数 ・100m走(13.3 ± 0.7 s; r = 0.68, p < 0.05) ・400m走(56.6 ± 2.7 s: r = 0.69, P < 0.05) ・ランニングエコノミ―(55.5 ± 3.9 ml kg-1 min-1: r = 0.59, p < 0.05)※1分あたり300mの速度で
10000m走のシーズンベスト(28:37.9±0:25.2)との相関係数 ・100m走(r = 0.72, p < 0.01) ・400m走(r = 0.85, p < 0.001) |
「r」と言うのが相関係数と呼ばれるもので、これが「1」に近づくほど、両者の関係性の強さを表します。したがって、このレベルの長距離選手のパフォーマンスの善し悪しに、100m走や400m走のスプリント能力は重要な指標になり得ることが分かります。
このようなことから、長距離選手であれ、スプリントトレーニングを行い、爆発的な力発揮能力、スピードを高めることの重要性が伺えます。
また、そのようなスピードトレーニングは、筋肉を一瞬で硬くして、腱の力を上手く引き出す、いわゆるバネを上手く使えるような能力にも関わります。
腱の伸縮はエネルギーを消費しにくいため、ランニングエコノミーの向上も期待できるでしょう。そのためにも、スプリントトレーニングは重要です。
一方、上記の研究で、酸素をどれだけ使えるかの能力の指標であるVo2maxとは、長距離走のパフォーマンスと有意な相関が見られませんでした。
これは、この研究の対象者がハイレベルの競技者(5000mの平均タイム13分58秒、10000mの平均タイム28分38秒)であり、最大酸素摂取量(Vo2max)だけでは、パフォーマンスに差がつきにくかったことが原因として考えられます。(レベルが低い競技者を含めて広い範囲で相関を取ると、最大酸素摂取量と持久パフォーマンスには、強い関係が見られます。)
したがって、かなりレベルが高くなってくると、長距離走でもスプリント能力や、ランニングエコノミーなどの能力が、パフォーマンスに深く関わってくることになると言えます。
参考文献
・Ryo Yamanaka, Hayato Ohnuma , Ryosuke Ando, Fumiya Tanji, Toshiyuki Ohya , Masahiro Hagiwara and Yasuhiro Suzuki(2019)Sprinting Ability as an Important Indicator of Performance in Elite Long-Distance Runners.International Journal of Sports Physiology and Performance.(In press)