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陸上中長距離もウエイトトレーニングをやるべき理由とその方法(重さ・回数・頻度)

陸上中長距離もウエイトトレーニングをやるべき理由とその方法(重さ・回数・頻度)

 

 

中長距離選手にウエイトは必要?

 

中~長時間スピードを維持することが求められる陸上競技の中長距離選手にとって、ウエイトトレーニングは「身体が重くなってしまう」「持久力の無い筋肉が付いてしまう」などのイメージを持たれることがあります。

 

 

実際に、筋力トレーニングだけをすることによって筋肉が大きくなると

 

・筋肉が増え、体重も増えるので自分の体重を移動させるのに必要なエネルギーも増える
・身体の末端の筋肉が増えると、腕や脚を大きく速く動かしにくくなる
・筋肉が太くなるので、酸素やエネルギー源の移動が難しくなる
・酸素を使ってエネルギーを生み出すミトコンドリアという器官の密度が低下してしまう

 

などのことが起こり、持久運動のパフォーマンスは低下すると考えられていました。

 

 

しかし、このような現象がみられるのは「ウエイトのみ」を行った場合です。近年、持久トレーニングと並行してウエイトを行えば、持久パフォーマンスの改善につながることが非常に多く報告されています(Blagroveほか,2018)。

 

 

 

なぜ、中長距離選手もウエイトをやるべきなのか?

 

「筋肉が増える~」「身体が重くなっちゃう~」とか言わずに、中長距離選手もウエイトトレーニングに取り組むべき理由には、以下のようなことが挙げられます。

 

 

持久トレーニングと並行すれば、そこまで筋肉量は増えない

 

普段多量の持久トレーニングを行っている選手は、たとえウエイトトレーニングを行ったとしても、筋肉量がなかなか増えません。持久系のトレーニングには、筋肉の増加を抑える働きがあるからです。この働きは、持久トレーニングの量が多くなるほど大きくなります。呼吸が乱れるようなペースでガンガン長い距離を走って走って走りまくるほど、ウエイトによる筋量増加は起こりにくくなります(増えないとは言っていない)。

 

 

したがって、持久トレーニングをしっかり行いつつ、ウエイトトレーニングを行えば、「筋肉量が増えて身体が重くなっちゃう~」という心配はあまりしなくてもよろしいわけです。筋肉量が増えたとしても短期間で1~2㎏増えちゃった…なんてことはないので大丈夫。もし数週間で筋肉が数キロ増えた!と言う人がいれば、とんでもない才能の持ち主です。今すぐボディビルに転向してスターになり、賞金を稼ぎましょう。

 

 

関連記事

・干渉作用の原因―持久力を高めつつ筋量を上手く増やせない理由―

 

 

むしろ、然るべき筋肉は大きくすべき

 

そもそも「体重が増える=持久パフォーマンスが落ちる」という考え方がナンセンスです。臀筋群、ハムストリング、腸腰筋…など、股関節周りの筋肉量を増やすことは、中長距離走のパフォーマンスを高めるために必要な場合があります。

 

 

陸上競技の中長距離走は、できる限り「高いスピードを維持する持久力」が必要です。「遅いスピードを維持する持久力」だけでは、良い記録が出ません。スピードが遅いので延々と置いて行かれます。

 

 

そのため、ある程度高いスピードを出すための筋力が必要になります。細すぎる筋肉では、発揮できる力にどうしても限界があるので、スピードを出して走るための筋肉の量は、そこそこ増やしていく必要があると言えます。

 

 

「スピードが高く、そのスピードを維持できる持久力があること」が、トラック種目で誰よりも早くフィニッシュするために必要なことなのではないでしょうか?

 

 

実際に、10000m走のパフォーマンスの高い選手ほど、ハムストリングの横断面積が大きいと言われています(吉岡ほか,2009)。また、腿の前部分に対して、ハムストリングの筋肉量が大きいほど、パフォーマンスが高かったようです。一方で、相対的に膝下の腓腹筋や腿の前の筋肉が太いほど、ランニングエコノミーが悪いとも言われているため、鍛える部位には注意が必要かもしれません。

 

 

 

 

当然、脂肪が増えておデブになることによって体重が増えれば、パフォーマンスは落ちてしまいます。しかし、自分の身体を支える、前に移動させるための筋肉量は、ある程度獲得しておく必要があるでしょう。

 

 

 

持久トレーニングの効果を阻害しない

 

「持久トレーニングのみ」と「持久トレーニング+ウエイトトレーニング」を12週間行った各グループを比較すると、どちらも同じくらい最大酸素摂取量の向上がみられています(Kraemerほか,1995)。この最大酸素摂取量は、一定時間にどれだけ酸素を取り込むことができるかを表す、持久パフォーマンスの指標の一つです。

 

 

もちろん、「持久トレ+ウエイト」グループでは、筋力の向上もみられました。一方で、「ウエイトトレーニングのみ」を実施したグループでは、最大酸素摂取量の向上はみられませんでした。

 

 

したがって、普段の持久トレーニングをやりながら、ウエイトトレーニングを行うことで、持久トレーニングの効果を阻害することなく、筋力向上が見込めるわけです。

 

 

 

ランニングエコノミー改善

 

高重量で爆発的なウエイトトレーニングを行うことで、ランニングエコノミーが向上することが分かっています。ランニングエコノミーとは、ある一定の走速度での酸素の消費のしにくさを表すものです。車の燃費みたいなイメージが近いかと思います。

 

 

このランニングエコノミーの改善効果を得るためには6~8週間ほどトレーニングをすることが必要だと言われていますが、さらに継続してウエイトトレーニングを行うほど、その効果は大きくなります(Denadaiほか,2017)。

 

 

実際に、大学レベル、ナショナルレベルの1500m-10000mランナーを対象に、40週間のウエイト+プライオメトリックトレーニングを実施させた研究では、最初の20週間で5%近いランニングエコノミーの改善がみられ、最大酸素摂取量時の走スピードが改善しています。また、シーズン中の20週間では、「ウエイト+プライオトレ」を週に1回に減らしていますが、その効果は維持され、かつ体重の増加はみられていません。

 

 

 

 

このように、シーズン前も、シーズン中も高重量のウエイトトレーニングやジャンプトレーニングを継続することは、年間通して身体を発達させ、走りの効率を改善させるためにも重要であることが分かります。

 

 

 

スプリント能力、ラストスパートのキレ改善

 

ウエイトトレーニングによって筋力を高めると、ランニングエコノミーだけでなく、短い距離のスプリント能力の向上も見込めます。そうなると、ラストスパートでスピード勝負になったとき、いくらか有利になります。

 

 

実際に、ハイレベルの長距離ランナーでは、パフォーマンスの高さと100m走や400m走のタイムとの関連が強く、最大酸素摂取量との関連はそこまで強くなかったことも報告されています(Yamanakaほか,2019)。スピードはあるに越したことは無いはずです。

 

 

関連記事

・スプリント能力の高さと長距離走のパフォーマンスの関係

 

 

 

中長距離選手も高重量低回数でウエイトをやるべき

 

以上のようなことから、中長距離選手でもウエイトは大切だということが分かりました。では、どのような負荷設定でウエイトトレーニングに取り組んだらいいのでしょうか?

 

 

「持久系アスリートは、持久力のある筋肉をつけるのが大事だから、ウエイトも低負荷で高回数をこなすのが良いはずだ!」という考え方があります。

 

 

確かに持久系のスポーツでは、筋肉の持久力を向上させることが大切です。上記のような考え方をするのが普通かもしれません。

 

 

しかし、ここまで紹介してきた研究では、ほとんどが高重量で爆発的な、短距離選手も行うような負荷設定になっています。中長距離選手でも、高重量で爆発的なウエイトトレーニングを行うことが重要になるわけです。以下、その理由を挙げていきます。

 

 

 

速筋線維の能力向上の伸びしろが大きい

 

筋肉は、大きな力は出せないが、持久性の高い「遅筋線維」と、大きな力は出せるが、持久性の乏しい「速筋線維」の大きく2種類に分類されます。速筋線維は、遅筋線維と比較しても発揮できるパワーがケタ違いに大きいです。

 

 

 

 

中長距離選手は、普段十分に刺激が与えられていない「速筋線維」の能力向上に大きな伸びしろがあると考えられます。なので、この速筋線維を鍛えることで、スピードやランニングエコノミーの改善が見込める、そのトレーニングによる能力向上効果が得られやすいということです。

 

 

また、この速筋線維には、持久性の乏しい「TypeⅡx」と、持久性の高い「TypeⅡa」があります。この「TypeⅡx」は、トレーニングで刺激することで、持久性のある「TypeⅡa」線維に移行することが分かっています。

 

 

つまり、トレーニングで刺激することで、速筋にも持久性を持たせることができるわけです。

 

 

 

 

 

※持久性の低い速筋線維は、以前までTypeⅡb線維と呼ばれていたが、近年ではヒトの体にTypeⅡb線維はほとんどなく、TypeⅡxが多く存在することが分かっている。

 

 

このTypeⅡx線維を刺激するためには、高重量でのウエイトトレーニングを行うことが必要です。ヒトの体には、低重量の時や、力発揮に余裕があるときは遅筋線維やTypeⅡa線維など、持久力の高い筋線維を先に使うという仕組みがあるからです。MAXに近いような刺激を与えてあげないと、普段使われにくいTypeⅡx線維を十分に刺激することができません。

 

 

このように、中長距離選手にとって速筋線維には、能力改善の余地が大きく残されている場合が多いと考えられます。その速筋線維の能力を存分に引き出すためにも、高重量で爆発的な負荷設定でのウエイトトレーニングが必要になるわけです。

 

 

 

低~中重量高回数では、代謝ストレスが大きく、回復度合いによってはメインの持久トレーニングに悪影響

 

低~中重量で高回数のウエイトトレーニングでは、トレーニングの総量がすこし大きくなります。となると、筋肉の中のグリコーゲンと言うエネルギー源が減りやすくなったり、回復にも比較的時間がかかります。

 

 

実際に、筋肥大を狙うようなウエイトトレーニング(10回8セット:1RMの70%)と、筋力を向上させるウエイト(3回8セット:1RMの90%)を比較すると、筋肥大を狙う量の多いトレーニングでは、その後数日(直後~72時間)にわたって、筋力やパワーが回復していませんでした(Bartolomeiほか,2017)。(とはいえ10回8セットはさすがに多すぎですね…)

 

 

持久的なトレーニングを行いながら、このような多量のトレーニングを行うと、回復が追い付かず、次の持久トレーニングに悪影響をもたらす可能性が考えられます。特に筋グリコーゲンが回復していない状態では、高いスピードを出すような高強度の持久トレーニングを行う場合に影響が出ます。

 

 

したがって、特に理由がない場合は、低~中重量で高回数こなすようなウエイトトレーニングではなく、高重量で低回数のメニューを組む方が、持久トレーニングとの兼ね合いが良いかと思われます。(なにしろ低~中負荷高回数を限界までやるととっても辛いです。)

 

 

 

持久系アスリートのウエイトトレーニングの組み込み方

 

「週2回、5〜8RM(5〜8回ギリギリ挙げられる重さ)で、3〜5set程度」でトレーニングを行うと良いでしょう。十分な効果を得るためには6〜14週間ほどのトレーニング期間は必要とされているので、長期間にわたって継続させましょう。

 

 

また、試合前は疲労を残さず筋力を維持するために、週1回のトレーニングでもその効果を維持できると言われています(Beattieほか,2017)。試合で高いパフォーマンスを発揮するなら、逆算して計画を立てておきましょう。

 

 

実施種目はバーベルを使ったスクワット、デッドリフトなど、股関節や膝を爆発的に伸展させるようなエクササイズを選びましょう。バーベルを使った高負荷のトレーニングは、体幹部の安定性や、スプリント能力向上に重要な、股関節周りの筋肉を協働させ、筋力を高めることに効果的です。

 

 

重りをコントロールしながら下げ、挙げるときは出来る限り速く、爆発的に挙げましょう。そうすることで、より筋パワーを高められます。

 

 

また、ウエイトトレーニングに初めて取り組むような選手は、いきなり高重量でやるのではなく、まずはフォームを固めましょう。正しいフォームで行わなければ、ウエイトトレーニングの効果を正しく得ることはできません。以下のような動画を参考にしてみてください。

 

 

加えて、重大な事故を防ぐためにも、ウエイトトレーニングは一人で行わずに、必ず補助を付けて行うようにしましょう。

 

 

 

 

参考動画(スクワット)

 

 

参考動画(デッドリフト)

 

 

参考動画(片足スクワット)

 

 

 

まとめ(~中長距離選手のためのウエイトトレーニングガイドライン~)

 

以下の画像を保存しておくと、便利かと思います。参考にしてみてください。

 

 

 

 

参考文献

・Blagrove, R. C., Howatson, G., & Hayes, P. R. (2018). Effects of strength training on the physiological determinants of middle-and long-distance running performance: a systematic review. Sports Medicine, 48(5), 1117-1149.
・吉岡利貢, 中垣浩平, 向井直樹, & 鍋倉賢治. (2009). 筋の形態的特徴が長距離走パフォーマンスに及ぼす影響. 体育学研究, 54(1), 89-98.
・Fletcher, J. R., & MacIntosh, B. R. (2017). Running economy from a muscle energetics perspective. Frontiers in physiology, 8, 433.
・Kraemer, W. J., Patton, J. F., Gordon, S. E., Harman, E. A.,  Deschenes, M. R., Reynolds, K. A. T. Y., ... & Dziados, J. E. (1995).  Compatibility of high-intensity strength and endurance training on hormonal and  skeletal muscle adaptations. Journal of applied physiology, 78(3),  976-989.
・Ryo Yamanaka, Hayato Ohnuma , Ryosuke Ando, Fumiya Tanji, Toshiyuki Ohya , Masahiro Hagiwara and Yasuhiro Suzuki(2019)Sprinting Ability as an Important Indicator of Performance in Elite Long-Distance Runners.International Journal of Sports Physiology and Performance.(In press)
・Bartolomei, S., Sadres, E., Church, D. D., Arroyo, E., Gordon III, J. A., Varanoske, A. N., ... & Hoffman, J. R. (2017). Comparison of the recovery response from high-intensity and high-volume resistance exercise in trained men. European journal of applied physiology, 117(7), 1287-1298.
・Beattie, Kris; Carson, Brian P.; Lyons, Mark; Rossiter, Antonia; Kenny, Ian C.(2017)The Effect of Strength Training on Performance Indicators in Distance Runners.Journal of Strength and Conditioning Research: January 2017 - Volume 31 - Issue 1 - p 9–23.
・Denadai, B. S., de Aguiar, R. A., de Lima, L. C. R., Greco, C. C., & Caputo, F. (2017). Explosive training and heavy weight training are effective for improving running economy in endurance athletes: A systematic review and meta-analysis. Sports Medicine, 47(3), 545-554.

 


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