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スプリント種目とエネルギー供給の仕組み

スプリント種目とエネルギー供給の仕組み

運動する時、人は筋肉を動かします。そのエネルギー源は筋肉の中に微量に蓄えられているATP(アデノシン三リン酸)というものです。このATPをADP(アデノシン二リン酸)とPi(リン酸)に分解するときに発生するエネルギーを使って、筋肉が動きます。人間の全ての運動はこのエネルギーを使って行われるわけです。

 

 

しかし、このATPは筋肉にほんの少ししか蓄えがないので、人が運動を続けるには、ATPを再び作り出していく必要があります。そして、そのATPを再合成させる過程には大きく分けて、以下の3つの仕組みが関係しています。

 

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① ATP-CP系

 

筋肉の中にあるクレアチンリン酸(CP)を分解する時のエネルギーを使って、ATPを再合成させる過程です。
ATP-CP系はエネルギー供給が最も早い代謝系で、大きな力を出すときにメインで働きますが、筋肉中のクレアチンリン酸はすぐになくなってしまうので、この過程で発揮するハイパワーは長続きできません(クレアチンリン酸の再合成がないと仮定する全力運動だと、おおよそ7秒程度)。

 

 

 

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② 解糖系

 

筋肉や肝臓、または血中に存在しているグリコーゲン・グルコース(糖質)を分解するエネルギーを使って、ATPを再合成させます。その途中で乳酸という副産物ができます。

 

解糖系では、ATP-CP系ほどではないですが、比較的高い力を発揮する事ができます。また、ATP-CP系より長続きします。(全力運動だとATP-CP系と合わせて40秒くらいまで) (トレーニングで伸ばせる可能性有り)

 

 

 

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③ 有酸素系

 

身体の中の糖質(グルコース、グリコーゲン)や脂肪を分解して、その時のエネルギーでATPを再合成します。エネルギーの生成速度は遅く、酸素を使った供給過程になりますが、長時間安定してエネルギーを供給できるのが特徴です。

 

 

 

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スプリント種目でのエネルギー供給

 

短距離走では比較的運動時間が短く、爆発的な力発揮が求められます、そのため、エネルギーを生み出す過程では、ATP-CP系や解糖系がより重要になると考えられるでしょう。スプリント走でのエネルギー供給割合を見てみると、ATP-CP系、解糖系の無機的なエネルギー供給が大半を占めることが分かると思います。

 

 

 

しかし、運動時間が短いと言え、酸素を利用したエネルギー供給は、100m走で20%、200m走で33%、400m走では50%ほどとされており(八田,2009)、極端に短い全力運動でも、無酸素状態で運動しているわけではありません。

 

100mは無酸素運動だ!というのは間違いで、どんな運動であっても、ATP-CP系、解糖系、有酸素系のエネルギー供給系は同時に働いています。

 

よくある間違いが「運動を始めて10秒くらいはATP-CP系で…40秒くらいまでは解糖系で…それ以降が有酸素運動になる!!」といった表現です。

 

「運動の最初しかATP-CP系が使えないから、そこでできるだけ力を出さないのはもったいない!」ということも間違いです。そうではなくて、そのエネルギー供給の過程で酸素を使う系と酸素を使わない系があるだけで、無酸素運動というのは厳密に言うとありえません。

 

 

さて、短距離走においては無酸素的なエネルギー供給が大半を占めるという話をしました。短距離走ではこの系でどれだけ多くエネルギーを供給できるかが、より重要となってきます。多くのエネルギーを生みだすことで、誰よりも早くゴールにたどり着いてしまえばいいわけです。

 

ATP-CP系は筋肉に微量に貯蔵されたクレアチンリン酸を使ってエネルギーを供給するので、速く走るのに必要な筋肉を大きくしたり、短時間で高いパワーを発揮し続けるようなトレーニングを続けることで、その供給量も上がりやすくなるでしょう。クレアチンのサプリメントを摂取して、貯蔵量を増やしてあげるのもハイパワーの供給力を上げる一つの方法になるでしょう。

 

解糖系では、このエネルギー供給力の指標として乳酸をどれだけ出すことができるかが挙げられます。特に400mや800mでは、この乳酸をたくさん作って高いエネルギーをどれだけ生み出すことができるかが競技成績に影響するとされる報告も存在します(Rusko et al.,1993;山本,2004)。

 

また、乳酸は解糖系でエネルギーを生み出す時にできる副産物のようなもので、その乳酸は、筋肉でのエネルギー源としてミトコンドリアで再利用されます(八田,2009)。つまり、解糖系でエネルギーをたくさん生み出せることも大切で、その過程でできた乳酸を使える能力も重要だということです。乳酸は酸素を利用して、エネルギーになるので、乳酸をたくさん使うためには、有酸素系の能力も鍛えておかなければなりません。その競技で主に必要とされるエネルギー系を理解して、その供給力を高めることが重要です。

 

となれば、スプリントトレーニングの目的はその能力を高めることとも言えます。ただ闇雲に数字に「 + 」をつけて並べただけのセット走などをなんとなくやっている、またはさせているだけでは、トレーニング本来の目的がわからずじまいに終わってしまいます。

 

高めたいエネルギー系を理解して、トレーニングのスプリント時間、強度、休息時間、本数、セット数などを工夫していく必要がります。

 

 

参考文献

・八田秀雄(2009)日本トレーニング科学会編,スプリントトレーニング―速く走る・泳ぐ・滑るを科学する―. 朝倉書店.
・八田秀雄. (2009). 乳酸と運動生理・生化学: エネルギー代謝の仕組み. 市村出版.
・Rusko, H., Nummela, A., & Mero, A. (1993). A new method for the evaluation of anaerobic running power in athletes. European journal of applied physiology and occupational physiology, 66(2), 97-101.
・山本正嘉(2004)「スポーツ選手と指導者のための体力・運動能力測定法 ― トレーニング科学の活用テクニック」.鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター(編),大修館書店,pp.43-49.


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