「乗り込み」とは「接地してから足に重心が乗るまでのこと」?
「乗り込み」とは何なのか?一つは「乗り込み」という言葉の意味通り、「身体重心が足(接地点)に乗るまで」を表していると考えられます。
走っているときは重心よりも前に足を着きます。前に進んでいるので、いずれ重心が接地点に乗り切るタイミングが出てきます。
なので「乗り込み」という言葉の意味通りに考えると、「乗り込み」とは、「接地してから接地点(接地脚)に重心が乗るまでのこと」を指していると言えるでしょう。

では、この「乗り込みが上手い」、すなわち「「接地してから接地点(接地脚)に重心が乗るまで」が「上手い」とはどういうことなのでしょうか?
「乗り込みの上手さ」とは「身体の近くに接地すること」?
短距離走や跳躍では、速く前に進むことが必要です。なので、「乗り込みの上手さ」とは「接地してから接地点に重心が乗るまでの素早さ」を指すのかもしれません。
重心が足に乗るまで時間がかかるということは、その分ブレーキがかかる時間が長くなるということです。なので、この時間はできる限り短くしたいわけです。
それを達成するための指導言語として「真下接地」が挙げられます。身体の真下に近い位置で接地できることで、乗り込みまでの時間が短くなり、身体を素早く前方に送り込めるというわけです。

真下接地やブレーキに関してはコチラを参照ください
しかし、無理に身体の近くに接地しようとすることは、走りのバランスを崩してしまうことにつながりかねません。走るためには一歩一歩身体を浮かせて推進力を得る必要があるのに、そのために必要な力を生み出す時間まで削ってしまうことにつながりかねないからです。
例えば、2年間停滞していた自己記録を6m96から7m26へと大きく更新した走り幅跳び選手を対象にした「乗り込み・前さばき」に関する実践研究(佐渡,2013)では、以下のように述べられています。
“ポイント走を行う中で生まれた空回りする感覚は,接地点に乗り込むことを考慮していなかったため,引きつけを早くしたことによって支持期で地面を押す距離が過度に短くなっていることに起因すると考えた.そこで,接地点をより前方にすることで支持期前半に力を加える距離を伸ばすことができ,空回りが改善できるのではないかと考えた.”

“「目印を用いたスプリントドリル」による「接地点をより前方にし,下腿が垂直の状態で膝の真下に接地する」乗り込み動作の習得と,プライオメトリックスやレジステッド走による短時間の力発揮能力の獲得を行った.その結果,空回りする感覚から地面を「グリップする」感覚へと変化していった.トレーニング前後で動作を確認すると下腿が地面と垂直に近い状態で接地するように変化しており,乗り込み動作を引き出すことに成功した.”
このように、下腿が垂直の状態で膝の真下に接地できるよう、接地点をより前方にすること、そのためのトレーニングを実施する中で、空回り感が改善され、乗り込み動作の習得に近づいたとされています。
つまり、単に「身体の近くに接地する」だけでは、乗り込みが上手くなったとは言えなさそうというわけです。
では、「乗り込みの上手さ」には、他にどんな要素が必要になるのでしょうか?
地面反力をもらうこと?
世界選手権400mH銅メダリストの為末大さんは、「乗り込み」を次のように説明しています。
“乗り込むという行為をもう少し詳細に説明すると、立位の状態で自分の体重を自分の足を通して地面に伝えその反発を体にもらうこと”
為末大:私のパフォーマンス理論 vol.36 -乗り込みについて-
このように、乗り込みの上手さには「地面の反発(地面反力?)」が関連していると考えられます。
無理やり身体に近い位置に、足を引き込んで接地に向かおうとすると、速く走るために必要な地面反力が上手く得られず、転びそうになる、空回り感が出てきてしまうというのであれば、先述の「空回り感」とつながる部分があります。
走っているときは、自分の身体を一歩一歩中に浮かせる必要があるので、「乗り込みながら、地面に力を加えて上向きの反力を得ること」がどうしても必要になるわけです。
高いスピードで走る場合、これを高速でやる必要が出てきます。
これに関して、トップスプリンターと非スプリンターの接地期の地面反力の違いを見てみましょう。

参考動画(スプリンターと非スプリンターの地面反力)
このようにトップスプリンターは、接地の前半部分、すなわち「乗り込み」の段階で、大きな上向きの地面反力を得ていることが分かります。
速く走るためには、接地の早い段階で「上向きの大きな地面反力」を得られるようにすることが非常に大切だというわけです。
言い換えれば、短い時間で身体を浮かせるだけの接地の衝撃に耐えられる「硬いバネのような強い脚」が無ければ、難しい技術であるとも考えられます。トップスプリンターの足音が大きいことが多いのも、このことが関係しているのでしょう。。
以上のことをまとめると
「乗り込みが上手い」とは…
「接地してから、接地点に重心が乗り切るまでに大きな地面反力を受け、かつそれを素早くスムーズに行えること」
を指しているのではないでしょうか?

乗り込みのお手本に筆者が良く使う動画(ラショーン・メリット選手)