短距離は硬い筋肉が、長距離は柔らかい筋肉が有利?

短距離は硬い筋肉が、長距離は柔らかい筋肉が有利?




短距離は硬い筋肉が、長距離は柔らかい筋肉が有利?

 

Miyamoto, N., Hirata, K., Inoue, K., & Hashimoto, T. (2019). Muscle Stiffness of the Vastus Lateralis in Sprinters and Long-Distance Runners. Medicine and science in sports and exercise, 51(10), 2080-2087.

 

以下、メモ。

 

緒言・方法

 

ランニングやジャンプ時などの運動時、ヒトの筋腱複合体は弾性体として働き、バネのように弾性エネルギーを蓄え、放出することで、エネルギー効率よく、出力を向上させることができる。この一連のサイクルはSSC(Stretch-Shortening Cycle)と呼ばれている。

 

 

この筋腱複合体の弾性は、神経筋因子と筋腱複合体固有の剛性(スティフネス)に依存することが分かっており、これまで、スプリントやランニングにおける外側広筋、腓腹筋における筋腱複合体や腱の機能について調査がなされてきた。しかし、ランニングやスプリントにおいて、筋のスティフネスがどのような役割を果たすかは、依然として不明である。

 

 

そこで、本研究では剪断波エストグラフィ法を用いて、短距離選手、長距離選手各22名の外側広筋におけるスティフネスを測定した。測定は、安静状態(パッシブ)と最大随意収縮の50%での筋収縮時(アクティブ)でそれぞれ行われた。

 

 

対象者のレベルは以下の通り

 

・短距離:100mタイム10.66~11.58(平均11.07±0.29秒)
・長距離:5000mタイム14分14秒8~15分39秒9(平均14分53秒9±24.1秒)

 

 

 

結果・考察

種目によるパッシブ、アクティブ時のスティフネスの違い

 

外側広筋のパッシブな剪断波速度(この速度が高いほど筋肉が硬い)、短距離と比較して長距離で高かった。また、アクティブ時においては、短距離&対照群と比較して長距離で高かった。

 

 

したがって、長距離選手は他群と比較して、パッシブ、アクティブ時の筋肉が硬い傾向があることが分かった。

 

 

一般に、遅筋線維は速筋線維よりも、安静時、および収縮時において硬いことが分かっている。また、筋内の結合組織(コラーゲンなどで構成され、非弾性体である)の量は、トレーニングでのSSCのような刺激の強度ではなく、量に依存するため、長距離選手の筋内の結合組織は多いと考えられる(実際に多かった)。したがって、遅筋線維の多い長距離選手のスティフネスが高くなったのだと考えられる。

 

 

一方で、良くトレーニングされた長距離選手では、筋内の脂肪組織も多く、その脂肪組織は柔らかい性質があるが、スティフネスへの貢献度合いは今回は小さく、特に収縮時ではそれが顕著であったことが推察された。

 

 

パフォーマンスとスティフネスの関係

短距離で、パッシブな剪断波速度が高いほど(硬いほど)100mタイムが良く(r = -0.483, P = 0.023)、アクティブな剪断波速度が高い(硬いほど)ほど、100mタイムが悪かった(r = 0.522, P = 0.013)。

 

 

パッシブ時におけるスティフネスの高さは、先行研究と同様に、接地時の筋スティフネスと関連し、選手のSSC能力の高さを説明するものであると考えられる。しかし、アクティブ時には逆に、スティフネスが高いほど、パフォーマンスが低くなると言う結果が得られたことになる。

 

 

この理由については、はっきり分からないが、外側広筋における腱スティフネスが関連していると考えられる。パフォーマンスの低い短距離選手の腱スティフネスは高い傾向があり、アクティブ時の筋はそれとのバランスを取っているように推察できる。

 

 

長距離ではパッシブな剪断波速度が低い(柔らかいほど)5000mタイムがよかった。これは、筋内の脂肪組織の量(良くトレーニングされた選手ほど多く、筋の酸化能力と関わる)や、膝屈曲動作(拮抗筋)の効率と関連していると考えられた。

 

 

コメント

 

ある身体部位の柔軟性の低さは、走りの効率の良さと関連すると言う知見が多い中、今回の長距離選手では、パッシブ時のスティフネスが低い方がパフォーマンスが高い傾向があるとのことでした。ケニアランナーは、日本人ランナーよりも筋が硬く、腱が柔らかいこと、パフォーマンスの高い長距離ランナーでは、足関節のスティフネスが高いことなどの報告とは対照的な結果であると言えるでしょう。

 

 

測定方法の違い、部位による違いはあるでしょうし、パフォーマンスとの関係もそこまで強くはなさそうなので、何とも言えませんが、今後の研究に期待です。

 

 

アクティブ時における短距離選手のスティフネスが高いほど、パフォーマンスが低かったことに対しては、良く分かりません。パフォーマンスの高い選手ほど、速筋線維の割合が非常に高く、50%MVCで動員された(硬くなった)遅筋線維の割合が低かったために、収縮時ではレベルの高い選手ほど、筋肉が柔らかいという結果になったのかもしれません。

 

 

クレバーなコメントを残すにはレベルが高過ぎました。


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