運動学と運動力学の違い(キネマティクスとキネティクス)




運動学と運動力学の違い(キネマティクスとキネティクス)

 

 

 

 

スポーツバイオメカニクスの研究アプローチとして、運動学(キネマティクス)運動力学(キネティクス)というものがあります。

 

 

なんだか良く似た名前でややこしいですね。

 

 

ここでは、この運動学と運動力学とは一体何なのか?について紹介します。

 

 

 

運動学(キネマティクス)

運動学とは?

 

運動学(キネマティクス:kinematics)とは、「動作をみる」アプローチです。

 

 

具体的には、ヒトが走っている時の膝の角度がどのように変化するか、その時の走る速度はどれくらいだったのか?簡単にいうと「フォームを解析する」手法です。

 

 

と、このような動作の一つひとつを数値化して評価しようというスポーツバイオメカニクスの研究手法、それが運動学(杵マティクス)です。

 

 

 

 

運動学(キネマティクス)で分かること

 

先述の通り、運動学では、ヒトがある運動をしている時の「動作」をみるものです。

 

 

動作だけをみるので、運動学では働いている「力」については扱いません。

 

 

運動学で見ていくのは

 

 

・変位(どこからどこまで動いたか)
・速度
・加速度(速度の増加率)

 

・角度
・角速度(角度が変化する速度)
・角加速度(角度が変化する加速度)

 

 

など、物体の移動の仕方、回転の仕方です。

 

 

どの部位がどういう角度になっているか、どういう速度で動いているかを確かめるわけです。

 

 

短距離走を例にしてみます。

 

 

短距離走では昔「ももを高く上げるフォーム」が良いフォームだと信じられていました。

 

 

しかし、伊藤ほか(1998)の研究で、実際にももの高さと足の速さの関係を調べてみると、あまり関係がないことが明らかになったのです(小学生など、児童では関係がある:木越ほか,2012)。

 

 

 

このように、今までは当然だった「考え方」が、運動学(キネマティクス)的な研究によって、「客観的には違っていた」ことが分かるわけです。

 

 

 

 

運動学で分からないこと

 

運動学では、運動するヒトの速度や角度が分かっても、ヒトが発揮している力や、ヒトに働いている力が分かりません。

 

 

動作を生み出すのは「力」です。

 

 

なので、ヒトの動作は「結果・現象」であって、それを生み出すための「原因」は何か分からないのです。

 

 

足が速いヒトの動作が分かっても、何が原因でそういう動作になっているのかが分からないと、あんまり役に立ちません。

 

 

したがって、実際のトレーニングに結びつけるための知見を得るためには、次に紹介する「運動力学(キネティクス)」的なアプローチを使って、ヒトに働く「力」を見ていく必要が出てきます。

 

 

 

運動力学(キネティクス)

運動力学とは?

 

運動力学(キネティクス:kinetics)とは、運動学(キネマティクス)と違い、「力」に着目した研究アプローチです。

 

 

ヒトが走っている時、ヒトは筋肉で力を発揮します。また、地面を押せば、地面からの反力が発生して、その力を受けて身体が前に進みます。

 

 

また、走っていれば当然風の影響を受けます。風は空気の流れであり、この空気抵抗も力の一つです。重量もヒトに作用する力をとみなすことができます。

 

 

このようにヒトが運動する時には、ヒトが発揮する力、ヒトに作用する外からの力、というように様々な力が働いているのです。

 

 

この時の力がどのように影響しているかを明らかにする。これが、運動力学(キネティクス)です。

 

 

 

運動力学で分かること

 

運動力学では、力をどのように測定するかが重要になります。

 

 

例えばフォースプレートと呼ばれる機材を使えば、地面に加えられた力、すなわち地面反力を測定することができます。

 

 

また、人の身体を「リンクセグメントモデル」と呼ばれる単純なモデルとみなして、足首や膝などの関節が発揮する力を推定することができます。

 

 

 

 

なぜこのような方法を取るのでしょう?

 

 

それは、実際に筋肉が発揮する力を測定しようとすると、筋肉に直接センサーなどを埋め込んだりしなければならず、手間暇がかかり過ぎるからです。

 

 

また、実際の人間の体は複雑な形をしています。そのため、リンクセグメントモデルのように、各部位を「単純な物体」とみなさないと、かかっている力を推定することが非常に困難になるのです。

 

 

このリンクセグメントモデルを使った研究を一つ見てみましょう。

 

 

※馬場ほか(2000)より、作成

 

 

 

図は、リンクセグメントモデルを使って、疾走中の足首、膝、股関節周りに働いている力(回転力)を推定したものです。

 

 

脚を後ろから前に引き出す局面では、腿を前に引き出す力(股関節屈曲トルク)が働いているのが分かります。

 

 

しかし、膝が身体の真下を通過した後くらいからは、まだ膝が前に動いているのに、腿を後ろに引く力(股関節伸展トルク)が働いています。

 

 

同じように、地面を蹴り出す手前までは、支持脚は股関節を伸ばすような力を発揮していますが、地面から脚が離れる少し前くらいからはすでに、腿を前に引き出す力(股関節屈曲トルク)が発揮されているのです。

 

 

このように、実際に脚が動いている方向と、関節に働く力は必ずしも一致しないということが理解できるかと思います。

 

 

これは、脚が前に振り出る前には、脚を後ろに引き戻すブレーキを発揮しないと、動作を素早く切り返すことができないということです。

 

 

脚が後ろに流れる局面も然りで、地面から足が離れる直前には、腿を前に引き出す力を発揮しないと、素早く腿を引き出すことができなくなるというわけです。

 

 

速く走るために「蹴ったらすぐに腿を前に引き出す」などのアドバイスは、このような知見から使われているのかもしれません。

 

 

運動力学では、運動学(動作のみ)では分からなかった、力発揮を客観的に評価することで、その動作が生まれる原因を探るのに役立っていると言えます。

 

 

 

運動学・運動力学だけでは分からないこと

 

運動学では動作、運動力学では力を測定することができます。

 

 

動作の原因は力です。力発揮の結果、動作が生まれるとも言えます。

 

 

しかし、説明したリンクセグメントモデルでは、関節に働く力を推定しているだけに過ぎず、実際どれくらい筋肉が力を発揮しているかは分かりません。

 

 

また、筋肉を動かしている、指令を出しているのは脳であり、それには運動を行う人の意識も関係しているのは明らかです。

 

 

しかし、ヒトがどういう意識で運動をしているかどうかは、さすがに運動学や運動力学では分かりません。

 

 

このように、運動学や運動力学で分かるのは、客観的な動作や力発揮であって、「感覚・意識」などの主観に言及することは非常に難しいのです。

 

 

有効な運動の意識、イメージ、コツを探るための一助にはなり得ますが、どう意識すれば上手くなるかは話が別。

 

 

運動学や運動力学を解釈する際には、この点に注意をする必要があります。

 

 

 

まとめ

・運動学(キネマティクス)は「動作」を見る研究アプローチ。力発揮は分からない。

 

・運動力学(キネティクス)は「力」を見る研究アプローチ。しかし、主観的な情報までは分からないので、意識や感覚と強引に結びつけてはならない。

 

 

おすすめ書籍

 

    

 

    

 

 

参考文献

・伊藤章, 市川博啓, 斉藤昌久, 佐川和則, 伊藤道郎, & 小林寛道. (1998). 100m 中間疾走局面における疾走動作と速度との関係. 体育学研究, 43(5-6), 260-273.

 

・木越清信, 加藤彰浩, & 筒井清次郎. (2012). 小学生における合理的な疾走動作習得のための補助具の開発. 体育学研究, 57(1), 215-224.

 

・馬場崇豪, 和田幸洋, & 伊藤章. (2000). 短距離走の筋活動様式. 体育学研究, 45(2), 186-200.

 

 


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