「干渉作用-持久トレーニングは筋トレ効果を阻害する-」
「干渉作用の原因―筋力向上させつつ持久力を高められない理由―」
では、スポーツトレーニングにおける干渉作用とは何なのか?そしてその干渉作用の原因は何なのかについて紹介してきました。
ここでは、スポーツトレーニングの現場において、この干渉作用をどうやったら小さくできるのか、その戦略について考えていきます。
エネルギー収支
筋力を維持・向上させるためには体重が減少していかないことが重要です。
そのため、摂取カロリーが消費カロリーを下回らないように意識して食事をすることで、筋力トレーニングと持久トレーニングという高ボリュームなトレーニングの効果を損なわないようにできると考えられます。
しかし、体脂肪の減少が持久能力が求められる競技の成績につながる可能性も十分考えられるので、そこはその選手個人の特徴を踏まえて戦略を練る必要があるでしょう。
トレーニング強度
持久トレーニングが低強度であれば、筋力トレーニングによる筋力向上の阻害は小さくなります。
また、神経系に刺激を与える目的での高強度のインターバルトレーニングと高強度の筋力トレーニングの組み合わせは、トレーニング刺激の焦点が神経系に集中するため、干渉作用を小さくできるという考え方も存在します。
ちなみにRMというのは最大拳上回数(Repetition Maximum)のことです。10RMであれば、10回ギリギリ挙げられる重さを指します。
また、80%VO2maxは主観的運動強度で「ややきつい-きつい、のどが渇く、どこまで続くか不安」、VO2max90%は「非常にきつい、息が詰まる」くらいの感じ方の強度です。
このように、2つのトレーニングの強度を操作する(Docherty & Sporer, 2000)ことは、干渉作用を小さくするための重要な戦略になると言えるでしょう。
優先的に改善が必要な要素を見極める
筋力と持久力が求められるアスリートであれば、まずその選手の特徴をしっかりと分析することが必要になります。
その特徴を踏まえた上で、筋力トレーニングを優先すべきなのか、持久トレーニングを優先すべきなのかを決めておくことが、トレーニングにおいて干渉作用を小さくするために非常に重要と言えるでしょう。
筋力向上を優先すべき場合は、身体がフレッシュな状態で筋力トレーニングを行い、持久トレーニングは補助的に、負荷を小さくします。
こうすることで最低限の持久能力は維持し、筋力を効率的に高めていくことができます。
2つの要素を同時に激しくトレーニングした時よりも結果的に大きなトレーニング効果が得られるでしょう。
トレーニングの日時をずらす
「干渉作用の原因―筋力向上させつつ持久力を高められない理由―」で、筋力と持久力向上に重要な役割を果たす酵素活性の紹介をしました。
持久トレーニングを実施した際の酵素(AMPK)活性は、筋力向上に重要な役割を果たすmTORC1の活性を阻害してしまうというものです。
こうした酵素の活性時間に着目して、干渉作用を小さくできないかという考えがあります(Baar K., 2014)。
AMPKは持久トレーニングを行って約3時間ほど、mTORC1は約6時間ほどスイッチが入った状態が続きます。
この考えに基づくと、持久トレーニングをやって筋力トレーニングをやるなら約3時間以上、筋力トレーニングをやって持久トレーニングをやるなら約6時間以上の時間を空けると干渉作用をより小さくできると言えます。
しかしながら、激しい2つの相反するトレーニングを1日の間に実施することは、集中力の低下や、疲労状態の悪化を招き、やはりいずれかのトレーニング効果を損なってしまう可能性は十分にあります。
できれば2つのトレーニングは別日に設定することが望ましいでしょう。
ブロックピリオダイゼーション
ピリオダイゼーションとは、いわゆるトレーニングの期分けのことで、基礎的な体力を高める時期、専門的な体力、スキルを高める時期などのように、目的に応じてトレーニング手段・方法を変化させていくというものです。
ブロックピリオダイゼーションでは、これまで述べてきた戦略を総合的に考慮して、中長期的なトレーニング計画を行うというものです。
具体的には、筋力を向上させ持久力は維持する時期、筋力を維持しながら持久力を向上させる時期…と言うように、時期によって優先させるトレーニング要素を絞って、能力を向上させていきます。
そして、向上させた能力を競技力に転化させていき、競技成績の向上を目指していくというのがブロックピリオダイゼーションの全体像になります。
このブロックピリオダイゼーションの利点として、干渉作用を小さくできると言ったことの他に
・シーズン中に複数のピークを作ることができる
・トレーニング計画の評価,修正を高頻度で行うことができる
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ことが挙げられます。
このように、やはり優先的に高めたい能力をある程度絞って、1日、および数カ月間のトレーニングを計画するという視点は非常に重要であると言えます。
まとめ
トレーニング歴が長く、競技レベルが高いアスリートほど、干渉作用を最小化するための戦略が必要となります。
トレーニング初心者では、そこまで気にする必要はないともいえますが、伸び悩みに苦しむトップ選手が現状を打破するための戦略としては押さえておきたい内容になるかと考えられます。
トップ選手だけでなく、トレーニング初心者、または成長期のジュニア選手においても、身体能力を十分に発達させておけるかどうかが、その後の競技人生を大きく左右することにつながります。
もちろん練習環境や、時間などに制限がある場合は、サーキットトレーニングなど、多様な要素を盛り込んだトレーニングの方が効率的に競技力を伸ばしていくことにつながるとも考えられます。
しかし、あらゆるトレーニングを高い強度でやればやるほど能力が向上していくわけではないということは選手、指導者として必ず知っておかなければなりません。
参考文献
・Docherty, D., & Sporer, B. (2000). A proposed model for examining the interference phenomenon between concurrent aerobic and strength training. Sports Medicine, 30(6), 385-394.
・Baar, K. (2014). Using molecular biology to maximize concurrent training. Sports Medicine, 44(2), 117-125.