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第5回「ウエイトだけじゃスピードやパワーは高まらない」

ただ筋肉が大きくなっただけでは、役に立たない

前回の記事↓では、短距離走や跳躍、投てきのパフォーマンスを高めるための筋肉における重要な土台要素として、以下のことを紹介しました。

 

・高出力を出す
⇒速筋線維を大きくし、出力させる。

 

・高出力の持久力を高める
⇒速筋線維のミトコンドリア(毛細血管)を増やす。
※跳躍・投てき選手は主として不要

 

 

しかし、ただ筋肉が大きくなるだけで出力が高まり、ハイパフォーマンスが発揮できるようになるということはありません。筋肉量(速筋線維)が多いことはあらゆる筋力の土台になり得ますが、あくまで土台に過ぎないわけです。

 

実際に、筋肉量の非常に多いボディビルダーは、筋肉の大きさに対して発揮できるパワーが一般人よりも低いとされています。これは、ボディビルダーが普段行っている速度の遅い筋力トレーニングに身体が適応した結果であると考えられます。

 

 

そのため、その競技種目に応じた筋力発揮のトレーニングを実施しなければ、パフォーマンス向上は望めません。以降、その競技種目に特異的な筋力発揮について紹介していきます。

ハイスピードで筋力発揮できないとダメ(スピード筋力)

筋肉には、速く縮んでいる最中ほど力を発揮しづらくなる性質があります。特に瞬発系のアスリートは、高い速度でも大きな力を発揮できなければパフォーマンスを高められない場合は多いでしょう。短距離走や跳躍など、高いスピードの中で行う種目はもちろん、投てき種目でも、最終的には速く動いている物体に力を加えられるかが重要になります。

 

 

図のA選手は、B選手よりも低速度域での筋力には劣りますが、高速度域での力発揮には優れています。ウエイトトレーニングでの最大拳上重量(いわゆるマックス測定)で分かるのは、非常に遅い速度域での筋力です。なので、いくら最大筋力が向上したとしても、高い速度域での筋力が改善されなければ、瞬発的なパフォーマンスを高めることは困難となります。

 

だからと言って、「ウエイトトレーニングで最大筋力を高めることは意味がない」わけではありません。最大筋力だけを高めるだけでは意味がないということであって、きちんとトレーニング計画をすれば、最大筋力の向上に重要な意味を持たせることができます。

 

なぜなら、最大筋力が向上することで、高速度域の筋力UPのポテンシャルを高めることができるからです(下図参照)

 

大きなブレーキ力を発揮できないとダメ(ブレーキ筋力)

速く走ったり、跳んだり、投げたりするためには、筋肉が強いブレーキ力を発揮する必要があります。例えば高速で走っている時、下図の右側の局面では四肢が矢印の方向に動いています。ここでその動作に大きなブレーキをかけてあげなければ、素早く次の動作に移行することができません。すなわち、滞空時間が長くなりすぎてピッチが上がりません。

 

 

高いスピードで動いている物体の運動方向を変えるためには、その分大きな力を加える必要があります。先述の「スピード筋力」とも関連しますが、引き伸ばされている筋肉では、その引き伸ばされるスピードが高いほど大きな力を発揮することができます。しかし、下図のB選手のように、低速度域での筋力は高いけど、高速で引き伸ばされているときのブレーキ力は低い…という場合だと、最大筋力の割に素早く動作を切り返すことができないといった現象が起こり得ます。なので、素早く大きな力でブレーキをかけられるようなトレーニングも積まなければ、パフォーマンスUPにはつながらないということです。

 

 

そして、ここでも最大筋力の向上は、ブレーキ筋力向上の土台になると考えられます。「ウエイトのマックスが上がっただけ」では意味がありませんが、それは高い速度でのブレーキ筋力を高めるためのポテンシャルUPにはつながっています。

 

また、この大きなブレーキによる動作の切り返しは、走りにおけるピッチの向上だけでなく、素早くジャンプしたり、物を投げたりするときにも重要です。

 

連続ジャンプをするときには、自分の体重の衝撃に耐えながら動作を切り返して跳ね上がる必要がありますし、物を投げるときにも反動動作を使います。このような反動動作を効率よく行うためにも、大きなブレーキ力を発揮できる必要があるわけです。これについては、以降に説明していきます。

 

一瞬で力発揮できないとダメ(力の立ち上げ)

ヒトは自身が持てる最大筋力を瞬時に発揮することはできません。筋力を発揮する(立ち上げる)ためにも時間がかかるのです。どんなに速い車でも、最初からトップスピードが出せるわけではないですよね?

 

ヒトが最大筋力を発揮するまでにかかる時間はおおよそ0.4秒程度と言われています。ただ、短距離走では、最高速度付近になると地面に足が付いている時間(接地時間)は0.1秒程度になります。なので、いくら最大筋力が高くても、その間に発揮できる筋力が高くなければパフォーマンス向上にはつながり得ないというわけです。跳躍でも投てきでも、このような短時間での力発揮が求められます。

 

下の図で行くと、最大筋力はA選手が高いけど、より短い時間内に発揮できる筋力ではB選手の方が優れています。

 

 

なので、短距離・跳躍・投てき選手で高いパフォーマンスを発揮するためには、一瞬で筋力を立ち上げられる能力も必要になるというわけです。そしてこれも、最大筋力が高いことが土台的な能力になります。筋肉量や最大筋力を高めて、一瞬で力発揮するようなトレーニングを積むことで、より短い時間での力発揮も高まりやすくなります。

 

バネ的な筋力が無いとダメ(弾性筋力)

弾性筋力とは、いわゆる「バネ的な筋力」のことです。特に短い時間で爆発的な力発揮を行う競技種目では、多くの場合バネのような筋力を使っています。

 

例えば、全力疾走をしている時、下腿では下図のようなバネ的な筋力発揮が行われています。

 

 

ふくらはぎの筋肉を一瞬で硬くできることで、アキレス腱が引き伸ばされます。すると、アキレス腱にバネのようなエネルギー(弾性エネルギー)が蓄えられ、地面の蹴り出し時にパチンコのように短縮します。この能力に長けているほど、短い時間で遠くに、高くジャンプできたり、短距離走のような超短い時間での接地時間の間に、身体を弾ませることができるようになります。

 

そして、この能力を高めるためには、やはり最大筋力が高いことが土台になります。そして、一瞬で力を立ち上げられることや、筋肉が引き伸ばされながら大きな力を発揮できることも、このバネ的な筋力を増幅させるのに役立ちます。

 

筋肉量が多くて、最大筋力が高いだけではダメ

このように、いくら筋肉量が多くて最大筋力が高くても、これらのような特異的な筋力発揮に優れていなければ、短距離・跳躍・投てき選手のパフォーマンスはなかなか高まってくれません。そのため、それぞれに応じた筋力を高めるトレーニングが必要になると言えます。

 

~キーポイント~

・筋肉量が多く、最大筋力が高いだけでは意味がない。
・一瞬で、高速で、急ブレーキをかける、そしてバネのような力発揮を高める必要がある。
・とはいえ、筋肉量や最大筋力はそれらの能力の土台となる。

 

ここまで理解すると、短距離・跳躍・投てき選手がパフォーマンスを高めるため「トレーニングの目的地」がある程度整理できてくると思います。

 

次回は、我々の身体はトレーニングでどのように変化するのが好ましいかを整理した「トレーニングピラミッド」について説明していきます。

 

 

参照・参考文献

・Meijer, J. P., Jaspers, R. T., Rittweger, J., Seynnes, O. R., Kamandulis, S., Brazaitis, M., ... & Degens, H. (2015). Single muscle fibre contractile properties differ between body‐builders, power athletes and control subjects. Experimental physiology, 100(11), 1331-1341.
・ブラディミール・ザチオルスキー&ウイリアム・クレーマー(2009)高松薫監訳,図子浩二訳,筋力トレーニングの理論と実践.大修館書店.

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