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第3回「短距離、跳躍、投てき選手のエネルギーはどこから?」

大きなパワーを発揮させ、持続させるためにはエネルギーを素早く作り続ける必要がある

前回の記事↓では、短距離走や跳躍、投てきのパフォーマンスを高めるために必要なことについて考えました。

 

 

身体が生み出すエネルギーに限定して話を進めてまとめると、パフォーマンスを高めるために必要なことは以下のようになります。

 

~短距離~
・誰よりも多くのエネルギーを素早く生み出し、それをゴールまで持続させる

 

~跳躍・投てき~
・誰よりも多くのエネルギーを素早く一瞬で生み出せること

 

したがって、短距離や跳躍、投てき種目で高いパフォーマンスを発揮しようと思ったら、「エネルギーをどれだけ素早く多く作ることができるか?短距離走の場合はそれをどれだけ持続できるか?」が重要になります。そういう身体を目指さないといけないわけです。

 

では、そのエネルギーというのはどうやったら素早く多く生み出せるのか、持続させられるのでしょうか?これを理解するためには、基本的な運動生理学の知識が必要です。

 

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大きなパワーを発揮し続けるにはATPを素早く作り続けることが必要

ヒトは、ATP(アデノシン三リン酸)という物質を分解するときに生まれるエネルギーを使って活動しています。心臓や肝臓などの臓器も、筋肉も、全てのエネルギー源はA

TPです。

 

しかし、このATPは体内にほんの僅かしか蓄えがありません。ほったらかしにしておくと、数秒で人間の身体は動けなくなってしまいます。なので、絶えず作り直す(再合成させる)必要があります。「ATPを使いつつ再合成、使いつつ再合成…」を、ずっと続けながら人間は運動できているというわけです。このATPの供給が無くなってしまった場合、それはヒトの生命活動の終わりを指します。すなわち死んでしまうわけです。

 

また、、全力に近い強度で運動している時、ヒトはATPを大量に消費しています。全力疾走を長く続けるなどしていると、疲れてきて、身体が動かなくなってきますが、これはATPの供給(再合成)が追い付かなくなるからです。なので、400m走のラストで身体が動かなくなってくるのは、本当の意味で死に近づいているということになります。ロングスプリントのトレーニング前に「死んでくるわ!」と言い残してケツ割れして散っていく人たちの言動は、あながち間違いではありません。

 

では、このATPはどのようにして再合成されているのでしょうか?そのためのエネルギー源として、爆発的な運動により関わるものに「クレアチンリン酸」「糖質(グリコーゲン・グルコース)」があります。このクレアチンリン酸と糖質は、皆さんの筋肉の中に蓄えられているものです。

 

 

 

クレアチンリン酸は、爆発的な力発揮とその持続に最も重要なエネルギー源

クレアチンリン酸は、筋肉の中に貯蔵されているエネルギー源です。これを分解するだけでATPを再合成できるので、素早くエネルギーを生み出すことができます。なので、爆発的なパワー発揮が重要なスポーツに、最も重要なエネルギー源だと判断することができます。

 

 

しかし、クレアチンリン酸は一般成人男性で筋肉に85g程度しか蓄えられていません。全力運動をして、蓄えられているクレアチンリン酸の分解だけでエネルギーを生み出そうとすると約7秒ほどでなくなってしまうと言われています(実際には分解しつつクレアチンリン酸自体の再合成も進んだり、他のエネルギー源も使われるので、全力運動でも7秒以上は続けられます)。なので、できるだけ多くクレアチンリン酸を蓄えられていた方が有利なのは明白です。

 

 

そして、このクレアチンリン酸は、トレーニングによってその貯蔵量を増やすことができると言われています。実際にトレーニングを積んだ選手では、180gまで貯蔵量を増やせたと言います(白川,2017)。また、クレアチンサプリメントを使うことで、貯蔵量を30%程度増やすことができるとされています(Peeling& Martyn,2018)。

 

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糖質は、そこそこ大きな力発揮とその持続に重要なエネルギー源

糖質は筋肉や肝臓にグリコーゲンとして、血中にグルコースとして蓄えられています。そしてこの糖は、超複雑な過程を経て、ピルビン酸という物質まで分解され、その過程で生じるエネルギーがATPを再合成するのに使われています。また、そこでできたピルビン酸は、ミトコンドリアと言うエネルギー生産工場に移動し、酸素を使って分解され、さらに多くのエネルギーを生み出します。

 

 

ミトコンドリアでのピルビン酸の処理が追い付かないと、ピルビン酸は乳酸という物質に変換され、再度筋内でピルビン酸に戻るか、血中へ出ていき、他の筋肉や臓器のエネルギー源になります。

 

つまり、糖は分解するだけでエネルギーを素早く生み出せる(乳酸を作る)し、酸素を使えばもっと効率的にエネルギーを生み出すことができる(乳酸を使う)、重要なエネルギー源だということが分かります。

 

ハイパワーの発揮とその持続のためには、この糖を分解して、乳酸をたくさん作れる能力+乳酸をたくさん使える能力が大事だということになります。

 

 

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ATPを素早く作るためには、クレアチンリン酸と糖をたくさん使えることが大事

爆発的な力発揮のために重要なエネルギー源として、「クレアチンリン酸」「糖質」を挙げて説明してきました(脂質の分解でもエネルギーを効率良く生み出すことができますが、全力に近い運動の場合の貢献度合いは低いので、ここでは割愛させて頂きます)。

 

どちらも筋肉の中に蓄えられており、たくさん一気に使えること、持続的に使えることがハイパワーの発揮に重要です。これが、より多くのエネルギーを素早く生み出すためのポイントになります。

 

ポイント
・爆発的な力発揮とその持続のためのエネルギーを生み出すためには、筋肉の中に蓄えられている「クレアチンリン酸」と「糖」をより多く素早く使えるようにすることが重要である。

 

そして、このクレアチンリン酸と糖の分解は筋肉の「速筋線維」という場所で行われます。つまり、この速筋線維の能力を高めることこそが、ハイパワーの発揮とその持続力にとても重要になるわけです。これについては次回より、詳しく説明していきます。
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参照・参考文献

・勝田茂, 和田正信, & 松永智. (2015). 入門運動生理学. 杏林書院.
・芳賀脩光, & 大野秀樹. (2003). トレーニング生理学.
・寺田新. (2017). スポーツ栄養学: 科学の基礎から 「なぜ」 にこたえる. 東京大学出版会.
・山地啓司, 大築立志, 田中宏暁 (編), スポーツ・運動生理学概説. 昭和出版: 東京.
・白川純(2017)陸上競技(走・跳・投)の トレーニングを 科学的な視点から考える ~運動生理学から考える、より効果的なトレーニング方法 etc~ 2017年8月10日 於;広島
・Peter Peeling and Martyn J. Evidence-Based Supplements for the Enhancement of Athletic Performance. BinnieInternational Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 2018, 28, 178-187.
・Wilmore, J. H., Costill, D. L., & Kenney, W. L. (1994). Physiology of sport and exercise (Vol. 524). Champaign, IL: Human kinetics.

 

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