ヒトは、ATP(アデノシン三リン酸)という物質を分解するときに生まれるエネルギーを使って活動しています。心臓や肝臓などの臓器も、筋肉も、全てのエネルギー源はA
TPです。
しかし、このATPは体内にほんの僅かしか蓄えがありません。ほったらかしにしておくと、数秒で人間の身体は動けなくなってしまいます。なので、絶えず作り直す(再合成させる)必要があります。「ATPを使いつつ再合成、使いつつ再合成…」を、ずっと続けながら人間は運動できているというわけです。このATPの供給が無くなってしまった場合、それはヒトの生命活動の終わりを指します。すなわち死んでしまうわけです。
また、、全力に近い強度で運動している時、ヒトはATPを大量に消費しています。全力疾走を長く続けるなどしていると、疲れてきて、身体が動かなくなってきますが、これはATPの供給(再合成)が追い付かなくなるからです。なので、400m走のラストで身体が動かなくなってくるのは、本当の意味で死に近づいているということになります。ロングスプリントのトレーニング前に「死んでくるわ!」と言い残してケツ割れして散っていく人たちの言動は、あながち間違いではありません。
では、このATPはどのようにして再合成されているのでしょうか?そのためのエネルギー源として、爆発的な運動により関わるものに「クレアチンリン酸」と「糖質(グリコーゲン・グルコース)」があります。このクレアチンリン酸と糖質は、皆さんの筋肉の中に蓄えられているものです。

クレアチンリン酸は、爆発的な力発揮とその持続に最も重要なエネルギー源
クレアチンリン酸は、筋肉の中に貯蔵されているエネルギー源です。これを分解するだけでATPを再合成できるので、素早くエネルギーを生み出すことができます。なので、爆発的なパワー発揮が重要なスポーツに、最も重要なエネルギー源だと判断することができます。

しかし、クレアチンリン酸は一般成人男性で筋肉に85g程度しか蓄えられていません。全力運動をして、蓄えられているクレアチンリン酸の分解だけでエネルギーを生み出そうとすると約7秒ほどでなくなってしまうと言われています(実際には分解しつつクレアチンリン酸自体の再合成も進んだり、他のエネルギー源も使われるので、全力運動でも7秒以上は続けられます)。なので、できるだけ多くクレアチンリン酸を蓄えられていた方が有利なのは明白です。

そして、このクレアチンリン酸は、トレーニングによってその貯蔵量を増やすことができると言われています。実際にトレーニングを積んだ選手では、180gまで貯蔵量を増やせたと言います(白川,2017)。また、クレアチンサプリメントを使うことで、貯蔵量を30%程度増やすことができるとされています(Peeling& Martyn,2018)。
関連記事
糖質は、そこそこ大きな力発揮とその持続に重要なエネルギー源
糖質は筋肉や肝臓にグリコーゲンとして、血中にグルコースとして蓄えられています。そしてこの糖は、超複雑な過程を経て、ピルビン酸という物質まで分解され、その過程で生じるエネルギーがATPを再合成するのに使われています。また、そこでできたピルビン酸は、ミトコンドリアと言うエネルギー生産工場に移動し、酸素を使って分解され、さらに多くのエネルギーを生み出します。

ミトコンドリアでのピルビン酸の処理が追い付かないと、ピルビン酸は乳酸という物質に変換され、再度筋内でピルビン酸に戻るか、血中へ出ていき、他の筋肉や臓器のエネルギー源になります。
つまり、糖は分解するだけでエネルギーを素早く生み出せる(乳酸を作る)し、酸素を使えばもっと効率的にエネルギーを生み出すことができる(乳酸を使う)、重要なエネルギー源だということが分かります。
ハイパワーの発揮とその持続のためには、この糖を分解して、乳酸をたくさん作れる能力+乳酸をたくさん使える能力が大事だということになります。
関連記事