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無酸素性作業能力の決定要因と、運動パフォーマンスとの関係

無酸素性作業能力の決定要因と、運動パフォーマンスとの関係

無酸素性作業能力とは?

 

ヒトがエネルギーを生み出す仕組みには、大きく3つの過程があります。それが、ATP-CP系、解糖系、有酸素系と呼ばれるものです。

 

そのうち、ATP-CP系、解糖系は、エネルギーを生み出す過程で酸素を利用しないことから、無酸素性のエネルギー供給系と呼ばれています。

 

有酸素系のエネルギー供給では、酸素を使って複雑な過程を経なければ、エネルギーを生み出せないため、そのエネルギー供給に時間がかかってしまいます。そのため、あまり大きなパワーを生み出すことができません。

 

一方で、ATP-CP系や解糖系では、そのエネルギー源となるクレアチンリン酸や、糖(グリコーゲン、グルコース)を分解するだけでエネルギーを生み出せるため、素早くエネルギーを作り出すことができます。つまり、高いパワーを発揮するために重要なエネルギーシステムと言えるわけです。

 

図 クレアチンリン酸やグリコーゲンは筋内に蓄えられていて、分解するだけでエネルギーになるから素早くエネルギー供給ができ、高いパワーを発揮するのに重要。

 

 

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この無酸素性のエネルギー供給の仕組み(ATP-CP系、解糖系)を使って、どれだけエネルギーを生み出せるかを表す能力「無酸素性作業能力」です。無酸素性作業能力が高い…を言い換えると、より高いパワーを短時間で発揮する能力に優れていると解釈できます。

 

 

 

無酸素性作業能力と運動パフォーマンスとの関係

 

無酸素性作業能力は、高いパワーを発揮する運動能力と強く関係します。例えば、陸上の100m走、200m走、400m走などです。以下の図のように、無酸素性のエネルギーによる貢献率が高いことが分かります。

 

 

 

実際に、高いパフォーマンスを有する400m走の選手は、無酸素性作業能力の指標である酸素負債能力に優れていることからも、無酸素性作業能力と運動パフォーマンスとの関連の強さが伺えます。

 

 

 

 

 

 

無酸素性作業能力を決めるのは?

 

さて、この無酸素性作業能力とは、どのようにして決まるのでしょうか?この無酸素性エネルギー供給の過程では酸素を使わないため、体内に予め貯蓄されているエネルギー源をどれだけ使えるか?が重要なポイントになります。

 

ATP-CP系では、体内に微量に蓄えられているCP(クレアチンリン酸)を分解してエネルギーを作り出します。なので、クレアチンリン酸を多く蓄えられること、そして多く使えることが重要だと分かります。

 

解糖系では、筋肉に蓄えられた糖(グリコーゲン)を分解するため、グリコーゲンが十分あるか、グリコーゲンをどれだけ分解して、乳酸を作り出せるかが重要です。

 

この乳酸を分解する酵素は速筋線維に多いことや、筋肉が大きいほど、クレアチンリン酸やグリコーゲンの貯蔵も増やしやすくなることから、速筋線維を大きくすることも無酸素性能力を高める一つの土台になることが理解できます。

 

つまり、これらをまとめると

 

・速筋線維を増やす
・クレアチンリン酸を増やして、それをどれだけ使えるか?
・グリコーゲンをどれだけ使えるか?

 

あたりが、無酸素性能力を高める主な視点として、見えてくると考えられるでしょう。

 

 

 

無酸素性作業能力を高めるためには?

 

無酸素性作業能力を高めるためには、当然トレーニングが必要です。加えて、食事やサプリメントによっても、その能力を高める(低下させない)ことができます。

 

 

筋肉量を増やす

クレアチンリン酸の貯蔵場所としても、糖を分解する酵素の多い速筋線維を増やすためにも、筋肉量を増やすトレーニングは重要です。

 

筋肉量を増やす=無酸素性作業能力が高まる…ではありませんが、その土台づくりとしては欠かせないと言えるでしょう。ウエイトトレーニングやスプリントトレーニングなどで、負荷を与えて、速筋線維を刺激するトレーニングが有効です。

 

 

筋力を高める

筋肉が大きくなるだけでは、その能力を十分に引き出すことができません。なので、肥大した筋肉がきちんと大きな力を発揮できるように、トレーニングをする必要があります。

 

具体的には、最大筋力法と呼ばれる、高強度低回数のウエイトトレーニングを用いたり、ジャンプトレーニングなどで一瞬で大きな力を発揮させるような刺激も有効でしょう。これによって、効率よくエネルギーを分解して、大きな力を発揮できるようになります。

 

 

スプリントトレーニング

スプリントトレーニングとは、短距離走や自転車ペダリングなどで、強度の高い比較的短時間の運動を行うものです。ハイパワーを短時間のうちに発揮するトレーニングであるため、直接的に無酸素性作業能力を高めるトレーニングであると言えます。

 

このようなトレーニングを行うことで、以下のような効果が得られるとされています『以下、(八田,2003)より紹介』。

 

 

・速筋線維の肥大

遅筋線維が減って速筋線維が増えるということはありませんが、スプリントトレーニングのような高強度の刺激を与えることで、無酸素性作業能力の土台と言える速筋線維を太くすることができます。

 

・解糖能力の向上

糖を分解する酵素を活性化させて、運動で糖を分解する能力(解糖能力)を高めることができます。糖を多く分解できるようになるので、乳酸を多く作ることができるようになります。しかし、スプリントトレーニングでは、解糖能力と同時に、以下に続く酸化能力も向上させるので、一概に乳酸値が高くなるわけではないとも言われています。

 

・酸化能力の向上

短距離走でも有酸素系のエネルギー供給の貢献が高いと言われていることから、スプリントトレーニングでも、酸素を使ってエネルギーを生み出す酸化能力が向上します。強度の高い運動であっても運動開始直後からミトコンドリアでの有酸素性の代謝が始まっているので、それを繰り返すようなトレーニングをやれば、有酸素性の能力向上も期待できると言えます。

 

・緩衝能力向上

糖を多く分解し、乳酸が蓄積していくと、筋肉内が酸性に傾きます。すると、糖を分解する酵素の働きが影響を受け、解糖系が長続きしなくなってしまいます。ここで、筋内が酸性に傾くのを防ぐのが、緩衝能力です。緩衝能力が高まると、より多く糖を分解できるようになるとされています。

 

 

 

 

トレーニング例

 

無酸素性作業能力を高めるトレーニングには、考え方次第で様々なバリエーションを持たせることができます。

 

とにかく、クレアチンリン酸や糖の分解を最大限にするくらい高強度であることが前提で、目的に応じて運動時間や休息を考えなくてはいけません。

 

クレアチンリン酸を多く分解して、短時間でのパワー発揮を高めたければ、5ー10秒程度、全力で走ったり、ペダリングしたりするトレーニングが挙げられます。少し長い時間、ハイパワーを発揮し続ける能力を高めたければ、30秒程度全力で走ったり、ペダリングしたりするトレーニングを積むことも有効でしょう。

 

 

 

 

関連動画(POWERMAXで無酸素パワーを測定する 【東京有明医療大学】)

 

 

食事・サプリメントで高める

 

また、無酸素性のエネルギー供給を行うための、そもそものエネルギー源を、食事やサプリメントから補給しておくことも有効です。

 

筋内のクレアチンリン酸は、クレアチンサプリメントを活用することである程度増えると言われています。また、筋内のグリコーゲンは、食事から糖を摂取することで、回復します。

 

そもそものエネルギー源を充分に満たした状態でないと、高いパワーを発揮することはできませんし、トレーニング効果もなかなか上がってこないでしょう。トレーニングと食事はセットで考えるべきです。

 

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無酸素運動というのは、厳密には有り得ない

 

ここまで散々、無酸素性作業能力について述べてきましたが、「無酸素性作業能力」「無酸素トレーニング」と口にしていると、そのようなトレーニングは、無酸素で行われているという印象を持たれてしまうかもしれません。

 

しかし、先に述べたとおり、短距離スプリント、短時間ペダリングという高強度のトレーニングであっても、運動開始直後から、酸素を使ったエネルギー供給が始まっています。また、そのようなトレーニングは、無酸素性の能力だけでなく有酸素性の能力も高めます。

 

このような事実があるのにも関わらず「無酸素トレーニング、無酸素性作業能力」という言葉を使うと、「筋内が無酸素状態にある」という誤解に繋がりかねないということも指摘されています(八田,2003)。

 

あくまで、エネルギー供給過程で酸素を使わない経路があり、そのエネルギー供給能力の貢献が高いとされる運動能力の指標として「無酸素性作業能力」という言葉が使われているということに、注意が必要です。

 

 

 

 

参考・参照文献

・前村公彦, 宮下憲, & 高松薫. (2005). 重炭酸緩衝能力と 400m 走パフォーマンスとの関係. 陸上競技研究, 2005(3), 10-17.
・八田秀雄(2009)日本トレーニング科学会編,スプリントトレーニング―速く走る・泳ぐ・滑るを科学する―. 朝倉書店.
・桧垣靖樹(2011)山地啓司, 大築立志, 田中宏暁 (編), スポーツ・運動生理学概説. 昭和出版.
・勝田茂, 和田正信, & 松永智. (2015). 入門運動生理学. 杏林書院.
・八田秀雄(2003)芳賀脩光, & 大野秀樹 編, トレーニング生理学,杏林書院.
・Hultman, E., Greenhaff, P. L., Ren, J. M., & Söderlund, K. (1991). Energy metabolism and fatigue during intense muscle contraction.


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