速筋線維と遅筋線維(部位やスポーツ選手による違いと推定方法)

速筋線維と遅筋線維(部位やスポーツ選手による違いと推定方法)




速筋線維と遅筋線維(部位やスポーツ選手による違いと推定方法)

 

 

 

 

筋線維は、大きくタイプが2つに分かれています。速筋線維と遅筋線維です。

 

 

 

速筋線維の特徴

 

速筋線維は収縮する速度が高く、その速度は遅筋線維と比べて2〜4倍だと言われています。また、糖を分解してエネルギーを生み出す解糖能力に優れ、大きな力を生み出せることも特徴です。しかし、疲労しやすいという弱点があります。

 

 

この速筋線維はFT線維(Fast twitch: FT)、またはTypeⅡ線維と呼ばれることもあります。

 

 

さらに、速筋線維は、持久性に富んだFTa(TypeⅡa)線維と、持久性の低いFTb(TypeⅡb)線維に分かれます。

 

 

※実際、FTb線維はほとんどヒトには含まれておらず、代わりに似た性質のFTx(TypeⅡx)線維が存在していることが分かっています(石井,2015)。

 

 

 

 

この速筋線維に持久性が低いのは、エネルギーを持続的に生み出すミトコンドリアという器官が少ないからだと言われています。

 

 

収縮速度はTypeⅡb(TypeⅡx)が最も高く遅筋線維の約4.1倍TypeⅡaは約2.3倍ほどだとされています(Bottinelliほか,1996)。しかし、同じTypeⅡaであっても最も収縮速度が高いものと最も遅いものでは3倍も速度が異なるようです。

 

 

一方、単位面積あたりの最大筋力は速筋線維の方が高いにしても、収縮速度までの違いは見られません。

 

 

 

 

 

 

 

持久性の低いTypeⅡb、TypeⅡx線維にはミトコンドリアがほとんどなく、白っぽいので白筋と呼ばれたりします。対して、TypeⅡa線維にはミトコンドリアがやや多いので、赤っぽく見え、ピンク色なのでピンク筋とも呼ばれています。

 

 

 

遅筋線維の特徴

 

遅筋線維は出せる力に限界があり、大きな力は発揮できないものの、持久性に優れており、疲労しづらいことが特徴です。

 

 

遅筋線維にはミトコンドリアが多く含まれており、酸素を使ってエネルギーを生み出す能力(酸化能力)に優れていると言えます。

 

 

ミトコンドリアにはミオグロビンという赤い物質が含まれているので、赤っぽく見えるのも特徴です。そのため、赤筋とも呼ばれています。

 

 

遅筋は速筋と比較して疲労耐性が非常に高く、1時間以上収縮させ続けても発揮する張力はほとんど変化しません。

 

 

 

 

 

また、FTだとかTypeⅡだとか、呼び方に違いが色々あるのは、その分類方法の違いによるものです。

 

 

例えば、筋肉を取り出して特殊な染色を施したり、筋原線維のミオシンの構造を基に分類したり(TypeⅠやTypeⅡa,b,x)、酸化能力の優劣を用いたり(FG(fast glycolytic)、SO(slow oxidative))、はたまた力学的な収縮速度や疲労耐性によって分けたり(ST,FT)…などです。

 

 

関連記事

・筋線維タイプの分類方法

 

 

 

 

 

 

筋線維の比率と部位による違い

 

この速筋と遅筋の比率は、多くの場合50%ずつ、半分半分だと言われています。

 

 

しかし、個人差が大きく、極端に速筋が多かったり、遅筋が多かったりする場合があります。

 

 

また、身体の部位によっても違いが見られます。特にふくらはぎのヒラメ筋では、80%以上が遅筋線維です。それ以外はTypeⅡa線維になっています。

 

 

 

 

これは、ヒラメ筋が抗重力筋として立っている姿勢を常にキープする、持久性がより求められるが故に適した特性であると言えます。

 

 

 

スポーツ選手の筋線維組成

 

スポーツには、スピードやパワーが重要なものがあれば、高い持久性が重要なものもあります。したがって、速筋と遅筋の比率というのは、このようなスポーツのパフォーマンスにも影響します。

 

 

例えば、陸上の短距離走や投擲、跳躍種目では、爆発的なパワーやスピードがパフォーマンスを決めてしまいます。当然、速筋線維の比率が高い方が有利になります。

 

 

一方で、マラソンのように長時間にわたり筋力を維持し続けるような種目では、持久性に富んだ遅筋線維の比率が高い方が良いでしょう。

 

 

実際に、スピードやパワーが求められる種目のアスリートでは速筋線維の割合が高く、持久性がよりら求められるアスリートでは遅筋線維の比率が高いことが分かっています。

 

 

 

 

 

陸上短距離選手の中には90%以上が速筋だとか、マラソンでは90%以上が遅筋だとかいう選手も確認されているようです。恐ろしい才能…。

 

 

しかし、短距離走トップ選手の中でも6割程度しか速筋がなかったり、マラソンの一流でも5割の遅筋…という選手がいるのも事実です。

 

 

筋線維組成だけでパフォーマンスが決まってしまうのがスポーツではありません。トレーニングによって、神経系の要素や技術を変化させたり、持久性に関わるミトコンドリアや毛細血管を増やしていくことなど、伸び代は他にも多くあります。

 

 

 

筋線維の比率は生まれつき?

 

この筋線維のタイプの比率は生まれつきのものだと言われています。

 

 

双子の筋線維組成を調べた研究では、一卵性双生児の双子では、筋線維の組成がほとんど一致しています。一方、二卵性双生児では筋線維組成に違いがあることが報告されています(KomiとKarlsson,1979)。

 

 

また、トレーニングを行うことによっても速筋と遅筋の割合は大きく変化しないことが分かっています。実際に、陸上長距離選手として20年間トレーニングを積んだ場合でも、遅筋線維の割合は増えていなかったことも報告されています。

 

 

このことからも、筋線維組成の差は生まれつき、遺伝的な要因が大きいと考えられます。

 

 

速筋から遅筋へのタイプ変化?

 

遅筋線維から、速筋線維へと変化することは現時点では考えにくいことです。しかし、トレーニングによって持久性の低い速筋(TypeⅡb、TypeⅡx )が、持久性の高いTypeⅡaの速筋線維に移行することは確認されています(AndersenとHenriksson,1977)。

 

 

このような変化は、ウエイトトレーニングや短距離スプリントの練習によっても起こります。

 

 

実際に、激しいトレーニングを長期間行なっている短距離選手やパワーリフターなどの筋線維には、TypeⅡbがほとんど見られず、ほぼTypeⅡaに移行してしまっていると言います。

 

 

しかし、トレーニングを休止すると、TypeⅡaに移行していた筋線維は、再びTypeⅡbに戻ってしまいます。

 

 

 

 

とはいえ、最も瞬発力のある筋線維はTypeⅡxです。つまり、トレーニングを休止するとTypeⅡaだった筋線維がTypeⅡxに戻ってくれるというわけです。

 

 

ということは、より瞬発力が必要なアスリートでは、試合の前に少しだけトレーニングをサボることで、TypeⅡxが増え、パフォーマンスが高まるかもしれない…?ということが言えるわけです。

 

 

しかし、サボり過ぎると当然筋線維自体が萎縮してしまったり、繊細な技術、感覚的なものが失われ、逆に悪影響が出てしまう可能性もあるでしょう。また、瞬発力だけでなく持久性も必要なアスリートでは、当然持久能力に悪影響が出ます。

 

 

自身の種目特性を見極めながら、適度なサボり具合を日々探っていくことが必要です。

 

 

 

筋線維の推定方法

 

筋線維の組成を調べる方法は、筋肉を直接採取して測定する「筋バイオプシー法」が最も有名です。しかし、そのような測定は専用の機器が無ければ不可能です。

 

 

そこで、スポーツの現場で簡易的に行えるものとして、50m走と12分間走のタイムから筋線維組成を推定する方法があります。

 

 

これは、50m走のパフォーマンスと12分間走のパフォーマンスが相対的にどれくらい異なるかを基に、予め研究(勝田ほか,1989)により得られた推定式に当てはめて、速筋線維と遅筋線維の比率を推定しようというものです。

 

 

 

 

~筋線維組成の推定式(勝田ほか,1989)~

 

大腿部の速筋線維の割合(%)=69.8x−59.8

※x=50m走の速度(m/s) / 12分間走の速度(m/s)

 

 

例えば太郎くんの50m走のタイムが6.5秒、12分間走の走行距離が3000mだった時、50m走の速度は7.69m/s、12分間走では4.17m/sです。

 

 

これを上の推定式に当てはめると

 

x=7.69/4.17=1.84
(69.8×1.84)−59.8=68.6

 

となり、太郎くんの大腿部の速筋線維の割合は68.6%、遅筋線維は31.4%と推定されるわけです。

 

 

つまり、太郎くんは速筋タイプかも??ということになります。

 

 

 

参考文献

・石井直方(2015).石井直方の筋肉の科学.ベースボール・マガジン社.
・Saltin, B., & Gollnick, P. D. (1983). Skeletal muscle adaptability: significance for metabolism and performance. Handbook of Physiology. Skeletal Muscle, 10, 555-631.
・Bottinelli, R., Canepari, M., Pellegrino, M. A., & Reggiani, C. (1996). Force‐velocity properties of human skeletal muscle fibres: myosin heavy chain isoform and temperature dependence. The Journal of physiology, 495(2), 573-586.
・勝田茂, 和田正信, & 松永智. (2007). 入門運動生理学第3版. 杏林書院.
・Komi, P. V., & Karlsson, J. (1979). Physical performance, skeletal muscle enzyme activities, and fibre types in monozygous and dizygous twins of both sexes. Acta physiologica Scandinavica. Supplementum, 462, 1-28.
・Andersen, P., & Henriksson, J. (1977). Capillary supply of the quadriceps femoris muscle of man: adaptive response to exercise. The Journal of physiology, 270(3), 677-690.
・勝田茂, 高松薫, 田中守, 小泉順子, 久野譜也, & 田渕健一. (1989). 50m 走と 12 分間走の成績による外側広筋の筋線維組成の推定. 体育学研究, 34(2), 141-149.

 



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