陸上競技の短距離走や、跳躍、投てき種目、または高いジャンプ力や加速力、方向転換力が求められる球技スポーツなどでは、筋肉を素早く動かしたり、大きなパワーを発揮できることが大事になります。
高いスピードで動く自分の体重やその他の物体をさらに加速させたり、動作に急ブレーキをかけたりするためには、高い速度でも大きな力を発揮できないといけないからです。
では、このパワーを高めるためには何が必要なのでしょうか?ここからは、その筋肉の収縮速度やパワーを決める要因について紹介します。
速筋と遅筋の比率
筋肉には、大きく分けて速筋線維と遅筋線維の2種類があります。速筋線維は大きな力を発揮できますが、持久性に乏しく、逆に遅筋線維は発揮できる力に限界はあるけど、持久性に優れているという特徴があります。
この速筋線維と遅筋線維の「力-速度関係」を見てみると、その差は歴然です。速筋線維は収縮スピードも高く、発揮できる力も大きいことが分かります。なので発揮できるパワーもケタ違い(遅筋線維の約3倍)です。
この速筋線維と遅筋線維の割合は、生まれつきによるものがほとんどです。なので、トレーニングによってその線維数の比率を変えることは難しいと言えるでしょう。しかし、トレーニングをすることで、速筋線維を肥大させることは可能です。
活動電位の頻度や強さ
筋肉が収縮するためには、脳や脊髄からの信号(活動電位)を受け取ることが必要です。この活動電位には強さがあり、強いほど大きな力を発揮できる速筋線維を動員させることができます。
また、この活動電位は1回だけポンッと信号を送るだけでは不十分です。なので連続的に強い信号を送ることができなければ、筋肉の強く、速い収縮は望めません。なので、強く連続的な活動電位を送ることができることが、高いパワーを発揮するのに必要です。
この脳からの指令(活動電位)は、最大筋力を高めるような高強度のトレーニングを行ったり、重りを瞬間的に素早く持ち挙げるパワートレーニングで改善することができます。
また、大声を出すことで一時的に脳のリミッターが外れ(シャウト効果)、より強い活動電位を送ることができ、より大きな筋力、パワーの発揮につながることが知られています。
そもそもの最大筋力
最大筋力の高さは、高い速度で発揮できる力のポテンシャルに関わります。下の力-速度関係のグラフにおいて、最大筋力が高まることでグラフが少し上に持ち上がりやすくなるわけです。
このように、そもそもの筋肉が発揮できる最大の筋力を高めておくことで、より高速域で発揮できる力のポテンシャルは高められます。
最大筋力は筋横断面積(筋の太さ)と関わりがあるので、ベーシックな筋力トレーニングで筋肉量を増やしたりすることもとても重要なことだと言えるでしょう。
筋量を増やし、最大の筋力を高めることで、高速域での力発揮、すなわち高いパワー発揮のための土台を作ることができます。
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その他その運動そのもののスキル?
その運動を遂行するためのスキルを高めることで、その運動でのパワーを高めることができます。例えば、垂直跳びが「上手く」できるようになることで、発揮できるパワーが上がるなどの場合です。この垂直跳びの場合は、腕の振り込み動作や、反動動作を上手く使えるようになると垂直跳び中に発揮できるパワーが上がります。
筋肉量や筋力などの、筋肉自体のポテンシャルが大して向上していなくとも、その動作が上手くやれることで発揮できるパワーが高まるわけです。
また、その他にパワーを高めるスキルとして、拮抗筋の緊張を抑えるというものがあります。図のように肘を曲げる運動をする時、上腕二頭筋を短縮させることで肘が曲がります。この時上腕二頭筋は肘を曲げるメインの働きをしているので「主導筋」と呼ばれます。
一方この時、上腕二頭筋とは反対側にある上腕三頭筋が短縮してしまうと、肘を曲げる動作としては都合が悪くなってしまいます。このように、主導筋とは拮抗関係にある筋肉は「拮抗筋」と呼ばれています。
関節で大きなパワーを発揮をしようとしても、拮抗筋が緊張していては、上手く主導筋の力を引き出すことができなくなってしまいます。その動作そのものの練習を続けることで、徐々に拮抗筋の活動を抑えて、滑らかな動きになってくることがあります。一流選手のスポーツの動作がとても滑らかに見えることがあるのはこのことも関係していると言えるでしょう。
また、静的なストレッチをすることによっても、一時的に拮抗筋の働きを抑えることができ、特定の運動パフォーマンスが改善することが知られています。
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