最大筋力を高める要因とトレーニング方法(神経系と筋断面積)

最大筋力を高める要因とトレーニング方法(神経系と筋系)




最大筋力を高める要因とトレーニング方法(神経系と筋系)

 

 

スポーツのパフォーマンスを高める上で、最大筋力を高めることは有利に働くことが多いでしょう。

 

 

ここでは、その最大筋力とは何によって決まるのか、そしてそのトレーニング方法にはどのようなものがあるかについて紹介していきます。

 

 

 

 

運動単位の動員

動員できる運動単位が多いほど、筋力は高まる

 

最大筋力を決める要因には、様々なものがあります。その一つが、運動単位の動員です。運動単位とは、「1つの運動神経と、それが支配する筋線維の集団」のことです。これだけでは少しわかりにくいですね…。以下の図を見てみましょう。

 

 

筋肉は以下の図のように神経とつながっており、脳や脊髄からの信号を受けて活動しています。

 

 

 

 

一つの運動神経は、複数の筋線維を従えているので、一つの運動神経が働くと、従えている筋線維の集団は一つもサボることなく収縮するようにできているわけです。この一つの運動神経と従えている筋線維の集団の1setのことを「運動単位」と言います。

 

 

そして私たちの筋肉には、この運動単位がたくさん詰まっています。なので、より大きな筋力を発揮するためには、より多くの運動単位を働かせて、サボる筋線維を減らす必要があるのです。実際に、弱い筋力を発揮するときには、「全力を出す運動単位」と「サボる運動単位」の比率が調整されることによって、その筋力をセーブしています。

 

 

 

 

 

また、めいっぱい筋力を発揮しようとしても、トレーニングしていない人では、この運動単位を多く動員させることができません。ケガをしないよう、リミッターがかかっているからです。トレーニングを行うことによって、この運動単位の動員数を増やすことができます。したがって、より大きな筋力を発揮するためには、サボっている運動単位を減らし、より多くの運動単位を動員させることが大事になってくるわけです。

 

 

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運動単位の動員を高めるためには?

 

運動単位は、脳や脊髄から送られてきた「活動電位(インパルス)」によって働きます。しかし、運動単は、ある程度強い活動電位が伝えられなければ、反応してくれません。また、この活動電位は1回だけ「ポンッ!」と伝えるだけでは不十分で、大きな力を発揮するためには連続的に強い活動電位を送る必要があるのです。

 

 

この能力を高めるシンプルな方法として、最大筋力に近い筋力発揮のトレーニングを行うことです。例えば1RMの90%以上の重さでのウエイトトレーニングなどが挙げられます。

 

 

また、筋力を発揮するときに「大声をだす」ことも有効です。これは「シャウト効果」と呼ばれ、一時的に脳のリミッターを外して、運動単位を多く使えるようになるというものです。

 

 

運動単位の活動のタイミングを良くする(運動単位の同期化)

 

より多くの運動単位を動員することは大切ですが、大きな筋力を発揮するためには、その動作でより多くの運動単位をタイミングよく活動させられることも重要です。力発揮のタイミングがバラバラでは、一発で大きな力を出すことができないからです。

 

 

これを改善するための方法として、シンプルなのが「その動作の練習をする」ことです。スクワットであればスクワットでの力発揮のコツを覚えるだとか、です。この運動単位の同期化は、その動作が上手くなる要因の一つでもあります。

 

 

 

筋横断面積

筋肉が太いほど、大きな力を発揮できるポテンシャルが高い

 

筋横断面積とは、いわゆる筋肉の太さのことを言います。この筋横断面積が大きいほど、発揮できる筋力は高くなりやすいことが分かっています。個人差はあるものの、この筋横断面積は筋力を決める最重要ともいえる要因です。

 

 

 

したがって、トレーニングによって「筋肥大」を起こすことは、最大筋力を高めるうえで、重要な土台であるとみなすことができるわけです。

 

 

筋肥大を起こすためには?

 

筋肥大を起こすためには、当然筋力トレーニングが必要です。筋肉にかかる力学的な負荷(どれくらいの重さをどれだけ挙げたか?)や代謝的な負荷(筋肉の内部で発生する代謝物による反応)、筋肉の損傷など、筋肥大には様々な要因が関わります。

 

 

これらを促す筋力トレーニングのベーシックなやり方が、中負荷で中回数のセットの組み方です。例えば、1RM(一回ギリギリ挙げられる重さ)の75%くらいで、10回×3セットなどのウエイトトレーニングです。

 

 

このようなトレーニングを継続的に行い、筋肥大をさせた後、先述した神経系の働きを高める1RMの90%以上の高強度トレーニングを行うことで、より効果的に最大筋力を高めることができます。

 

 

筋肥大を促すならトレーニングのボリュームが大事になり、仕上げで最大筋力を引き出すには、一発で大きな力を発揮するような刺激が重要になるわけです。

 

 

 

筋組成(速筋線維の多さ)

 

筋線維には大きく2つのタイプがあり、それが「速筋線維」「遅筋線維」です。速筋線維は遅筋線維と比較して、持久力に劣る代わりに、エネルギーを生み出す速度が非常に高く、より大きな力を発揮するのに優れています。

 

 

 

 

したがって、この速筋線維を多く有している方が、最大筋力を発揮するのに有利だということになるわけです。

 

 

しかし、ヒトの筋肉の速筋線維と遅筋線維の割合は先天的に決まるものであり、かつトレーニングによって遅筋線維を速筋線維に変えることはできないことが分かっています。

 

 

関連記事

・速筋線維と遅筋線維(部位やスポーツ選手による違いと推定方法)

 

・筋線維タイプの分類方法

 

 

 

筋線維の走行角度(羽状角)

平行筋と羽状筋

 

筋肉は筋肉であっても、その構造にはそれぞれ違いがあります。その一つが「羽状角」と呼ばれるものです。羽状角とは、簡単に言うと、筋線維のが走っている方向が、筋肉の末端と末端を結ぶ線とどれくらい角度が違うかを表すものです。

 

 

下の図のように、筋線維が筋肉の長軸方向と平行になっているものもあれば、斜めになっているものもあるのです。筋線維が平行に走っている方を「平行筋」、斜めになっている方は鳥の羽のように見えることから「羽状筋」と呼ばれます。

 

 

 

平行筋では、その筋線維が縮んだ分だけ筋肉全体も縮むことになります。なので、高い収縮スピードを発揮しやすいという利点があります。

 

 

一方、羽状筋は筋線維が縮んだ分だけ筋肉全体も縮むわけではないので、収縮スピードは低くなりやすいです。しかし、同じ筋肉量でも多くの筋線維が詰まっているので、大きな筋力を発揮しやすい構造をしているわけです。

 

 

「抗重力筋」と言われる重力に逆らって姿勢を維持する筋肉には羽状筋が多いことが知られています。これは楽に大きな力を発揮できる方が、姿勢を長時間キープするのに適しているからだと言えます。逆に、上腕二頭筋やハムストリングなど、関節を曲げる作用を持つ筋肉には平行筋が多いと言われています。

 

 

羽状角を大きくするには?

この羽状角はトレーニングによって筋が肥大することによっても大きくなります。筋横断面積が最大筋力と関連するのは、単に筋線維1本1本が太くなることだけでなく、羽状角の増加によって、力を生み出す効率が良くなることも関係しているわけです。

 

 

 

関節のモーメントアーム

 

モーメントアームとは、関節の中心(回転軸)から筋肉が引っ張る力の作用線までの距離のことを言います。これが長いほど、少ない力で大きな回転力、すなわち筋力を生み出すことができるというわけです。膝関節で考えてみると、大腿四頭筋の付着部が下腿を引っ張り、その作用線と回転軸である膝関節中心の距離になります。

 

 

 

 

このモーメントアームは、関節によって異なりますが、ヒトによる個人差も大きいと言われています。膝関節なら、大腿四頭筋の付着部が遠いところについていたり、膝蓋骨が出っ張っていたりするとモーメントアームは長くなります。

 

 

そして、このモーメントアームが長いほど、効率良く筋力を発揮できることから、スプリンターでは膝関節伸展モーメントアームが長く、その中で足が速い人ほど、膝関節伸展モーメントアームが長かったという報告もなされています。

 

 

 

※Miyakeほか(2017)より作成

 

 

※Miyakeほか(2017)より作成

 

 

※Miyakeほか(2017)より作成

 

 

※Miyakeほか(2017)より作成

 

 

 

しかし、これも筋線維の比率のように、生まれつきによる可能性が高いと考えられます。

 

 

関連記事

・トルク、関節トルクとモーメントアーム

 

・膝のお皿が厚いほど足が速い??―膝関節モーメントアーム長と疾走速度の関係―

 

 

 

拮抗筋の活動抑制

主導筋と拮抗筋

 

例えば、腕を曲げる運動をするとき、上腕二頭筋が縮むことでその力を生み出します。この時の上腕二頭筋のように、その関節運動を主導している筋肉を「主導筋」と言います。

 

 

一方、主導筋とは反対側の筋肉で、主導筋が縮むことにより引き伸ばされる筋肉は「拮抗筋」と呼ばれます。腕を曲げる運動の場合、主導筋は上腕二頭筋で、拮抗筋は裏側にある上腕三頭筋です。

 

 

腕を曲げるとき、上腕二頭筋が収縮しますが、拮抗筋である上腕三頭筋も少しだけ力を発揮しています。これを筋肉の「共縮」と言います。なぜ共縮が起こるのかと言うと、共縮をすることで、関節の運動を微調整し、怪我を防ぐためとも考えられています。

 

 

 

 

 

拮抗筋の働きを抑える

 

主導筋が収縮しているのに、拮抗筋も収縮していては、主導筋の力を効率よく関節運動に変えることができません。そのため、拮抗筋の働きをいかに抑えられるかも、大きな筋力発揮に関係していると考えられています。

 

 

拮抗筋の働きを抑える方法の一つが、シンプルに「その動作を練習する」ことです。スクワットであればスクワットが上手くなる。これは運動単位を同期化させる手段と同様、その動作そのものの上手さに関わることです。

 

 

加えて、拮抗筋をストレッチすることで筋肉をより緩ませ、主導筋の筋力をより効率的に発揮することも可能です。上腕三頭筋をストレッチして弛緩させると、腕を曲げる筋力やパワーは向上しやすいと言われています。

 

 

実際に、ハムストリングをストレッチさせることによって、膝を伸ばす筋力が向上、股関節の屈曲筋や、足関節の背屈に関わる筋肉をストレッチさせることで垂直跳びのパフォーマンスが改善したとの報告もあります(Sandbergほか,2012)。

 

 

 

以上のように、最大筋力を決定する要因は様々です。自分の最大筋力を制限している要因(弱点)は何なのか?または、長所はどこなのかを把握して、トレーニングを考えてみましょう!

 

 

 

 

参考文献

・Maughan, R. J., Watson, J. S., & Weir, J. (1983). Strength and cross‐sectional area of human skeletal muscle. The Journal of physiology, 338(1), 37-49.
・Miyake, Y., Suga, T., Otsuka, M., Tanaka, T., Misaki, J., Kudo, S., ...& Isaka, T. (2017). The knee extensor moment arm is associated with performance in male sprinters. European journal of applied physiology, 117(3),533-539.
・Sandberg, J. B., Wagner, D. R., Willardson, J. M., & Smith, G. A. (2012). Acute effects of antagonist stretching on jump height, torque, and electromyography of agonist musculature. The Journal of Strength & Conditioning Research, 26(5), 1249-1256.

 



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