実はこの膝関節モーメントアームの長さには、膝蓋骨の大きさや、腱の付着部の位置によって、個人差がみられます。
Miyakeほか(2017)は、この膝関節伸展モーメントアーム長や、大腿四頭筋の横断面積とスプリント能力との関係について調べています。
その結果、身長と体重が似たような、スプリンター群と、非スプリンター群で、大腿四頭筋の横断面積、膝関節伸展モーメントアーム長を比較したところ、大腿四頭筋の横断面積にグループ間の差はなかったのに対し、膝関節伸展モーメントアーム長はスプリンター群の方が高い値を示しました。
※Miyakeほか(2017)を基に、筆者作成
また、大腿四頭筋の横断面積と100m走の自己ベスト、加速区間(0-15m)の速度、最高速度区間(15-60m)速度の間には有意な相関関係はありませんでしたが、膝関節伸展モーメントアーム長との間には強い相関関係がみられています。


※Miyakeほか(2017)を基に、筆者作成
このことは、足の速さと大腿四頭筋の太さとの関係性は弱いこと、そして膝関節伸展モーメントアーム長が長い人ほど足が速い可能性が高いということを示しています。
膝関節伸展モーメント長が長いということは、それだけ膝を伸ばす運動の効率が良いということになります。
特に、加速局面で地面を強力に蹴り出す場面や、トップスピード局面で短い接地時間の中でも自分の身体を宙に浮かせるだけの大きな力発揮が必要になる場面で効率的にパワーが生み出せることになります。
これが、膝関節伸展モーメントアーム長と疾走能力との間に強い関係がみられた理由であると考えられます。
このような結果は、スプリンターのタレント発掘などに大きく貢献する知見であると言えるでしょう。
膝の中心から、膝のお皿の下の付着部までの距離が長い、すなわち膝のお皿が分厚い人ほど膝関節モーメントアーム長が長い可能性があります。(腱の付着部などは実際にMRIなどで測ってみなければ正確にはわかりませんが‥‥。)
もちろん、膝関節モーメントアーム長が短いからと言って、100m走の才能が無い、努力してもトップレベルに上り詰めることはできない…ということではありません。
それだけが自身のポテンシャルを決める要因ではありませんし、膝を伸ばす運動効率が悪ければ、しっかりと筋力を高めてあげることでカバーもできるはずです。
長けている部分にも誇りをもって、劣っている部分にも努力して補っていくという姿勢が何よりも大事になると思います。