1時間を超える持久系のスポーツや、運動量の非常に多いサッカーなどの球技スポーツでは、試合前に糖質の多い食事をし、筋肉のグリコーゲンを超回復させることで、持久パフォーマンス改善が見込めます。そのためには、トレーニングによってグリコーゲンを減らすような刺激も重要です。
では、長時間走ったりする持久系の競技ではなく、100m-400m走などの短距離種目、800-(1500m)などの中距離種目など、数秒から数分で終了するような競技では、グリコーゲンローディングは有効なのでしょうか?
グリコーゲンローディングと高強度運動パフォーマンスとの関係
短距離走や中距離走は運動時間が数十秒から数分程度なので、運動中にグリコーゲンが枯渇することはありません。そのため、グリコーゲンローディングの効果が確実に得られるのは、マラソンや50km競歩などの長距離種目とされています。
しかし、試合に向けて練習量を落としていくことで、短距離走、中距離走などの高強度で短時間のパフォーマンスが向上することは広く知られています。
この理由の一つに、試合に向けた調整期間は消費エネルギーが減り、普段と同じ食事をしていても筋グリコーゲンの回復が促されることが挙げられています。結局、短距離走や中距離走においてはグリコーゲンローディングの有効性は不明ですが、「筋グリコーゲン濃度を高く保っておく」ことは、高いパフォーマンスを発揮するために重要なようです。
それはいったいなぜなのでしょう?
短距離走、中距離走において糖は主要なエネルギー源である
短距離走、中距離走での主なエネルギー源は「糖」です。100mや200m走の場合は筋内に蓄えられているクレアチンリン酸というエネルギー源も重要になりますが、糖もメインに使われています。
したがって、特定の距離を速く走り切るためには、糖をたくさん分解して、より多くのエネルギーを短時間で作り出せるようにしておくことが重要になります。実際に、これらの競技で高いパフォーマンスを発揮できた時には、糖を分解する過程で出てくる「乳酸」値が高くなります。
もしも、筋グリコーゲン(糖)が減った状態だと、糖の分解は高まらず、乳酸値を上げることが難しくなってしまいます。そうなると高いパフォーマンスは望めないことはおろか、日々のトレーニングの強度も落ちてしまいます。それは長期的にみると、トレーニング効果を大きく減らすことになり、パフォーマンスダウンにつながります。
巷で、炭水化物を制限するような健康法やダイエットが流行っていたりしますが、そのような食事をしていると、短距離走や中距離走のパフォーマンスは確実に低下します。
とにかく筋グリコーゲン濃度が減っている状態だと、短距離走や中距離走のパフォーマンスは下がってしまうと考えられます。日ごろからしっかり摂取しておくようにしましょう。
結局、グリコーゲンローディングは必要?
ここまでの話をまとめると、短距離走や中距離走において、試合前にグリコーゲンを普段より多く蓄える必要があるかどうかは不明ですが、グリコーゲン不足だと、全力に近いような運動パフォーマンス、トレーニングの質は確実に低下するということです。
では結局、短距離走や中距離走において、グリコーゲンローディングのように、試合前に高糖質の食事を続けることの意味は無いのでしょうか?以下、状況に応じて、グリコーゲンローディングが必要かどうかを考えてみましょう。
1日に何レースも走る場合
複数種目で予選から決勝を走り、かつリレーにも出場、または混成種目に出場するような場合は、一日のエネルギー消費は非常に大きいため、筋グリコーゲンが著しく低下する場合があります。
こういった場合は、グリコーゲンローディングを実施し、普段より筋グリコーゲンを多くしておくことが有利に働く可能性はあるでしょう。これに加えて、競技間にもこまめに糖質を補給しておくことが重要です。
調整期間で練習量が減っている+普段から糖質を意識して摂っている場合
この場合は、練習量が減っており、筋グリコーゲンの消費も少ない状態です。したがって、普段と同じような食事でも、十分に筋グリコーゲンを回復させることはできると考えられます。
ここでさらに糖質量を多くしてしまうと、必要以上に体重が増え、かえってパフォーマンスを損ねてしまう可能性があります。練習試合などでどのような食事のパターンが有効か、何度か試しておく必要があります。
まとめ
・短距離の試合において、グリコーゲンローディングは有効とは言い切れないが、筋グリコーゲン濃度の低下は、短距離走、中距離走のパフォーマンス、トレーニングの効果を低下させる。
・1日にレースが何本も行われる場合は、グリコーゲンローディングによって筋グリコーゲン濃度を高めておくことは有効かもしれない。
・レース前に練習量を落とすことで、グリコーゲンの消費量は減るため、普段から糖質摂取を意識しているなら特に意識はしなくとも、グリコーゲン量は回復すると考えられる。
・普段のトレーニングにおいても、トレーニング効果を上げるためにも糖質をしっかりと摂取しておくことが重要。
|