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第6回「短距離、跳躍、投てき選手が目指すトレーニングピラミッド」

短距離、跳躍、投てき選手が目指すトレーニングピラミッド

前回の記事では、「瞬発系スポーツのパフォーマンスを高めるためには、速筋線維を太くすることが重要だけど、それだけではパフォーマンスUPにはつながらない」という話を紹介しました。

 

~キーポイント~

・筋肉量が多く、最大筋力が高いだけでは意味がない。
・一瞬で、高速で、急ブレーキをかける、そしてバネのような力発揮を高める必要がある。
・とはいえ、筋肉量や最大筋力はそれらの能力の土台となる。

 

前回の記事

 

そこで今回は、これまでの話を基に、短距離・跳躍・投てき選手のパフォーマンスを高めるための「トレーニングの目的地」を整理してみたいと思います。

瞬発系アスリートのトレーニングピラミッド

 

図は、瞬発系競技種目の選手がパフォーマンスを高めるための「トレーニングの目的地」をピラミッド式に表したものです。これは、トレーニングの階層構造とも呼ばれるものです(日本コーチング学会,2017)。

 

まず、瞬発系のアスリートにとって、爆発的なパワーを生み出す原動力となる筋肉のサイズは重要です。ここまで紹介してきた通り、速筋線維の多さは、あらゆる力発揮の根幹になり得ます。

 

しかし、ただ筋肉が大きいだけではパフォーマンスUPにはつながりません。筋肉が大きくなるだけでは、最大筋力や、一瞬で、高速で、バネのような筋力は高まらないことがあるからです。筋肉量を確保したうえで、それらに特異的なトレーニングをしなければなりません。

 

また、そのような特異的な力発揮能力が高まったとしても、実際の競技の動きの中で、それらが発揮できなければ意味がありません。なので、最終的には、競技動作そのものの中で、高いパワーを発揮させる必要があり、それに応じたトレーニングが必要になるというわけです。

 

1つのトレーニングを続けていると、その能力の向上幅は次第に頭打ちしてきます。これを「トレーニングの馴化現象」と言います。その競技種目における技術や、より上位の能力がカンストしている場合は、より下位の能力を高めることに特化したトレーニング期間を設けた方が、パフォーマンス向上への近道になり得ることは多いでしょう。

 

短距離選手のトレーニングピラミッド

 

 

次に、短距離選手に特化したピラミッドを考えてみます。短距離走にはハイパワーだけでなく、持久力も関連するため、筋肉の持久力(主に筋そのものの酸化能力)に関わるミトコンドリアや毛細血管の多さは、その土台になると言えます。
また、筋肉の中にそもそものエネルギー基質が充実しているかも、ハイパワーを発揮できるための土台とみなすことができます。

 

その上で、100m、200m、400m走に特異的な力発揮や持久力を高めてあげることが重要です。そして、実際のレースでそれを発揮できなければ、最終的なパフォーマンスは上がったことにはなりません。

跳躍・投てき選手のトレーニングピラミッド

 

 

跳躍・投てき選手についても同じように考えることができます。この場合、高出力を長い時間維持することが目的とはならないので、ミトコンドリアや毛細血管を増やすという項目は、ピラミッドから除外しています(ただ、トレーニングを効率的に進める上では、持久的なトレーニングが有効に働く場合もあります。しかしそれは手段の手段であって、目的とは言い難いはずです。

 

また、跳躍選手の場合は自身の体重をより高く、遠くに、一瞬で運ぶことが必要になるので、体重比や筋量を増やす部位には細心の注意を払う必要が出てきます(これは短距離も同様)。

 

投てきの場合は、投てき物が重いほど、筋量や最大筋力の貢献度合いが高く、投てき物が軽いほど、スピード筋力の重要性が増すと考えられます。

 

どれも、実際の種目の練習をガシガシやらないと、パフォーマンス向上にはつながりにくく、とはいっても土台が充実していないと高いパフォーマンスは望めません。

 

目的地の行き方は様々で、ここに個々人のトレーニングの違いが出てくる

ここまで紹介してきたトレーニングピラミッドは、「トレーニングの目的地」です。我々の身体がどのように変化していくべきかを示すものであって「トレーニング手段や方法」を示すものではありません。なので、実際にトレーニングを考える際には「この目的地にたどり着きそうな手段・方法」を考えることが必要で、ここには個人の差が大きく出てくることになります。

 

「私はこの方法で上手くいった」という人もいれば、「別の方法で上手くいった」という人もいるのは当然のことですが、トレーニングの目的地は同じです。

 

やみくもにトレーニングして「きついことしているし、強くなれている」気になっているだけでは、本当にその目的地に向かっているかどうかが定かではありません。この目的地に向かっているかという意味での「一貫性」を保ったトレーニングを考えていくべきでしょう。

 

次回からは、トレーニングピラミッドで紹介した「トレーニングの目的地への行き方」、つまり「どういうトレーニングしたらいいのか?」について考えていきます。

 

 

次の記事

 

参照・参考文献

・日本コーチング学会(2017)日本コーチング学会編, コーチング学への招待. 大修館書店.

 

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