なぜ歩行時とスプリント時で、このような違いが生まれるのでしょうか?理由の一つに、下肢の重さや長さ、そして下肢を動かす速度が、上半身を動かすエネルギーと釣り合わなくなることが挙げられます。物理学において、「角運動量保存の法則」というものがあります。
簡単に表現すると、物体にどこからも力が作用しない場合、物体の「一部が回転運動をすると、それとは反対方向に同じ力の分だけ別の部分が回転して、全体の力の変化を抑える」ようなイメージです。
例えば宇宙で人が大の字で浮いているとします。その人が広げた腕を水平に回転させたとすると、下半身を逆回転させて、その場でクルクル回転し続けてしまわないように力を補います。これが角運動量の保存です。
物体は外力が加えられなければ、基本的にその状態がキープされるという慣性力が働いているので、どこかの運動はどこかの運動で補うようになっています。


歩行時は、下半身の回転力を腕や肩の回転力で補うことができます。全力スプリント時は下半身が素早く大きく前後に動きますので、下半身(脚部分)の回転力がかなり大きくなり、腕や肩の回転力だけでは足りず、腰部分まで逆方向に回転させなければならなくなってしまうというわけです。
これが、歩行時とスプリント時では骨盤の動き方が異なる理由の一つです。