100m走のレース中、選手はずっと同じ動作を繰り返しているわけではありません。スタートからの前傾姿勢からトップスピード局面まで身体を徐々に起こしていくというだけでも、大きな疾走動作の変化があると言えます。
それに伴って各関節が生み出す力、パワーが変わってきます。
各局面で必要とされる力、パワーがわかれば、どのような練習、トレーニングをどのような意識で行えば良いか、その材料となるはずでしょう。
用語の理解
・パワー=力×速度
・トルクパワー=トルク×角速度
トルクとは、関節周りに働く回転力のことです。股関節では、股関節を伸展(伸ばす)させる力によって、脚は股関節を中心に伸ばす方向に回転すると言えます。
また、疾走中は力が働いている方向とは逆に脚が動いている場合があります。この場合、トルクの発揮方向に対して、速度はマイナスとなるので、トルクパワーはマイナス、すなわち負のトルクパワーを発揮しているといえます。
回復期における股関節、膝関節の最大トルクの変化
※羽田ほか(2003)より作成
※羽田ほか(2003)より作成
この図は、回復期(脚が地面を離れてから同じ足が接地するまで)に発揮された、一番大きな力(ピークトルク)が10m地点から100m地点までどのように変化するかを表したものです。このように、スタート後の10m地点から、最大スピード局面と変わらないくらいの力を発揮していることがわかります。
これは、スタート直後からすでに股関節や膝関節を曲げたり伸ばしたりする力が非常に重要であることを示しています。
そして、主に股関節を曲げる最大トルクと膝関節を曲げる最大トルクはトップスピードに近づくにつれて少し大きくなり、減速局面で小さくなる傾向があります。
回復期における股関節、膝関節の最大トルクパワーの変化
※羽田ほか(2003)より作成
※羽田ほか(2003)より作成
これは回復期で発揮された股関節と膝関節のパワーの最高値(ピークトルクパワー)が100m走中どのように変化したかを表したものです。
回復期後半の股関節を伸ばす(脚を振り下ろす)方向の正パワーは、スタート直後から最大スピード局面と同じくらい発揮されています。
そして、股関節を曲げる正トルクパワー、膝関節を曲げる負のトルクパワーはスタートからトップスピード局面にかけて徐々に大きくなり、減速局面で小さくなっていきます。
要約
・股関節を伸ばす力、パワー
→ スタートからずっと大事
・股関節を曲げる力、正のパワー
・膝関節を曲げる負のパワー
→トップスピード局面でさらに大事、減速局面でこれらを維持することが大事
これらは→トップスピード向上のために、より必要な要素かもしれない
これらの要素をターゲットにしたトレーニングを考えていくことも有効な戦略といえるでしょう。
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参考文献
・羽田雄一, 阿江通良, & 榎本靖士. (2003). 100m 走における疾走スピードと下肢関節のキネティクスの変化. バイオメカニクス研究, 7(3), 193-205.